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彼が背負っているもの


 久しぶりに王都の貴族区の中にある自宅に戻ってきたブライアンとフィル。住み込みのお手伝いさんのシアンさんとリリィさんは突然の帰宅にびっくりしたがおかえりなさいと出迎えてくれた。


「また出かけなきゃ行けないんだけどしばらくは家にいますので」


 自宅に戻ると早速庭にある木々の方に飛んでいくフィル。見ていると他の妖精達も姿を表して木々の間を気持ちよさそうに飛んでいるのが目に入ってきた。


 やっぱりここは落ち着く様だな。そう思って自由に飛んでいる妖精達を見ているとリリィさんがお皿いっぱいにペリカの実を乗せて庭にあるテーブルの上に置く。すると木々の間を飛んでいた妖精達が一斉にテーブルに集まってきた。もちろんその先頭で飛んできたのは女王様のフィルだ。


 妖精達が美味しそうにペリカを食べているのを見ているとサナンダジュとキリヤートの戦争なんてあったのかと思いたくなるほどにほのぼのとした光景だ。ブライアンがテーブルの椅子に座っていると何体かの妖精が両手に実を持ってブライアンに勧めてきた。


『♪』


『♪♪』


「ありがとう」


 礼を言ってペリカを食べるブライアン。


『やっぱりこの場所は落ち着くわ』


 口の周りを真っ赤にさせているフィルが言った。


「それはいいんだが見張っている妖精達は大丈夫かい?」


『あっちには2体いてね。ここにいる妖精達と交代で見張っているの。だから気を使わなくても大丈夫よ。それにあっという間に転移できるんだからね』


 フィルの言う通りだ。じゃあ安心だなとリラックスする。

 ペリカの実を食べて満足したフィルが肩に乗ってきた。


『ブライアンは大丈夫よ。フィルはじめ妖精達が付いているからね。間違った事はしていないしするブライアンじゃないって事は妖精が一番よく知っている。今はしっかりと休んで。いずれまた忙しくなるんだから』


「ありがとうな」


 フィルの背中を撫でながら礼を言うブライアン。普段は本当に女王様かよと思うこともあるが本当は優しい心を持っていることをブライアンは知っている。


 そしてフィル自体もブライアン当人には言っていないが気がついていることがあった。


 ブライアンのやさしさは強さの裏返しだと。

 強き者ほど他者に優しい。ブライアンはそれを地でいく人間だ。自分の力の使い道を間違えない様にといつも気を遣っている。優しすぎると言えるかも知れないがそれがブライアンという人間の素晴らしいところだとフィルは分かっている。


 久しぶりに自宅でゆっくりと夜を過ごした翌日、ブライアンは転移の魔法で要塞に飛んだ。マーサやハーツらの出迎えを受けて要塞内の会議室に入ったブライアン。


 王城での国王陛下への報告と受けた指示を彼らに説明する。


「今回は敵とはいえ出来るだけ殺したくなかったんだ。警告のつもりでかなり抑えた魔法にした。説明をしたら陛下も宰相も納得して頂いたよ」


「でもブライアン、陛下や宰相もおっしゃってられた様にそれで納得するサナンダジュじゃないわよ」


 そう言ったマーサに顔を向ける。


「その通り。次は少し本気を出すつもりだよ」


「3回目を諦めるくらいにか?」


 ハーツが聞いてきた。その言葉に頷くと2人を見て言った。


「そうなるな。もう早く終わらせたいという気持ちが強くなってきている。このまま戦争が続いて自分が戦場に参加していたら自分自身がおかしくなりそうな気がするんだ。もちろん再び戦争が始めれば出来ることはする。でもその前に気持ちを一度リセットしたいと思ってるんだ。だから昨日マシューやワッツには話をしたんだよ、少し自宅でのんびりさせてくれってね」


「それがいいわ。サナンダジュだって再侵攻するにしても数ヶ月準備期間はあるでしょうから」


 マーサの言葉に一度リセットすれば大丈夫だと思うと言うブライアン。その言葉を聞いていたマーサ。


 いくら被害が最も少なる方法だとは言え全てをブライアンに託すとは。彼は背負う物が大き過ぎる。周りがしっかりとフォローしてあげないと。と思っていた。奇しくも王都でマシューとワッツが思っていたことと同じことをマーサも思っていた。


 それほどまでにブライアンは皆に好かれていた。その彼が一度リセットして気持ちを切り替えたいと言うのであれば全面的にそれに賛成すべきだと考えている。


「妖精が川の近くで見張ってくれているんだ。川向こうで新たな動きがあったらすぐにまたこの要塞に飛んでくるよ」


「それまでは戦争は忘れてしっかりと休んでリラックスして」


「ありがとう。そうさせてもらうよ」


 要塞のマーサとハーツに説明をし終えたブライアンはじゃあと言って肩にフィルを乗せたままその場から消えた。


 ブライアンがその場から消えるとマーサは部屋にいた全員を見て言った。


「私やハーツはそれぞれの師団に入った時点で戦闘を前提とした訓練を受けてきているし覚悟もできている。ただ彼はそうじゃない。辺境の貴族の次男坊で成人の儀を終えると1人で国を回って困っている人に魔法で手助けしようと考えていたまだ20歳そこそこの若者よ。そんな彼が妖精と通じ合えて強大な魔法を会得したというだけで国と国との争いの矢面に立たされている。実際にこの戦争を抑える事ができるのは彼しかいないというのはわかってる。でも戦力にならない周りの私達にもできることはある。彼のメンタルケアよ。それならここにいる私たちでもできるわ。というかやらないとね」


 マーサの話を黙って聞いていたハーツ。


「マーサの言う通りだ。彼は背負っているものが大きすぎてまだ戸惑っている様に見える。できる限り俺たち周りでフォローしてやろう」


 マーサはハーツに話をした内容を文書に書いて王都の魔法師団に送った。その文書はマシュー師団長、そしてワッツ師団長へと回覧される。その後王都から来た文書ではブライアンのメンタルケア、フォローについては王都でもしっかりとやると書かれていて、その文書の最後にはマシューとワッツの連名の署名が入っていた。



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