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好意には甘えよう

『マーサ達がやってきたよ』


 朝の鍛錬を終えて庭でフィルはじめ妖精達とのんびりと日向ぼっこをしているとフィルがブライアンの近くに飛んできて言った。


 ブライアンが王都のイーストシティに戻って1ヶ月が過ぎていた


 しばらくするとシアンさんに案内されてマーサとワッツが庭に入ってきた。例によって魔法師団のローブを着ているマーサと騎士の正装をしているワッツ。座っていた庭から立ち上がったブライアン。ワッツとは会っているのでマーサに言った。


「キリヤートから帰ってきたんだね。お疲れ」


 居間のリビングか庭のテーブルかどちらが良いかとブライアンが聞くと今日は天気が良いから庭にしましょうかと言ったマーサの言葉でいま3人は庭にあるテーブルに座っている。テーブルの上にはリリィさんがいれた紅茶と妖精用のペリカの実が入っている皿が置かれている。その皿の周りには何体もの妖精が集まってはペリカの実をとっては庭の高い木々の方に飛んでいっていた。妖精の中には両手で実を持ってブライアンに差し出してくるものもいてその度にありがとうとお礼を言ってペリカの実を受け取っては食べているブライアン。マーサとワッツも座っているすぐ近くに妖精達がいて癒されている様だ。


「ブライアンの家に来ると妖精もいるし気持ちが落ち着くのよ」


「俺もだ。ここに来るといつも妖精を見て癒されているよ」


「自分もそうなんだよ。ここ王都の自宅にいると本当にリラックスできるんだよ」


 紅茶を飲みながらそんな話をしたあと。


「キリヤートとの交渉も終わったのでブライアンには報告しようと思ってね」


 そう言ってマーサが戦闘が終わってから今までの交渉やこれからの対応について話をする。それを黙って聞いているブライアンとワッツ。ワッツも初めて聞く様だ。じっとマーサの話に耳を傾けている。


 マーサの話が終わったそのタイミングを見ていたのかリリィさんが紅茶のおかわりを持ってきて3人に注ぐと家の中に入っていった。


「キリヤートは今回の我々グレースランドの行動、まぁ実際にはブライアン1人だけど。とにかくグレースランドとしてサナンダジュの南侵を食い止めてたという事に対して近々正式な使節団がここイーストシティにやってきて国王陛下にお礼を言うために謁見されるらしいの」


「まさかとは思うがそれには出なくてもいいんだろう?」


 ブライアンが言うとマーサがワッツに顔を向けた。ワッツが頷いてから言った。


「ブライアンについては俺とマシュー師団長の3名で王城に報告に言った際に陛下と宰相がはっきりと言ってくれている。ブライアンはしばらく好きに過ごしてよいとな」


「そう言う事。だからブライアンは出席する必要はないわ。貴方は正式には兵士でもないし出なくても不義理したことにはならないから」


 その言葉を聞いて安心するブライアン。とりあえず戦争関連の行事は勘弁してほしいと思っている。


「じゃあこっちは好きな事をして日々を過ごさせて貰うよ」


「田舎の街を回るの?」


 マーサの言葉にすぐじゃないけどなと言うブライアン。


「とりあえずは気持ちが落ち着くまでは出歩く気はないんだ。故郷のジャスパーには一度帰ろうとは思っているけどね。田舎を回るのはもう少し先の話になるかな」


 マーサは王城のマシュー師団長と面談した時に陛下とブライアンとの話の内容を聞いている。そして国王陛下らと面談をしたその場では言わなかったが後日ブライアンには膨大な報奨金が出されたらしい。それに加えて彼の給金も大きくアップしたとマシュー経由で聞いたマーサ。


「本来なら軍隊を派遣して長期に渡って戦争となればその経費は莫大なものになる。それがブライアン1人でやってのけたからな。今回マーサの交渉でキリヤートからもかなりのお礼が出ただろう?それの一部が彼に還元されているんだよ」


