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第7話 きたい×とうじょう

 ステラーコーパス。

 人類が造り上げた、全高十五メートルの人型機動兵器。

 宇宙空間で活動する人類のためのもう一つの体。

 それらが両脇の壁際にズラリと並ぶ様は圧巻の一言に尽きる。

 それぞれの機体は等間隔に並んだメンテナンスケージに固定され、オレンジ色の作業着を着た整備科の生徒たちが声を張り上げながら各部のチェックに余念がない。


「おー」

「すげー」


 その様子にパイロット科の生徒たちはぽけーっと眺めている。


「よし来たなひよっこども!」


 格納庫の様子に見入っていた面々はいきなり声をかけられてビクンっ! と体を跳ねさせると慌てて姿勢を正す。


「ふふん。ばっちり化粧をキメてきたようだな」


 生徒たちを睥睨するのは枯葉色の髪をオールバックにしたマッシブな女。

 身を包むのは連邦宇宙軍のパイロットスーツ。その胸部には槍を持つ戦乙女のエンブレム。

 パイロット科の実技講師、戦技教導官のアロ・イラ教官だ。


「整列!」


 騒がしい格納庫の中でも轟く号令に一同はきっちりと整列する。


「……まぁこんなものか。本来、ここに来たら無駄口を叩かず、直立不動で整列し教官である私を待つのが礼儀だ。分かったか訓練生ども!」

『はい!』

「ふん! 返事はいっちょ前だな!」


 左右に歩きながら生徒一人一人の顔をじっくりと確認する教官の圧に、生徒たちは押されっぱなしだ。


「ほう、専用機持ちの編入生。お前は肝が据わっているな」

「いえ」

「謙遜するな。目を見ればわかる。お前は他の連中とは違って浮ついていない」


 わざわざラティオの目の前に来て顔を近づける教官に、彼女は内心で悲鳴を上げる。

 しかし鼻腔をくすぐる柑橘系の香水にほんのちょっとだけ和む。


「それに、グラウィス」


 今度はレージーナの眼前に立つと、威圧するように見下す。

 レージーナはその圧にも反抗するように教官を睨みつける。


「いいぞ。その調子だ」


 にっ、と笑うと教官はあっさりと下がると再び生徒たちを睥睨できるポジションへと戻り、


「どうだ訓練生? ここが格納庫。そして、ここにあるのがお前たちの相棒となるステラーコーパスたちだ」


 両手を広げて背後の機体群を生徒たちに紹介する。


「ケントゥリア。少々古い機体だが、信頼性は折り紙付きだ。シンプルな機体構造で整備性が良く、外見は不格好だが頑丈で操縦が荒くても作戦行動には支障が出ない。だから──」


「存分に殺りあえる」


 物騒な発言と凶悪な笑みに生徒たちはドン引きだ。


「訓練生、マニュアルは頭に叩き込んできたか!?」

『はい!』

「ようし。私の流儀は習うより慣れろでな。ごちゃごちゃ言葉を使う気はない! 体で覚えてもらう。さっそくだが全員、割り当てられた機体に搭乗! 出撃準備!」


『はい!』


 教官の号令に、生徒たちは一斉に走り出す。

 その表情はいきなりの搭乗に不安げなものがあったが、実際に機体に乗り込んで動かせる期待と興奮に頬を紅潮させていた。


「初めまして。この機体の整備担当チームの者です。これからよろしく」

「初めまして。こちらこそよろしく」


 ラティオが機体にたどり着くと、オレンジ色のツナギを着た整備科の生徒たちがにこやかに迎えてくれた。

 整備科はその名の通りステラーコーパスを始め、軍の装備や車両、艦船に至るまで様々な装備の修理や整備を担当する人材を育成している。

 対応する種類も多く、学科の中でもコースが分かれており、今ここに居るのはSC整備コースの生徒たちだ。

 上級生が主体で動き、一年生はサポートをしつつ現場の実習を行うという体制で授業が行われている。


「しっかり整備はしているから、安心して乗ってね」

「はい」


 ラティオたちは和やかに自己紹介しあう。


(よかった。いい人たちで)

(よかった。いい子で)


