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閑話1 えいきょう×はんきょう

フレーバー的な閑話です。

「どう思う?」

「主語を言え」


 とある一室。

 天井の照明がシャンデリアで、室内の調度品が中世を思わせる美術品に彩られているその場所で、七人の少女たちが精緻な花の刺繍が施されたソファや椅子に座り、意見を交換していた。


「あの機体さ。真っ白い、まさに純真無垢な」

「編入生の専用機だろ?」


 一人がリモコンを操作すれば、まるで絵画の額縁のような装飾の施された壁面の大型モニターの映像がチャプターを変え、巨人同士の戦闘を再生し始める。

 それはウィルトス・フロースとケントゥリア四機の演習場での交戦映像だ。


「遠隔誘導兵器なんて時代遅れなものを積むなんて、どうにかしてるよ」


 オルナーティオの起動シーンを見た一人が呆れたようにお菓子を摘まみながらぼやく。


「今の時代、高度な自動迎撃システムがあれば対処は容易だしね」

「ふん、そもそもわたしならマニュアルで撃ち落とせる」

「お、言うね~」


 ケラケラと笑いが起こる。

 続いてホバー移動をしながらの追いかけっこが映し出されると、


「軽量級の機体だから、もっと加速性能はいいと思うんだけどなぁ」

「聞いたこともない企業の造ったやつだからね」

「あら、情報収集が得意なアナタでも聞いたことがないの? それはまた……」

「ボクたちみたいな大企業より技術力が劣るのは当然さ」


 ドッと盛り上がる。

 そうしていると、ウィルトス・フロースが両腕のラディウスグローブを起動させるシーンへ。


「ガンモードとソードモードの切り替えが出来るガントレットねぇ」

「わざわざガントレットにする意味が分からない」

「浪漫でしょ」

「ベイオネットでいいでしょ」

「高速で武器を持ちかえれば問題ない」


 七人がそれぞれ好き勝手に、ウィルトス・フロースに低評価を下していく。


「っていうか、わざわざ専用機を持ち出しておいて、訓練機如きにここまで苦戦する理由は?」

「単純に弱い」

「見てこれ。装甲なんてゴミよ?」

「資金がないんだよ察してやれって」

「この訓練機ってプログラムガチガチのやつでしょう? 初心者用の」

「そうだね。一々動作が遅くて欠伸が出るね」


「こんなのにグラウィス家の娘は負けたのか」


 一人用のソファに座り、香り豊かな紅茶を嗜んでいた一人の言葉に、部屋の雰囲気が変わる。


「ふん、神童だのなんだのと言われて育ったから、慢心したんだろう」

「でも、最初の動きを見るとプログラムを複数カットしてセミマニュアルにはしてるみたいじゃない?」

「ハハハ、その程度なんの意味もないよ」

「そう。たかが四機に防戦一方じゃあね」

「いやー、管制室も占拠されていて、丸腰で武装した複数機相手じゃ分が悪くない?」

「なに? 庇っているの?」

「まっさかー。低能には荷が重いって話さ」

「違いない」


 ハハハ! と再び笑いが起こる。


「次期“女王”候補からは落第だな」

「それも当然だよ。だってあの娘、実戦を経験していないんだから」

「そうそう」

「我々はあの緊張感を経験しているんだ。シミュレーションしかしていない処女に負ける道理はない」


「偉大なる称号は家名ではなく、実力で掴むものだ」


「次期“女王”の座は我らのような強者に相応しい」


「我ら“栄光ある七連星(グローリアスセブン)”に」


「乾杯」


 *****


 室内の中心に大きな円卓が設置されたその部屋でも、十人の少女たちが会話を交わしていた。

 それぞれの前にはホログラムディスプレイが起動していて、演習場での映像が流されている。


「インユリアめ……やってくれたな」

「だから反対だったのよ。あんなケダモノを所属させるのは」

「仕方ないでしょう。上からの命令なのですから」


 インユリアの名が出た瞬間、全員の表情が嫌悪に歪む。


「末席に名を連ねるという意味を教育していなかったの?」

「したが、無駄だったな」

「教育ではなく躾けを施すべきだったな」

「今更言っても詮無いことよ」


 盛大な溜息が吐き出され、場の空気が若干淀んだ気がした。


「それで? 我々はどうすればいいんだ?」

「上からは、インユリアたちの除名と」

「それだけ?」

「わたしたちと今回の騒動は無関係。やったのはあいつらの独断。企業の推薦は解除して、処遇はスコラ・サンクトゥスに任せる」

「トカゲの尻尾切りってやつね」

「子供の言い訳のほうがマシ」


 全員が全員、不満たらたらだ。


「だが奴らもいい仕事をした」

「そうだね。レージーナ・グラウィスの評価を一気に落とした」

「ハハ、それだけは評価できるよ。それだけはね」


 ホログラムディスプレイにレージーナ機が擱座し、泣き叫ぶレージーナの姿が表示されると、それぞれに昏い笑みが浮かんだ。


「こうしてみると、ただの子供だよね」

「この程度で泣き喚くんだ。本当に子供だよ」

「軍人には向いていないことが証明されたわけだ」

「辞めればいいのにね」

「ミクスチャ―全域に知れ渡っているんだから、私なら恥ずかしくて出歩けないわ」

「このまま握りつぶされれば後腐れもないのですがね」


 一頻りレージーナのことを罵り、溜飲を下げて気を落ち着かせる面々だが、ディスプレイにウィルトス・フロースが映ると再度顔を顰めた。


