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第17話 じゅうりん×しゅうそく

 四機と一機の射撃をしながらの追いかけっこが突如として終わる。

 ラティオは射撃を当てる気がなく、さらには調整の意味合いが大きかった。

 逆にインユリアたちは射撃を当てる気満々であったがウィルトス・フロースの動きに翻弄されて外れてしまっていた。


 そのある意味で拮抗していた状況が、ウィルトス・フロースが真横にスライドしたことで変わる。


 速度は変わらずに弧を描くように迂回したウィルトス・フロースがラディウスグローブを追いかけてきた三機の最後尾へ向ける。

 光弾が足下に着弾し、体勢を崩したその機体へ光の刃を出現させて振るう。


〔うわぁぁぁっ!〕


 急接近されたことで対処する腕のないストゥルティの一人が悲鳴を上げるが、ウィルトス・フロースは回転しながら容赦なく右の刃で右腕を斬り飛ばし、そのまま左の刃で右足を斬り、最後に回し蹴りを叩き込んで吹き飛ばして威力を弱めた光弾を胴体に打ち込む。

 安全装置が動いて機体が停止する。


〔なぁっ!?〕


 機体を振り向かせたら仲間がやられていて、驚愕するもう一機だったが、プラズマの光輪となったオルナーティオが飛翔し肩の接続部を切断。

 両腕が離れたことで隙だらけになった胴を光刃が一閃し、最初にやられたのと同じく上半身と下半身が両断された状態で地に倒れ伏す。


〔なめんな!〕


 インユリア機がビームガンを捨て、サイドスカートに格納されていたビームソードを起動させた。

 大きく振りかぶった上段からの斬撃をウィルトス・フロースは滑りながら避けつつソードを持ったマニピュレータを手首から切断する。


〔ひっ〕


 あっさりと武器が失われ、インユリアが息を飲む。

 パイロットの体が硬直すれば、操作がなされず機体は動きを止める。

 そこを見逃さず、ウィルトス・フロースが刃を振るって四肢を鮮やかに切断する。


〔──っ!〕


 一瞬の停滞の後、崩れた積み木のようにインユリア機は地面に倒れ伏した。


「まだやる?」

〔…………ぅ〕


 光刃を付きつけ、問えば通信ウィンドウの向こうでインユリアは呆然とラティオを見ている。

 あっさりと無力化されたことで人を見下したり睨みつけたりする余裕もないらしい。

 余裕があったところで、もう抵抗することも出来ないが。


〔なんで…………管制室は〕

「もう奪還されたよ。じゃなきゃ動けなかったし」

〔ざけんな〕

「ふざけてなんかないよ」


 ラティオからすればふざけているのはインユリアたちの方だ。

 軍の施設でこんなテロまがいのことをするのなんて頭がおかしいとしか思えない。

 もしラティオがステラーコーパスを動かせなかったとして、レージーナを害することに成功したとしよう。

 その後はどうするつもりだったのか。

 初動が遅いとはいえ、ここミクスチャ―には防衛戦力兼治安維持を目的とした警備部が存在する。

 一説には軍の精鋭にも負けない練度を誇ると言うが、真偽はさておいて所属するのは正規の軍人だ。

 初心者用のプログラム構成で一世代前の機体を運用しているインユリアたちとカスタマイズされた現行機体を手足のように操る正規の軍人では勝負にもならない。

 管制室を占拠していると言っても警備部は独立していて、強制的に機体を停止する手段も使えない。

 さらに警備部には歩兵戦力も存在しており、機体から降りればインユリアたちに抵抗する手段がない。

 永遠に機体に乗っていられる訳でもなく、さりとて軍の機体にかなう訳もなく。


「レージーナさえ傷つけられれば後はどうでもいいってこと?」


 まさかと思いつつ問いかければ、


〔ハッ、そうだよ。そいつさえ大人しくいう事聞いてりゃ、それでよかったんだよ〕


 ヘルメットを脱ぎ、投げやりに笑うインユリア。


「なんでよ……なんでそこまで私に突っかかるのよ」


 レージーナがラティオの後ろから問いかける。

 まだインユリアへの恐怖があるのだろう。シートの陰からわずかに顔を出し、声も張りがない。


〔気に入らねぇんだよ。生意気なそのツラが。自分は強いって思い込んでる澄ましたお前が。だからぐちゃぐちゃにしてやりたかった〕

「そんな理由で……」


 レージーナからしてみれば迷惑な事この上ない。

 完全に一方的な隔意だからだ。


「まぁそんなことはもういいよ。貴女はもう終わりだから」

〔……ハッ、そんなことねぇ。アタシはどんな手を使ってももう一度……〕

「終わりだよ」


 冷たく、昏い眼差しをインユリアに向けてラティオは宣言する。


「私の友達に手を出すなら、次は容赦しない」


 インユリアの表情が引きつり、絶句する。

