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第3話 ともだち×せつめい

 スコラ・サンクトゥス。

 ミクスチャ―内部にある連邦宇宙軍の人材育成校は巨大で広大な敷地を持つ。

 未来のエリートを育てる士官養成科、軍の主力であるステラーコーパスの御パイロットを育てるパイロット科、宇宙船を航行させるためのクルーを育てる航宙船舶科、それら機械を十全に運用するための整備クルーを育てる整備科、その他にも情報科、戦略研究科、資材生産科……とにかく多くの学科があり、多くの若者たちが様々な理由でここで教育を受けている。

 生徒数もそうだが学校を運営するための教員であったり、生活する上で必要な施設の運営をする人員なども多くいる。


 まぁ何が言いたいかと言えば、


「で、でかい……」


 施設がやたらとでかくて広いのだ。


「へへ、そう思うよね。私も初めて来たときはびっくりしちゃったよ」


 時刻はお昼。

 今、ラティオは食堂に来ていた。

 入って左手側には壁面に料理の入ったパッケージがズラリと並ぶショーケースがズラリと並び、多くの生徒たちが食べたいものをトレーによそっている。

 右手側には丸テーブル席や長テーブルが数多く設置され、皆が食事を楽しんでいる。

 上を見ればコロニー内照明(日の光)を取り入れるためにガラス張りの天井と、数多くの空気を循環させるシーリングファンが稼働している。

 彼女のいる位置からは見えないが、ショーケースの並ぶ部分の上には二階席もあり、そこにも数多くの生徒たちが食事をしていたりする。

 明るい日差しの中で食事できる素晴らしい空間だ。

 ただし、広すぎた。

 陸上競技場ばりの広さだ。

 ラティオの想像していた食堂というのはもっとこじんまりとしていて、食堂のおばちゃんに料理を提供してもらうタイプだった。

 それがどうだ。

 百メートル以上あるショーケースには一人分に小分けされた料理が何百種類もあって、テーブル席だって数える気にもならない程数多く、食堂内を移動するために床には動く歩道が設置されているのだ。


「え? ここ食堂、だよね?」

「そうだよー」


 口をぱっか~んと開け、何度目かの質問をすれば、一緒に来ていたオルニットは苦笑しながらも肯定する。


「だからいったでしょ? 初めてだとすっごい驚くって」


 実はラティオ、なんとか午前のカリキュラムを終えてから支給された手帳型端末で食堂の位置を検索し、一人で食べようと思っていた。

 前述したようにこじんまりとした食堂だろうし、使用するのに何の苦労もないと思い込んでいたからだ。

 まぁ、休み時間に質あれだけ問攻めにしてきた同級生たちがささっとお昼を食べに教室を出ていってしまったから、という理由もあるが。

 そこで声をかけてくれたのが、自身の一つ前の席のオルニットと、その友人たちだ。

 アミキティア、サールとサーノーの双子の三人もラティオのリアクションに苦笑している。

 ラティオは四人の指導の下、なんとかかんとか本日の昼食を確保することができた。

 ショーケースから料理を取り出すにもパーソナルカードが必要で、さらにはどこに何があるのかも分からない状態だったので、もしこれが一人であったらどれだけ苦労した事か。

 席選びも空席の位置を手帳型端末で探せることも教えてもらい、ふんふんと頷くラティオの反応にクスクス笑う一同。

 動く歩道に乗って無事空席の丸テーブルへ落ち着き、盛大に安堵の息を吐き出す。


「ご飯食べるのにこんな苦労をするとは……」

「あっはは!」

「笑い事じゃないよ……」


 疲れたラティオの様子に、快活に笑うのはアミキティア・ケルサス。ツンツン頭でよく日に焼けた元気が取り柄な少女だ。


「ま、本当なら入学時に説明されるんだけどね。恨むなら編入することになった時期を恨みなさい」

「そんな言わないの~」


 淡白な物言いなのはサール・コンキリオ。

 語尾を伸ばし、ふわふわとしながら窘めるのがサーノー・コンキリオ。

 彼女らは瓜二つの双子で、ぱっと見は区別がつかない顔立ちをしているが、サールがポニーテールに前髪にヘアピン、サーノーは三つ編みにリボンで、よくよく見れば目元や黒子などで違いがある。