「彼はお金にはあまり執着はない様に見えますけどね」


「その通りだ。とは言え信賞必罰の考え方は崩してはならない。彼も貴族としてそのあたりはわかっているのだろう。ありがたく頂戴しますと受け取っていたよ」


「個人的にはもう彼を戦場には出させたくありませんね。これ以上彼1人だけに背負わせるのは可哀想すぎます」


 その言葉に大きく頷くマシュー。


「わしもマーサと同意見だ。幸いにして向こう5年から7年程はあいつらも南侵してこないだろう。その間に我が国の魔法師団を含めた戦力アップとキリヤート側の魔法使いの育成はしておくべきだな」


 そう言ったマシューが付け加えて言った。


「ブライアンについてはマーサとワッツでしっかりとケアしてやってくれ」


「わかりました」



 そんなやりとりがあった後にこの屋敷にやってきたマーサ。目の前に座っている男は最初にジャスパーの森で会った時からほとんど変わっていない。外見上は今も落ち着いている様に見える。ただ心の中までは見えない。いや見せないと言った方がいいだろう。


 持っている能力は大陸一であることは間違いないがそれをひけらかす事もせず妖精達と一緒に静かに過ごしていたいと思っているブライアン。彼が静かに暮らせるためにも我々軍の資質を上げなければと思うマーサだった。


「それでブライアン」

 

 名前を呼ばれたブライアンは庭の妖精を見ていた顔をテーブルに戻した。


「私もキリヤートから戻ってきてしばらくはここイーストシティ、王都にいるの。その間はまたフィルに魔法を教えて貰ってもいいかしら」


「フィル、いいよな?」


 フィルはテーブルの上のペリカの実にかぶりついていた。


『んぐ。もちろん。マーサの魔力は綺麗だしまだまだ伸びるよ。このフィルがばっちり教えてあげる。でもブライアンまでのレベルは無理だよ』


 ブライアンが今のフィルの言葉を伝えるとお願いしますねと頭を下げるマーサ。任せなさいと小さな腕で胸を叩くフィル。


「お前さ、口を真っ赤にして威張っても威厳がないんだって」


 そう言ってテーブルに置いてある白い布でフィルの口の周りを拭いてやるとフィルの顔がにやけてきた。微笑ましいやりとりを見ているマーサとワッツ。


「ワッツはこれからどうするんだい?」


 フィルの口の周りを丁寧に拭いたブライアンが聞いた。


「相変わらず王城守備隊として城に勤務するだろう。時間がある時はここに顔を出すから話相手になってくれよ」


「それはこっちもお願いしたいところだよ。ワッツやマーサとは気を使わずに話せるからリラックスできるんだ」


「じゃあしょっちゅう顔を出しに来ないとね」


「そう言う事だな。たびたび邪魔するぞ、ブライアン」


 ブライアンがリラックスできるというのであれば出来るだけ協力してやろうと事前に決めていたワッツとマーサ。


 その後もたわいもない雑談をして彼ら2人が自宅を出ていった。屋敷の門まで2人を見送ってから庭のテーブルに戻ってそこに座るとフィルが木々の間から飛んできてブライアンの肩に乗った。


「彼らが気を遣ってくれているのがよくわかる。友人っていいものだな」


 テーブルの上の皿に乗っているペリカの実を1つ掴んでフィルに渡して言った。


『それはブライアンがいい人だからよ。いい人の周りにはいい人が集まってくるのよ』


 早速それを口にするフィル。


「彼らの好意に甘えて良いということかな?」


 ブライアンが言うとその通りだよとフィル。


『頼る時は頼る。頼られるときは頼られる。どちらかに偏っていたらダメだよ』


「そうだな。意地を張っても仕方がないよな」


『そうそう。ブライアンもだいぶわかってきたじゃない』


「フィルの教えがいいからだよ」


 そう言うとそうでしょう。もっと褒めて良いのよというフィル。このフィルもブライアンにとってはなくてはならない友人の1人だ。いや友人というよりもブライアンの最大の理解者と言った方が良いだろう。


「ほらまた口の周りが真っ赤だぞ」


 新しい布巾でフィルの口の周りを拭いてやる。


『えへへ、ありがと』



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