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第14話 げどう×ごうまん

「な~にやってんだか」


 四機の巨人がたった一機が乱入してきただけで──銃を突き付けられているだけなのに大きく動いている様がモニターに映し出され、それを冷めた目で少女は見ていた。

 ここは管制室。演習場の全てを司る重要区画だ。

 室内は意外と狭く、壁一面にモニター類が設置されている他はオペレーターシートが数席あるだけの無機質な空間。

 本来ならばパイロット科の演習に合わせてオペレーター科の生徒の実習が行われているはずだった。

 けれど今、オペレーター科の生徒たちは封鎖されたドア横のスペースに集められて座り込んでいた。

 数は六人。高度に電子化され、自動化されたオペレーティングシステムが当たり前の昨今、オペレーターは少人数でのマルチタスクをこなす。だから実習も当然、少人数のチームに別れて行うのだ。

 その中の一人は教官であり、脂汗を流しながら右腕を抑えている。

 生徒たちは不安と恐怖、そして教官を心配すると同時に何もできない無力感に苛まれていた。


 授業が始まる前、いつもと同じく機器のチェックをしていたら突然部外者である二人の生徒が乱入してきた。

 教官が叱責しようと動いたが、突然銃撃されたことでオペレーター科の生徒たちは恐慌状態に陥ったが、恫喝と銃撃に押し黙った。


「はいはい、黙ってろよカスども」

「キャハッ! いたそ~」


 乱入してきたストゥルティの内の二人は銃を見せつけながら一人は全員を一か所に集め、もう一人はオペレーター科の生徒の一人の髪の毛を掴むと乱暴にシートへ座らせた。


「動くなよ? 動けば殺す」

「うっちゃうよ~? ブスがもっとブスになるけどいいよね~」


 まるで世間話をするかのような気軽さで脅し、凶器をちらつかせるような二人。

 オペレーター科の生徒たちは恐怖する。


「あなたたち、一体何の──」

「うっせ」


 右腕に熱線が着弾し、教官は苦悶の声を上げながら倒れる。

 肉の焦げる異臭が広がり、悲鳴を上げるが熱線を乱射されて強制的に黙らされた。


「うっせつったろ」


 乱射された熱線が当たることはなかったが、乱入者たちが人を傷つけることに躊躇がない事をまざまざと見せつけられ、ガタガタと震えながら身を寄せ合う。


「言うこときかなきゃ殺すからね~。キャハハハハハッ!」


 もう一人がシートへ座らせられた生徒のこめかみに銃口を押し付け、恐怖に震える彼女の様子を心底面白そうに嗤う。


 そこからは銃を突きつけられながら命令を唯々諾々と従うしかなかった。


 頼りになるはずの教官は銃撃によって真っ先に無力化されてしまった。

 肉が焼く熱線だからか血は出ていない。が、傷口は焼けただれ、時間が経つにつれて痛みが増していく。

 せめて応急処置をと勇気を出して進言するが、


「じゃあてめーは足な」


 無表情で熱線銃を構えられ、泣きながら懇願し、土下座を強要され、頭を踏みつけられて最後には腹に爪先を叩き込まれたことでオペレーター科の生徒たちは反抗する気力を奪われた。


 シートに座らされた生徒はぐりぐりと熱線銃の銃口を突き付けられたまま、命令通りに震える手でコンソールを操作するしか出来ない。


 そこからは悪夢のような時間だった。


 この時間には使われていないはずの格納庫にアクセスし、指定の機体を起動可能な状態にすることを命じられ、その通りにした。

 隔壁を開け、機体の私的運用を可能にしてしまった。


 ──こんなことを……わたしが……。


 操作しながら、涙を流す。

 真面目に勉強して、将来は軍のオペレーターとして勤務して、故郷の両親を安心させたいと、今までの恩を返そうと思っていたのに。

 こんなテロまがいな行為に加担することになるなんて。


「キャハッ! 泣いてんの? うざ」


 恐怖と罪悪感に苛まれている善良な少女を、銃を持った女は嘲笑う。


 一機のケントゥリアが格納庫から出てきた時、その機体のパイロットを表示させられた。

 名前を確認したら通信機に話かけ、やりとりをした後に隔壁を全閉鎖。他の機体が出てこないようにしろと命じられた。


 ──それじゃ、助けが。


 事前に他の格納庫から四機が演習場へと出撃し、正規の授業を受けるパイロットが乗った一機を残し、それ以外は出てこられないようにする。

 ストゥルティたちがやろうとしている事を把握し、コンソールを操作する手が止まる。


「はやくやれよ~。じゃなきゃ、耳が無くなっちゃうよ~」


 耳に銃口が押し付けられ、少女は心の中で謝罪を繰り返しながら隔壁の閉鎖コマンドを打ち込む。


 それを合図として、四機が動いた。

 手にはライフルを持ち、害意がありありと見える。

 狙われた一機は非武装。


 ──ごめんなさい。


 心の中で謝罪し、どうか逃げ切ってくれと強く祈る。


 射撃を受けながら回避行動をとる一機を見つめる。


「あ~? にげんのはうまいな~」

「おい、緊急停止かけろ」

「なにそれ?」

「こっちから機能停止できる。そうなりゃあのクソ女はなにもできない」

「うはっ、おもしろそ~。ほれはやく!」


 こいつらは、人間なのか?

