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情報部の読み


 その後も週に2,3日は国内のあちこちを適当に移動しては道を整備したり村の人の困りごとを手助けしたりとまさにブライアンが望んでいた生活を送っていた頃、大陸の季節は真冬になっていた。


 グレースランドは恵みの大地と呼ばれるだけあって1年を通じてほとんど気候が変わらないが大陸の北部ではアヤックとサナンダジュが降り積もる雪の中日々攻防を繰り広げていた。


 アヤック側は冬の雪深い季節になれば雪上戦闘経験のないサナンダジュは軍の動きが落ち、それこそ雪崩をうった様に離散していった後でその土地に進出し広大な領地を手に入れあわよくば帝都まで落とそうかという考えだったが、サナンダジュがアヤックの想像以上に粘っており冬季とは言え戦線は殆ど動いていなかった。すなわちアヤック帝国の南侵は当初の目論見通りには進んでいなかったのだ。


 一方サナンダジュは突貫工事で新たに建設した3つの要塞に大量の人員と物資を投入し籠城作戦を取って北から侵攻してくるアヤック軍を食い止めていた。とは言えいつになっても侵攻の手を緩めずに毎日の様に砦に攻撃を仕掛けてくるアヤック軍の戦闘力に手を焼いていた。


 アヤック側はサナンダジュをしぶとい奴らだと話しておればサナンダジュ側はアヤックを執拗に攻撃してくる奴らだと評しておりその結果最初の冬は戦線が動かないまま雪解けの時期を迎える。



「よくぞ一冬耐え抜いた。チャド、ラーム、そしてイワンよ見事じゃ」


「「ありがたきお言葉」」


 積もっていた雪が溶けだしたという報告を受けたサナンダジュ国王。報告に上がった3名の幹部を前にして言った。


「厳しい戦いの日々でしたが何とか敵の侵攻を食い止めることには成功しました。ただこちらの想定以上に武器や食料の消費が激しく。兵士も疲労困憊との連絡が来ております。雪解けのこの機会に要塞の部隊の入れ替えを進言いたします」


 要塞の様子をラームが報告する。


「わかった。イワン、武器食料等補給物資を大至急前線に送るのだ。ラーム、チャド。部隊の入れ替えも許す」


 帝王の指示に頭を下げる3名。それを見ながら帝王が続けて言った。


「春になったらこちらから総攻撃を仕掛ける。準備に入れ」


「「はっ!」」



 

「なるほど。サナンダジュは冬を持ちこたえたか。これはアヤックにとっては大きな計算違いだろう」


「いかにも。ただ防衛したとは言えサナンダジュ側も相当疲弊しておるとの情報もあります」


 グレースランドの王都にある王城で会議が行われていた。参加者は国王陛下、ケビン宰相、アレックス情報部部長、マシュー魔法師団師団長、ワッツ騎士団師団長、そしてこの日は魔法師団副師団長のマーサも参加していた。


「アレックスの手元にある情報ではサナンダジュ軍の武器や食料、兵士等はどうなっておる?」


 ケビン宰相がそう言ってアレックスに顔を向けた。


「今入って来ている情報を申し上げますと、一冬を耐えた兵士は総入れ替えで近々後方より別の兵士が要塞に投入される様だと。あと食料、弾薬等につきましては恐れながら情報が入ってきません」


「そこらは軍の最高機密だろう。簡単に情報が取れるとは思えぬ」


 アレックスの報告の後に国王陛下が言った。自分達の国でも同様だからだ。

 国王陛下はそう言った後で全員を見渡す。


「取り合えずサナンダジュはこの冬は持ちこたえた様だ。つまり彼らの戦争は膠着状態ながら継続中ということになる。そこで我が国の対応だ。前回の会議では最低限の準備はしつつ傍観するという事だったが冬を越えた今はどうだ?新しい意見はあるか?それとも前回の結論の継続か? 遠慮はいらぬ。自由に発言することを許す」


 そう言った陛下は会議室の中央にある大きな椅子にどっかと座り直した。


「アレックス。私の記憶ではサナンダジュ軍は総勢で15万人。うち騎士団が10万人、魔法師団が5万人程度ではなかったかと」


 マシュー魔法師団長が口火を切って発言した。


「その通りです。ただ前回のキリヤートの戦いにて2万の兵力を失っていますので今は13

万人前後ですね」


 ここにいる全員があの戦争でブライアンの魔法一振りでサナンダジュの1割以上の兵士を殺害しているのだと改めて認識する。


「その13万の戦力をベースにして今回の冬季の北方戦線維持は要塞と補給部隊でどれほどの兵士を派遣したのか推測できるか?」


「推測ですが要塞1つにつき約3,000名、3つで9,000名。補給部隊や後方支援部隊などを含めますとおそらくその10倍程度を戦争に送り込んでいると思われますので最大では9万から10万近くの兵士が何らかの形で関与したかと思います」


 ワッツの問いに答えるアレックス。ある程度質問を予想していた様ですらすらと答えてくる。この辺りの対応が国王陛下や宰相から評価が高い理由よねと聞いていたマーサは思っていた。


「13万の内10万程を送り込んだか。それなら前線を維持できたというのも頷ける」


「しかしそれだと兵士の疲労度は半端なく高いでしょう。春になって要塞に詰めている前線の兵士を入れ替えると言ってもそう簡単ではありませんな。数の問題もあれば質の問題もある」


 ケビン宰相の言葉に対してワッツが言った。ワッツの言葉に頷くのは魔法師団の2人とアレックスだ。


 戦争では兵士の数と質のバランスが大事だ。無能がいくらいても勝てはしない。そして全ての兵士は有能ではない。


「まぁそれはお互い様だろう。アヤックも精鋭部隊を送り込んできているだろうしな」


 その通りでしょうと答える宰相。

 そしてそれとは別にその場にいた全員が気が付いたことがある。大勢の兵士を長期間拘束したことによる戦費拡大だ。弾薬は当然だが食料費もかなり嵩む。そしておそらくアヤックも同じ様な経費が掛かっているということになる。


 アレックスがそれを指摘すると大きくうなずいた国王陛下。


「いずれお互いに食料、弾薬が尽きて共倒れの可能性もあるということか?」


「可能性としてはあり得ますが、おそらくその前に手を打ってくることが予想されます」


 その言葉に全員が注目した。アレックス自身も今日の会議で全員に伝えたかったことがこれだ。全員の目が自分に注がれているのを確認してからアレックスが言った。



「サナンダジュより我が国に対して支援要請、もっと具体的に言えばブライアンの手助けの要請があるのではないかと考えております」



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