「そういえば、なんでウィンクルムさんって──」

「ラティオでいいよ」

「じゃあラティオね!」

「アミ、煩い」

「もうちょっとお静かに~」


 横で食事を楽しんでいた生徒たちに睨まれて頭を下げたが、それが可笑しくて五人で笑い合う。


「ラティオはさ、何でこの時期に編入してきたの?」


 一口大きなカツを頬張って飲み込むと、オルニットがズバリと質問してきた。

 実は休み時間中に質問攻めにあっても、誰もが自分の質問をぶつけるだけでラティオに答えさせる隙も時間も与えなかったからだ。


「んー、本当ならここに来る予定はなかったんだよね」

「そうなの~?」

「うん、急遽決まってね」

「なんで?」


 口の周りをケチャップでベタベタにしたアミキティアが幼子のように聞き返す。

 その様子にサールが少々乱暴な手つきで彼女の口元を拭ってやる。


「会社都合……ってやつになるのかな?」

「いや、なんで疑問形」

「ってかやっぱりラティオって企業組なんだ!?」

「専用機もあるそうですし~、そうですよね~」


 サール、アミキティア、サーノーが怒涛の勢いで喋ってきたがその内容にラティオは首を傾げる。


「企業組? 専用機って?」

「え? そこから!?」


 ここミクスチャ―は多目的実験コロニーだ。

 設立、というか建造には多くの企業が関わっていて、各企業の関連施設や実験区画が多く存在する。

 彼女たちのいるスコラ・サンクトゥスは軍の施設ではあるが、その運営にも企業たちが多く関わっている。


「特にお金」

「世知辛い」


 ぶっちゃけた。

 ただ、運営資金だけではない。

 スコラ・サンクトゥスの多くの設備や教材、その他諸々に企業が関わっている。

 教室の机はA社製、OSはB社製、手帳型端末はC社、制服はD社といった具合に。


「話によると、全部ここで実証データをとってるって」

「実験体?」

「そこまではいかなくとも~」

「いいじゃない。まだ市場に出回ってないものに一足先に触れられるんだから。そういうの嫌な性質?」

「別にそういうのはないかな」


 企業の製品はそこに留まらず、彼女たちの授業で扱う大きな物──ステラーコーパスでさえ企業が関わっている。

 パイロット科で使われているステラーコーパスは一世代前のものではあるが十分に実戦投入可能な代物だ。

 その機体を使い、新素材を使った稼働データをとったり、操縦系のレイアウトや伝達系の変更、UIのデザインのお試しなどが日々行われているという。


「やっぱり実験体?」

「せめてテストパイロットって呼ぼ?」

「あんた実はひねくれてる?」

「まぁまぁ~」


 運営資金を払うから、実証試験を学生を使ってやらせる。

 端的に言えばそういうことだ。


「で、企業組って言うのはそのまんま。企業の関係者が関わっている生徒の事」

「特に重役の娘とか、肝いりの奴とか」

「あたしらは関係ないけどね!」

「わたしたち~一般組ですから~」


 全員が全員、企業の息がかかっている訳ではない、という訳だ。


「で、企業組の連中はお昼は全員揃って昼食会兼報告会兼ミーティングをしているらしく、専用の部屋にいるんだって」


 そこでラティオは周囲をキョロキョロ見回し、


「と、いう事は。ここにいる皆全員?」

「一般組」

「ほえ~」


 ラティオが口をぱっか~んと開けて驚く。

 この食堂には少なく見積もっても百人以上はいる。にも関わらず企業組は他の部屋に集まっているというのだ。

 全部が集まったらどれだけの人数になると言うのか。


「でもでも、ラティオだって会社都合って言ってたから、企業組でしょ!?」

「え、いや、う~ん。別に、そこまでのものでは」


 ラティオは困ったように唸る。


「別に会社の看板背負ってる訳でもないし。ここに来たのは社会勉強とか、ウィスのリハビリとか、フロースの試験とかだし」

「詳しく」

「私の所属? する企業からは私しかここに来てないし、別に天下獲って来い! とか、舐められるな! とか言われてないし、今まで学校とか通ってなかったから社会勉強も兼ねて友達とか作って青春を楽しんでこいって。あと、妹がいるんだけど、その娘がすこし前に怪我しちゃってね。どうせなら設備の整ったところでゆっくりしろと。で、同じように私たちが持ち込んだステラーコーパスの試験もここでゆっくりとやれと」


 意外に重い理由が語られ、四人はなんとも言えない気持ちになった。


「だから」


 けれど、


「こうやって友達ができたのは、嬉しいな」


 はにかみながらそう言われ、全員が照れながらも嬉しそうに笑った。


「これ食べな」

「じゃあこれも!」

「仕方ないわね、食べなさい」

「これもおいしいですよ~」

「え、こんなには食べられないよ!?」


 おかずを提供されて大いに焦る。

スコラ・サンクトゥス。

ラテン語でスコラ=学校、サンクトゥス=神聖な。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ガンダムの新シリーズみたいになるのかな? それがどれほど深いものであるかを理解していない子供たちとの企業スパイと破壊工作の温床. でも、私は楽しい学校生活を望んでいます。
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