 人の皮を被った化け物なんじゃないか。

 吐き気が込み上げてくるが、自分を害する凶器をちらつかせられ、レージーナ・グラウィスの機体ステータス画面を呼び出す。

 ステータスフィギュアに搭乗しているパイロットの画像、そして右下に緊急停止ボタンが表示される。

 緊急停止コマンドは本来、操作を誤って暴走した機体を止めるために使う物だ。生徒の安全のために。パイロットを守るために。

 それを、害するために使うなど。

 緊張と恐怖で呼吸が荒くなる。


 レージーナ機が射撃を受けて転倒した。


 オペレーター科の生徒たちは息を飲み、ストゥルティの二人は歓声を上げる。


 機体ステータス画面には安全装置が作動し、動力炉からのエネルギーラインが閉鎖されていると表示されたいた。


「お、つかわなくてもよくね?」

「どうだか」


 自分が操作せずとも良い。

 そのことに安堵した。

 ほんの僅かに気を抜いたその時、機体が再起動を果たす。


 スラスターを噴かせ、果敢にも立ち向かうレージーナ機に心を動かされ、勇気を奮い立たせようとした瞬間。


 緊急停止ボタンが嘲笑と共に押された。


 空中に無理矢理浮いた機体が力を失い、地面に叩きつけられ。転がっていく。


 緊急停止されてしまえば、教官権限を使って管制室で再起動の許可を出さない限り、機体は動くことはない。


 そこからはもう目を背けたくなる光景が続いた。


 聞いているだけで気が狂いそうなインユリアの嘲笑、罵倒。動かない機体への追い打ち。

 さらには無理矢理装甲を剥がし、マトリクスを露出させようとする凶行。


 まだ緊急用のバッテリーは残っている。


 マトリクスを管制室側からのコマンドで開放しろと銃を突きつけられる。


 けれど、先程のレージーナの行動に勇気を貰った彼女はそれを拒否した。

 勢いよくストゥルティの一人に向かって叫んだ。


 返答は銃撃。


 ただ、放たれた熱線は壁を穿つ。


 勢いよく立ち向かったものの、目の前に銃口があって咄嗟にのけ反った結果、椅子ごと後ろに倒れてしまい、外れはしたものの背中を強く打ってもだえ苦しむ羽目になったが。


 そんな彼女を冷めた目で見やり、ストゥルティの一人はマトリクスの解放させるボタンをタップした。


 これで終わりだった。

 後はインユリアがレージーナを殺せば。


 それなのに、新手が来た。

 白く美しいステラーコーパス。

 見た事もない機体。それはつまり、企業が造った専用機。

 ライフルと比べれば玩具のようなビームガンを手に、颯爽と現れた。


 インユリアたちは何故かレージーナ機から離れ、傍から見ると遊んでいるようにしか見えない動きをして、新手がレージーナを救出するまで何もしなかった。


「……ばかじゃね?」


 心底つまらなさそうに呟いたストゥルティの一人。

 彼女は享楽的で、とにかく刺激を求めている。

 刺激になるのならなんでもやる。

 暴力を振るうことも、人を貶めることも、窃盗、売春、違法ギリギリの薬物にも手を染めることを厭わない。

 今回のレージーナ襲撃には大いに関心を寄せていた。

 本物の銃も手に入ったし、自分は直接手を出せないが、小生意気な小娘の手足をもぎ取って最後に握りつぶすという計画を聞いてテンションが爆上がりしたし、それをミクスチャ―全てに生放送するなんて最高に楽しそうだと嬉々としてこの計画に参加したのだ。


 それが、邪魔者が突然しゃしゃり出てきて最高に面白い娯楽に水を差した。


 衝動のままにコンソールを蹴りつける。


「どうした?」

「じゃまだなぁ……じゃまだなぁ……じゃまだなぁ! あの白いのぉ!」


 突然の行動に、人質に銃を突き付けていたもう一人が訝し気に問いかけるが、答える気がないらしくモニターを睨みながらブツブツと何かを呟いている。


「でかい口たたいてこれかよ。インユリアって思ったよりつかえねー」


 心底呆れたような口調でインユリアに対しての文句を言い放つ。


「ならアタシが面白くしてやんねーとな」


 キャハッ! と嗤い、拡声器のスイッチを入れた。


「お~い、そこの白いの。動くなよ? 動いたらここの奴ら、ぶっ殺しちゃうぞ?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 制御室の生徒たちと彼らのインストラクター、そして私の神に何が起こったのか、私は恐れていましたが、これは恐ろしいことです.おそらく将来、学校でもピストルの持ち方や身を守る方法を学ばなければな…
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