 ラティオとしては和気藹々とした雰囲気を好むので、変に癖のある人たちが担当じゃなくてほっとした。

 それは整備チームの方も同じだ。

 チームは担当機体を卒業までしっかりと面倒を見る。つまり、担当機体に割り当てられたパイロットともずっと付き合うことになる訳だ。

 彼女たちだってあまりにも癖があったり、横暴な奴と組むのは御免だ。一回や二回ならば我慢は出来るが、それが年単位ともなればうんざりする。


 卒業して実際に働きだせばそんなことを言ってられないのが現実なのだが、まだ年若い学生にそれを理解させるのも酷と言えよう。


「では、搭乗します」

「パイロット、搭乗! 出撃準備!」


 ヘルメットを抱えたままラティオが敬礼すれば、整備チームが慌ただしく走り出す。

 ステラーコーパスの操縦席はマトリクスと呼ばれ、人で言えば腰部部分に存在する。

 腰部ユニット前部の装甲が下にスライドし、その内側にあるマトリクスユニットがせり出してくる。

 シートへ軽やかに着座し、パーソナルカードをスリットへ差し込む。これがイグニッションキーでもあり、機体の動力が唸りを上げて出力を上げる。


「マトリクス、閉じます!」

「マトリクス閉鎖!」


 コマンドを受け付け、ゆっくりとマトリクスが定位置へと戻り、腰部装甲もスライドしてロックされる。

 闇に閉ざされたのは数秒で、すぐにマトリクス内の壁面が光り、周囲の光景を映し出す。

 ラティオはヘルメットを装着し、ロック。通電したことでヘルメットの機能が動いてバイザー内部にホログラムの文字や記号が踊る。

 全システムが正常に稼働し、ヘルメットの内部にもメインカメラがとらえた外の光景が映し出され、視界の悪さが無くなった。


〔パイロット、聞こえますか?〕

「はい、聞こえます」

〔それでは出撃前チェックを──ってええ!?〕


 整備チームのリーダーがいきなり大声を上げたので何事かと見れば、一機がきびきびとした動きで歩いていくではないか。


「はや」

〔噓でしょ。誰よあれ〕


 *****


「初めまし──」

「そういうのはいらない。馴れ合う気はないから」


 担当整備チームの挨拶をレージーナ・グラウィスはばっさりと切り捨てた。

 いきなりの塩対応にチームの面々の表情が引きつる。

 彼女らとしては成績優秀なレージーナの機体を担当するということもあって張り切っていたし、どうせなら内申点のこともあってレージーナといい関係を続けていけたらいいなと思っていた。

 最初からこれか……。

 全員がそう思った。

 だがまだ挽回はできると思いなおし、


「機体の整備は万全で──」

「当然でしょ。それが仕事なんだから」


 リーダーは泣きたくなった。


「それでは──」

「搭乗するわ。早くして」

「しゅつげきじゅんび~」


 リーダーは半泣きで号令した。

 それを鼻を鳴らして見送ったレージーナはさっさとマトリクスへ身を委ね、手早く出撃前のチェックリストを消化していく。


〔パイロット、聞こえますか?〕

「機体チェック終了。さっさとケージ開けて」

〔え、もう?〕

「グズグズしないで」

〔は、は~い〕


 リーダーは慰められつつも合図して、機体の前面を塞いでいたメンテナンス用の通路を展開させる。


「でるわ」

〔どうぞ~〕


 リーダーの泣き声を無視してレージーナはフットペダルを踏み込んで機体を前進させる。

 ステラーコーパスには先人たちの膨大な稼働データから構築された操縦支援システムが搭載されているため、未熟な学生でもある程度なら格好がつく。

 しかしレージーナはのっそりと動く機体に舌打ちし、ホロメニューを呼び出して機体制御の項目のチェックをどんどん外していく。

 それらは初心者である学生のために設けられた制限であったのだが、彼女にとっては無用のもの。

 制限を取り払われた機体を難なく制御して歩を進める。

 向かうは広大な演習場。


〔ほう、早いなグラウィス〕

「無駄は嫌いなので」

〔結構。では準備運動でもして待っていろ〕

「了解」


 演習場への隔壁にほど近い場所のメンテナンスケージにいた教官ともドライな会話を交わし、レージーナは演習場へ出る。

 そこは一面の荒野。

 乾いた土と、岩場にカモフラージュさせた格納庫しかないだだっ広いだけの場所。


「宇宙軍なら宇宙でやらせなさいよ……っ」


 苛立ちながらも歩を進める。


(こんな所で無駄な時間を使ってる暇なんかないのに)


 機体のセンサーカメラが発光し、演習場の光景を最新のものに更新する。

 苛立つ彼女は気付かない。

 本来なら開いていないはずの別の格納庫の入り口が開いている事に。

 そして、背後の隔壁が閉まり始めたことに。

・ステラーコーパス

ラテン語でステラー=星、コーパス=体。

星の海で活動するための体という意味で命名。


コックピットはラテン語で子宮を意味するマトリクスと呼ばれ、機体の腰部分に位置する。お髭のモ○ルスーツとは違い、内蔵型。

頭部にメインコンピューターがあり、胸部に動力炉を搭載。


操縦席は全天モニターで、ヘルメット内部にも映像が投影されるので視界は良好。


ってか、ロボット物のパイロットたちはモニターが全周囲を映していてもヘルメットしてると視界が狭まって大変じゃなかろうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 実銃を使用し、踏むだけで人を殺すことができるにもかかわらず、現代の軍隊と高校の体育の授業が混在しているように感じます。 この奇妙なコントラストが、私がこのような戦闘学校を楽しむ理由です。 …
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