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第8話 かんしょう×きゅうへん

「まったく、若いうちはいいがアレでは今後苦労するぞ」


 苦笑しながらアロ・イラ教官はレージーナを見送り、次いで格納庫の方を振り返る。

 そこには声を張り上げながら出撃準備をする整備チームの面々。

 パイロット科の生徒たちは機体に搭乗しているために姿は見えないが、声だけを聴いても分かる。

 出撃前のチェックリストをこなすのに四苦八苦しているのだ。

 教官としてスコラ・サンクトゥスに赴任してから、新入生が初めて乗り込む時は大体こんなものだ。

 中にはレージーナのように尖った生徒もいるが。


(この中の何人が残る事やら……)


 学校とはいえ、ここは軍人を育てる場所だ。

 座学もそうだが授業には射撃訓練、体術訓練なども含まれているし、カリキュラムが進めば戦場の現実を見せるためのものも当然出てくる。

 毎年多くの生徒が入学し、座学に追いつけない者も出てくるし、訓練時にミスをして怪我をする者も出てくる。そうなれば能力不足や怪我への恐怖心からスコラ・サンクトゥスを去る生徒たちが一定数出てくる。

 中には戦場の現実を受け入れられず、心を病んでしまう者もいる。


(せめて、多く残ってくれることを祈るしかない、というのが歯がゆいな)


 彼女もここの卒業生であり、戦場でステラーコーパスを駆り多くの敵を打ち倒してきた。

 しかしある戦場で敵に撃墜され、負傷のせいで実戦に耐えられないとされて後方任務へと回された。

 その後、ここの教官として働かないかと誘われて、若者たちに操縦技術を叩き込んでいる。


(私に出来ることは厳しく扱くことだ)


 ようやくチェックが終わったのか、一機、また一機とケージから出てくるが、操縦に手一杯で周囲の状況把握が出来ていない。

 機体同士の距離が近づきすぎて機体側が安全のために制動をかけてしまう光景が多々あった。


「落ち着け。まずは番号の若い方から──っ!?」


 恒例行事となっている渋滞を苦笑しながら全体通信で呼びかけている最中に、聞こえるはずのない音がした。

 振り返れば、演習場への隔壁が動いていた。


「総員に通達! その場で停止! メンテナンスケージへ機体を戻せ! パイロットは降りて整備班はケージと機体をロックしろ! 急げ!」


 ケージの通路から身を乗り出してわちゃわちゃしている生徒たちへ命令を下し、勢いよく振り返って隔壁を見やればどんどんと閉じていく。


(──駄目だ! 間に合わん!)


 隔壁が閉じる速度と自分が機体を稼働させる時間が即座に算出され、圧倒的に足りないことがすぐに分かった。


「グラウィス! 機体を停止させて緊急避難! 離れろ!」

〔は!?〕

「さっさとしろ! 緊急事態だ!」


 授業中、しかもこれから機体を演習場に出すと言うタイミングで隔壁が閉じるなどありえない。

 理由は分からない。だがありえないことが起こっているというだけで異常事態なのは確かだ。

 軍人としての経験が生徒たちの安全を優先させる命令を下させた。

 これでポカミスが原因だったり、アロ・イラの心配のしすぎだったらそれで構わない。


〔……了解。離れ──っ!?〕

「グラウィス!?」


 もうすぐ隔壁が閉じようとしたその時、通信機の向こうから息を飲む音と同時に射撃音、次いで爆発音が聞こえ、わずかな隔壁の隙間から砂埃が勢いよく侵入してきた。

 隔壁が閉じると同時にレージーナとの通信が途絶した。


「何が起こっている!? 管制室!」


 ここ演習区画は管制室が統合制御を担当している。

 演習場の環境、隔壁、そしてステラーコーパスの制御すら管制室で行うことが可能だ。

 パイロット科の実習では整備科はもとより、オペレーター科の生徒が管制室で実習を行っている。

 隔壁が勝手に閉まる、というのはシステム障害で誤作動を起こすか、管制室でコマンドを入力するしかありえない。

 さらに言えば、今の時間、ステラーコーパスを稼働させているのはこのクラスのみで、未だ武器の使用許可はおりていない。

 射撃音が聞こえるなどありえない。

 状況を把握するために管制室を呼び出せば、数コールの後に実習を担当する教官が出る──、


 はずだった。


〔やっほー、クソきょうか~ん、げんきー? キャハハハハハっ!〕


 通信に応答したのは、全てを舐め腐った態度の生徒だった。


「貴様……そこで何をしている!?」

〔みてわかんな~い? ばかじゃね?〕


 アロ・イラの怒声にも画面の向こうの生徒は嘲笑を隠そうともせず小馬鹿にする。


〔おら、さっさと映像出せよ。殺しちゃうよ~?〕

〔ひっ、や、やめ〕

〔ならさっさとやれよブス!〕


 画面には写らないがすぐ横に本来のオペレーター科の生徒がいるのだろう。

 その手に熱線銃を持ち、銃口を向けて恫喝する。


「そんなことをして……どうなるか分かっているのか小娘」

〔は? しらね〕


 アロ・イラの額に青筋が浮かび、通信に使っている手帳型端末がびきりと音を立てる。


〔あんたこそウチらにそんな口きいていいの? これ、使っちゃうよ?〕


 もう一人の声が聞こえ、画面に写っている生徒が熱線銃を見せびらかす。

 歯を食いしばり、黙る事しかできなかった。


〔そーそー! だまってりゃいいんだよば~か〕

〔ほら、さっさと放送しな〕

〔は、はいぃ〕

〔キャハハハハハっ! はいぃだってさ!〕


 耳障りな笑い声とともにホロモニターが強制的に立ち上がり、映像を映し出した。


「グラウィス!」


 そこには四機のケントゥリアに追い立てられるレージーナ機の姿があった。

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[良い点] これが二度と起こらないとは想像もできませんし、攻撃を後援している企業が二度と主要なプロジェクトに参加することを許されることはありません. 「素晴らしいショーだ!でも一度しかできない」という…
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