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助っ人は1人


 市庁舎の中にいくつかある来客用の応接間の中で最も豪華な部屋、VIP用にあてがわれた部屋で市長のヘイデンは手に持っているグレースランドの公文書とソファの向かい側に座っているブライアン、そしてその肩に乗っている妖精のフィルを交互に見ていた。守備隊の責任者のロックもこの部屋でヘイデンの隣の椅子に座っている。


 この若い魔道士が国を救うだと?肩に乗せているのは妖精だと?1人で魔道士1,000名以上に匹敵するほどの能力の持ち主だと?


 頭の中にいくつも?マークが浮かんでくるヘイデン。グレースランドの公文書がなければ頭のおかしい奴が売り込みに来たと鼻で笑うところだ。いや会ってすらいないだろう。


 ブライアンは部屋に入ると正面に座っているヘイデンが公文書を読み始めると収納から取り出したペリカの実をフィルに与えていた。なので今のフィルは口の周りが真っ赤だ。それを布で拭き取ったブライアンは顔を正面に向けて市長のヘイデンを見る。


「戸惑っておられると思いますが当然ですよね。1人でやってきて手助けしましょうと申し上げているのですから」


『1人じゃないでしょ。私もいるわよ』


 肩に乗っているフィルが何か言った


「失礼しました。1人と妖精ですね。彼女は妖精の女王でフィルという名前です」


『フィルだよ。よろしく』


 ブライアンの肩の上で立ち上がると優雅に一礼をするフィル。見ていたロックとヘイデンとは驚いた表情になる。


「えっと、ブライアン殿は妖精と話ができるのかね?」


「ええ。詳しい経緯は申せませんが彼女と会話ができます。そして妖精から大量の魔力を授かりました」


 そう言ってもまだ半信半疑の表情の2人を見たブライアン。がグレースランドの要塞から戦争開始の瞬間を見ておりサナンダジュ軍がキリヤート軍を蹴散らしてこの領土に入ってきたのを見てからここシムズまで転移を繰り返してやってきたと説明し、


「貴国と我が国の密約も国王陛下並びに宰相から伺っております。その中で ー正式な軍隊よりももっと効果的な方法で攻めてきたサナンダジュを蹴散らすことができる手段を我々は持っているー と我が国のケビン宰相が説明されたかと」


 そのやりとりはヘイデン市長も知っていた。ここはキリヤート北部最大の街で防衛の拠点でもある。キリヤートとグレースランドとのやりとりの内容については全てヘイデンの下に報告が来ていた。今の言葉は外交のトップしか知らないはず。それを目の前の男が知っているということ、そしてこの公文書の内容。


「つまりブライアン殿が貴国のケビン宰相が仰っておられた敵を蹴散らす手段そのものだというのだな」


 その通りですと頷くブライアン。


「残念ながら貴国では魔法使いの数が少ない。その少ない魔法使いは首都防衛に専念していると聞いています。一方でサナンダジュはこの戦いに備えてかなり準備をしてきている様で相当数の魔法使いがいました。彼らの魔法の距離は弓よりも遠いためキリヤート軍は魔法でやられて簡単に橋の防衛が崩れたのだと思います。ただし」


 ただしと言う言葉でブライアンをじっと見るヘイデンとロック。


「橋の向こう側、つまりサナンダジュの領土にいた兵士は騎士も魔法使いも含めてそれほど多くはありませんでした。あの国ならもっと多くの兵士を準備できたはずです」


 彼らは黙ってブライアンの次の言葉を待っている。


「橋にいたのは陽動部隊でしょう。本隊はおそらく船で渡河をしてここに侵攻してくるものと思われます。これは私だけではなく要塞から観察を続けているグレースランド軍の総意でもあります」


「なんと」


 思わず声を出したヘイデン。隣に座っているロックも思わずソファから腰を浮かせた。彼らはまだサナンダジュ侵攻の詳細情報を受け取っていない。


「つまり今この瞬間にも橋を渡ったサナンダジュ軍と、それとは別に船で川を越えて侵入してきた軍の両方がここシムスを目指して侵攻をしているということか?」


 そうなりますとブライアン。ロックによれば軍の進軍速度であれば渡河してからここシムズまでは早くで4日、遅くても6日には到着するだろうということだ。


「おそらく1万近い軍隊がこの街を目指してきていると考えられます」


「1万…とんでもない数だ」


「市長、彼らの目的はこの街ではありません。この街を押さえてから最終的に首都まで進軍しようとしているのですから」


「そうだったな。それにしてもそんな数の軍が押し寄せてきたらこの街はひとたまりもない」


 ヘイデンとロックのやりとりを黙って聞いていたブライアン。


「私とこのフィルでサナンダジュの侵攻を食い止め、彼らを川の向こうに追い返す事ができます」


「なんと!本当か?」


 ブライアンの言葉に大きな声を出して反応したヘイデン市長。隣のロックは声こそ出していないが目を見開いている。1万の軍勢を1人で食い止めるどころか川の向こうに追い返すと言っているブライアンを正気かという目で見ていた。


『私とブライアンなら簡単よ』


「そうだな」


 ブラインは今妖精のフィルが言った言葉を2人に伝えると、


「まずはこの街に結界を張りましょう。それを見て貰えれば私がほら吹きでない事をご理解していただけると思います」


 まだ半信半疑の2人を立たせると市庁舎の外に出たブライアン。来た道を戻ってシムズの城壁まで歩いてきた


「フィル、頼むよ」


『任せなさい』


 そんなやりとりの後ブライアンが持っている杖で地面をトンと叩くとシムズの街全体に結界、それも強固な結界が張られた。


「なんと見事な結界だ」


 目の前に張られた結界は魔法を知らないヘイデンが見ても分厚くて強固なものに見える。隣のロックも


「これほどの結界は見た事がない」


 周辺の兵士も驚きの表情だ。結界を張ったブライアンは


「この結界であれば1万の魔法や武器で襲ってきても大丈夫ですよ」


 そう言ってから自分が考えている作戦を2人に説明する。黙って聞いていた2人は彼の説明が終わると、


「本当に大丈夫なのか?」


 市長のヘイデンが聞いてきた。今の話は荒唐無稽な話にしか聞こえない。


「ええ。問題ありませんね。グレースランド国王陛下よりもしっかり仕事をしてこいと言われていますし何より他国に勝手に入ってくる輩は許せませんからね」


 片やロックは目の前に立っている魔道士を見てこの男なら本当にやりかねないぞと考えを変えていた。最初と違い目の前で強力な結界をこの大きな街全体に張れる男。こいつならやるかもしれないと。


「俺たちはどうすればいいんだ?」


 ヘイデンに続いてロックが聞いた。


「多分何もする必要がないでしょう。サナンダジュ軍が近づいてきた時に市民が動揺しない様に押さえてもらうくらいですかね。あと結界の外には出ない様には徹底してください。この結界の内側は安全ですが外側では命の保証はできませんから」


「わかった」



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