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北の狐が南進した

サナンダジュ軍2万の兵士がキリヤートとの国境になっているマッケンジー河の北岸で倒されたという話は間諜を通じて北のアヤック帝国にも届いていた。


「2万の兵士が死んだのか。どうやって倒したのかは気になるが。それはこれからの報告を待つとして今度こそ好機到来だ。今のサナンダジュは軍のトップ3名が戦死して組織のまとまりがないはずだ。この機を捉え一気に進軍する」


 帝都の城の中でゲオロギー大帝が言った。


「ベリコフ。直ちに全軍に進軍命令を出せ」


「はっ、畏まりました」


 大帝の指示が魔道具を通じてアヤックとサナンダジュとの国境付近の要塞で待機していたアヤック軍全軍に伝えられた。侵攻開始は今から3日後の三日月の日の朝となった。


 3日後の朝、アヤックとサナンダジュを結んでいる3つの街道の全てで北からアヤックの大軍が進軍してきた。


「敵だ!アヤック軍がやってきたぞ」


 サナンダジュ側の要塞にいた見張りの兵士が大声を上げて鐘を叩くと要塞に詰めている兵士たちが慌てて戦闘の準備をする。それまで何年、いや何十年も要塞にいても毎日が同じ単調な日々を過ごしていて何も起こらなかったサナンダジュ北部一帯がこの日以来戦闘の激戦区となる。


 魔道具の通信で北からアヤックが南侵し、3箇所の街道にある要塞が全て陥落したという報告を聞いたサナンダジュ国王。


「北の狐め。このタイミングで攻めてきおるとは」


 報告を聞いて座っていた立派な椅子から立ち上がって怒りを露わにする。

 そう言った後に謁見の間にいた2人にすぐに指示を出した。


「直ぐに軍を送るのだ。チャド、ラーム。お前達に取っての初陣だ。思い切り敵を倒してこい」


「仰せのままに」


 北から襲いかかってきたアヤック軍は数千人の兵士と魔法使いで構成されておりそれぞれが街道を一気に南下してくるとサナンダジュ側と繋がっている3箇所の要塞を同時に陥落すべく猛攻撃を開始した。まさかアヤックが攻めてくるとは露にも思っていなかったサナンダジュの要塞に詰めていた兵士達。最初は戸惑っていたもののすぐに体制を整えて自軍の要塞でアヤック軍を受け止めようとしたが残念なら兵力の数の差が大きく、最終的には要塞守備隊の責任者が要塞を放棄して撤退することを判断する。


 これは他の要塞でも同様で北のアヤックと通じている3箇所の街道の南側にあるサナンダジュの3つの要塞はアヤック帝国が進軍を開始してから4日後に全てアヤック軍の手に落ちてしまう。


 魔法師団、騎士団のどちらの師団も精鋭部隊と呼ばれた部隊はキリヤートとの国境で全滅している。新しく任命されたチャドとラームは大至急で全部隊と連絡を取りながらそれ以上侵攻を食い止めるべく動き出した。


 幸いにしてサナンダジュ軍は帝国全土のあちこちに部隊を駐留させていた。アヤック帝国が攻撃してきたとの一報を受けてそう時間がたたずに王都から魔道具の通信が入り、国中央部と東部、西部に駐留していた師団が直ぐに北にある3ヶ所の要塞に向かっていった。


「当面南のマッケンジー河は最低限の部隊で良いだろう。彼らが北侵してくる可能性はほとんどないと見ている」


 帝都の師団本部ではチャドとラーム、そして情報部のイワンら今の最高幹部が集まって協議をしていた。既に魔道具で指示を出した部隊は北に向かっているところだ。


 イワンが言うとその通りだなと頷く2人。


「敵に3ヶ所の要塞を抑えられたのは痛いがそれ以上南進させぬ様に現在送り込んでいる部隊以外も北に回そう」


「南の部隊以外の全部隊を北に送るということだな。悪くないと思うぞ」


 ラームの提案にチャドも同意しイワンも了承すると3人は帝王の許可を得てサナンダジュ軍の大部隊を北方に派遣する。アヤックの南進を塞ぎつつ時を見て要塞を取り返す作戦に出た。



 アヤック帝国が南侵してサナンダジュと戦争状態になったという情報は時をおかずにグレースランド王国にも伝わってきた。マシュー、ワッツ、マーサ、そして軍情報部ら王国軍幹部が王城に集まって協議をする。国王陛下とケビン宰相がこの会議に出ていた。


「アヤック帝国は南侵のタイミングを伺っていたということか」


「恐らくそうでしょう。いつでも出撃できる様に準備をしていた様に見受けられます」


 国王陛下の言葉に答えたのはグレースランド情報部の部長のアレックス・カーターだ。国内外の諜報を司っている部隊のトップで普段は滅多に表に出てこないがここに集まっている軍幹部らとは適宜情報交換をしている。


「ついに北の狐が姿を現したということだな。サナンダジュ軍のマッケンジー河での大敗の情報を得てここぞとばかり進軍してきたのだな」


 その通りですと頷くアレックス。国王陛下とアレックスとのやりとりが続く。


「それで我が国への影響はどう見ておる?」


「サナンダジュ軍はマッケンジー河については最低限の規模の守備隊だけ置いて残りは国内に引き返しております。恐らく北の戦場にほとんどの部隊を投入する作戦の様です」


 サナンダジュ国内に送り込んでいる間諜達から魔道具を通じて毎日の様に通信が入ってくる。情報部ではそれらを分析した上で国王陛下はじめ軍のトップに情報として提供していた。


「キリヤートどころではないと言ったところか」


「そうなります。キリヤートは今の所、いや将来にわたってもサナンダジュへの侵攻はないでしょう。方やアヤックは南侵してきた。国の南部は放置してでも北に軍を送る体制になっているものと思われます」


 アレックスの報告を聞いている国王陛下と宰相。


「我が国への影響は?」


 やりとりを聞いていたケビン宰相がアレックスに聞いた。


「当面はないかと。ただサナンダジュが負けると状況は一変します。今はアヤックの軍事力を分析しておるところですが現時点ではサナンダジュがあっさりと負けるとは思えず戦争は長期化すると見ております」


 アレックスは対外的には無名の男だがグレースランド国内では超が付く有能な参謀として国王陛下やケビン宰相から評価されており、その評価については騎士団も魔法師団も異論を挟むことはない。ここにいる全員が彼を信用しており彼の報告に間違いがないのを知っている。


 アレックスはその期待に応えるべくサナンダジュに放っている多くの間諜から集まってきた情報を自分自身で篩にかけ分析をしていた。その結果、緒戦では大きな損害を出したサナンダジュではあるが元々の軍事力が高いこともありそう簡単には国土を失わないだろうということと、失った要塞などのエリアを取り戻すために反攻を開始するのは間違いないと見ていた。


 この戦争は長期化する。


 それがアレックスの出した結論だ。それに合わせてここグレースランドをどうするかについても彼は私案を持っていた。


「キリヤートの国境沿いの要塞、特に一番西北にある要塞の警備を強化する事をお勧めします。当面気にすべきはこの期に乗じてサナンダジュやキリヤート、アヤックからの間諜の入国です。国境警備の強化とサナンダジュの監視という点から今申し上げた方法でとりあえずはよろしいかと」


 アレックスの案はその場で了承された。騎士団と魔法師団は国境にある要塞の兵力を増員することとなりすぐにその手配が始まった。



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