 さすがの彼女でも思い知ったのだ。

 ラティオが本気であることを。


「それに……」


 一度目を閉じ、元のラティオへ戻った彼女が顔を巡らせる。

 そこには──、


〔こちらは警備部所属の機体だ。オイタをした悪ガキどもを引き取りに来た。そこの専用機はすみやかに後退せよ〕


 警備部所属のステラーコーパスが八機、編隊を組んでようやくの登場だ。

 ラティオはゆっくりとウィルトス・フロースを後退させ距離をとる。

 警備部の機体が二機ずつに分かれて擱座したケントゥリアに張り付き、解放された格納庫の隔壁から強化外骨格を纏った空間機動兵を乗せた車両が続々と現れる。


「終わったよ、レージーナ」

「ありがとう。助けに来てくれて。ラティオ」

〔おねーちゃん、わたしもがんばったよ!〕

「ウィスもありがとう。お陰で助かったよ」

〔えへへーほめられたー〕


 部隊が展開していくのを眺めながら、少女たちは緊張から解放されたのであった。


 *****


「インユリア・ジョクラトル! 無駄な抵抗をやめて大人しく機体から出てこい!」


 警備部の呼びかけに、腰部装甲が開いてマトリクスが解放される。

 軍用の完全武装したステラーコーパスが二機、油断なく武装を付きつけ、さらに周囲には強化外骨格を装備した空間機動兵たちで固められている。

 ケントゥリアは四肢を無くし、安全装置のせいで再起動にも時間がかかる。

 インユリアはハッチを開いて外へ身を晒す。

 視線を巡らせれば、他の三機もすでに制圧され、ストゥルティの面々が地べたに這いつくばっているのが見て取れた。

 舌打ちしつつ下を見れば自分に向けられる多数の銃口。


「ハッ」


 鼻で嗤う。

 抵抗は無意味だ。

 これは彼女のなけなしの矜持だ。


「さっさと降りろ!」


 返答代わりに熱線銃を構える。

 空間機動兵たちが身を震わせたが、銃撃はこない。

 どうせなら華々しく銃撃戦でもやってやろうと思ったインユリアは訝しみ、僅かに後退した空間機動兵たちを見てニヤリと嗤う。


(なんだ、軍人でも銃を向けられるのは怖いのか……)


 彼女は自分の手にした凶器に、完全武装した兵士たちが後退ったのをそう考えた。


 相手はプロの軍人で、しかも装備しているのは拳銃型の熱線銃程度なら無力化するコーティングがされた外骨格。さらには拳銃型よりも威力の高い重火器も搭載。さらにさらに、ステラーコーパスという生身ではどうやっても抗えない絶対的存在が二機。

 なのに後退った。

 その理由を勘違いしたインユリア。


 事実を知ったのは、熱線銃を持った手首と後頭部を掴まれてからだ。


「!?」

「随分と好き勝手してくれたな、ジョクラトル?」


 低く、怒りに満ちたその声を放ったのはアロ・イラ教官だった。

 演習場へ突入する警備部の車両に無断で取り付いたアロ・イラ教官はインユリアの背後から機体へよじ登り、こうして彼女を掴んだのだった。


「離せよ!」


 反射的に振り払おうとするがビクともしない。

 インユリアも鍛えてはいるが、アロ・イラ教官はさらにその上を行く。身長も、膂力も。

 ゆっくりと力が入っていき、捕まれた手首と後頭部が軋んでいく。


「がぁ──っ」

「私は生徒には厳しく接するのを信条としていてな」


 痛みに顔を歪めるインユリアを眺めながら銃を下した空間機動兵たち。

 さらにそれをモニター越しに眺めていた警備部のパイロットたちは通信で、


「先輩のアレ、痛いんスよね」

「んだ」


 そんな会話を交わしていた。


「だが、向上心があり、有能な生徒に関しては少しばかり甘くもなる」


 メキメキと力を込めながらウィルトス・フロースを見やる。


「その代わり、馬鹿な連中にくれてやる情けは、ない!」

「あ──っ」


 一気に力が込められ、グイと体が浮かされる。

 不安定な足場で、地に足がつかない状況。さらに締め付けられ続ける痛みでインユリアはパニックに陥る。

 必死に保持していた熱線銃ははるか下へ落下し、鍛えて並みの相手には負ける気がしないと自負していた身体能力も役に立たない。

 なけなしの矜持にひびが入り、


「おしおきだ小娘」


 ブゥン! と大きく体が振り回され、その勢いのままに装甲へ叩きつけられ、顔面と共に彼女の矜持が粉砕された。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あなたの人生を完全に破壊するなんてささいな理由です。ラティオの言うとおりだ。これは価値がありましたか?人生で達成したいことはこれだけですか? 彼らが衝動的で、ひねくれた、ひどい人々であり…
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