「で、なんだこいつは」

「編入生の持ち込んだ専用機ですよ」

「チッ。私たちが努力の末に手に入れた専用機を最初からもっているなんて……」

「そう怒るな。こんな機体が欲しいのか?」


 ディスプレイに解析したウィルトス・フロースのデータが表示され、失笑が漏れる。


「……なにこれ、低スペックすぎない?」

「装甲の質が悪すぎる」

「出力もそこらの量産機を下回るなんて」

「専用機と言っても、これじゃ私たちの機体とは比べ物にならないわね」


「いくら専用機持ちとは言え、私たちの方が優れている」


「所詮は雑魚を倒しただけだからね」


「目障りになればいつでも潰せる」


「私たち“十列強(じゅうれっきょう)”の敵ではない」


 *****


 広大な星の海を、武装した軍艦が隊列を組んで進んでいく。

 その艦隊の中心、艦隊旗艦の一室にて一人の軍人が拍手喝采しながらテンションを上げていた。


「ハハハハハッ! なるほどなるほど! 我が母校は今日も賑やかだね!」

「数日前の記録映像ですが」

「気分だよ気分」


 勲章を付けた上官は副官のツッコミにすんっ! となって着席した。


「いやまぁ、あそこは今もこんなことをやっているんだね、懐かしい」

「ばばくさい」

「何か言ったかね?」

「いえ何も」


 ジロリと睨んでみるが、副官の表情は変わらない。

 大きく息を吐き、上官は記録映像のスライダーを操作する。

 停止したのは、白いステラーコーパスが膝を着いてマトリクスを開放した直後。擱座した機体のパイロットを白い機体のパイロットが救助するために降りたところだ。


「ああ……こんなところにいたんだね、マイスウィート」


 ヘルメットを脱ぎ、顔を晒した場面を思い切り拡大し、軍の情報部が使う専用ソフトで鮮明にし、将官はうっとりと呟く。

 今時古臭い眼鏡をかけた、黒髪の少女。

 ホログラムディスプレイに顔を近づけ、舐めるように凝視する。


「あぁ……先の要塞攻略で多大なダメージを負ったと報告があったが、元気そうでなによりだぁ」

「気持ち悪いのでやめてもらえます?」

「なんだって?」

「いえなにも」


 睨み続けるが、副官の鉄面皮は一向に変化しない。

 不毛な時間を頭を振って終わらせ、再び将官はディスプレイをねっとりと眺める。


「ふふふ、妹ちゃんも元気なようでなによりだ」

「何故分かるのです?」

「マイスウィートが出撃しているのだ。あの超お姉ちゃん大好きっ娘もいるだろう?」

「あぁ……」


 確信に満ちた上官の言葉になにか思い当たったらしく、目を閉じながら納得した。

 その様子に気分を良くしたのか、クッション性の高い椅子に深く座りなおした上官は顎に手をやりながら副官へ質問する。


「あれから、どうしてマイスウィートが我が母校へ行ったか分かるかね?」

「そうですね。要塞攻略戦において獅子奮迅の活躍をしたウィンクルム特務少尉ですが、機体はブラックボックスを除いてマトリクス以外は全損で、本人も緊張状態が長く続いて消耗しきっていたとの報告がありましたので、良い機会ですからあの新しい機体の慣らしを含めてバカンスがてらスコラ・サンクトゥスに編入したのでは? あの年頃の子には青春が必要ですから」


「私も青春したい!」

「数十年遅い」


 気分を改めるためにサーモマグの紅茶を一気飲みし。


「何故マイスウィートが我が部隊に編入されない?」

「寝言は寝て言ってください。彼女が作戦に参加していたのは本当に特例で、記録上は参加していないことになっているんですよ。彼女の所属は民間企業なんです。貴女がいくら欲しいと言っても栄光ある第一艦隊に入隊させるなんて上が許しませんよ」


 怒涛の口撃に即座に撃破される将官。


「分かってるよぉ……そんなことはぁ……」

「うわ泣いた」


 べそべそと泣き出す普段はクールビューティーな有能艦隊司令を見てドン引く副官。


「よし! 有給をとって母校へ視察だ!」

「行かせるか! その怪しげな仮面とマントを置きなさい!」

「怪しげとは失礼な! 由緒ある変装道具だぞ!」

「そんな恰好で行ったら憲兵がすっ飛んでくわ!」


 怒られた上官はしぶしぶクローゼットに道具を置き、大きく息を吐く。


「やれやれ、私と離れたくないからと我儘を言うなんて……」

「どこからその自信が……?」

「ふふ、辛辣。ベッドではあんなに可愛いのに」

「それは今関係ないでしょ!?」


 流し目を送られた副官の顔は図星を突かれて耳まで真っ赤だ。


「おやおや? どうしたのかね?」


 ニヤニヤ笑いながら煽る上官に対し、部下は反逆に出る。


「こうなったら私の持つ七十二の玩具をもって……」

「増えてる!? また通販で買い込んだな!」

「お覚悟!」


 すったもんだのどったんばったんは、その後、別の部下が入室してくるまで続いた。

こう、口元しか映らない感じで強者ムーブをかますシーンを書きたくて。

ノリと勢いで書いたので詳細な設定はなに一つありません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 暗い話ですが、企業スポンサーがすべてを冷淡に扱う様子を見るのが好きです。 シーンは私たち全員に個人的な愛着を持っている私たちにとって信じられないほどでしたが、ここではそのようなつながりやデ…
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