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第9話 こんわく×きょうしゅう

〔グラウィス! 機体を停止させて緊急避難! 離れろ!〕

「は!?」


 いきなりの通信にさしものレージーナも驚きを隠せなかった。

 何かあったのかと振り返れば、隔壁が閉まっていくのが見えた。


〔さっさとしろ! 緊急事態だ!〕


 切羽詰まった教官の声に何が起こったのか分からないレージーナは大人しく従った方がいいと判断。


「……了解。離れ──っ!?」

〔グラウィス!?〕


 機体を降りようとしたその瞬間、警告音が鳴り響く。視界には右手側に赤い矢印が点滅していて、そちらから脅威が迫っている事を示していた。

 同時に衝撃が来た。

 マトリクス周囲には衝撃吸収機構が張り巡らされており、パイロットスーツにも搭載されている。

 やってきた衝撃は微々たるものだが、想定外のものにレージーナの反応が遅れる。

 機体が制御されず、轟音を立てて地面に倒れ伏す。

 本来なら自動制御で転倒を防ぐのだがその機能を解除していたのが仇となった。


「──なんなのよ一体!?」


 カメラを巡らせれば、ライフルを構えてこちらへホバー移動してくるケントゥリアが四機。


「!?」


 警告音。

 ロックオンされた。

 レージーナは脊髄反射で操作し、スラスターを全開で噴射する。

 一瞬の停滞の後に機体が地面を滑るが、放たれたビームが着弾する。

 コンソール中央に表示された機体をデフォルメしたステータスフィギュアを見やれば右腕は黄色に染まり、左腕は肩が黄色、腕は黒く染まっていた。

 黄色は被弾し、機能が低下していることを表し、黒は機能停止を意味している。


「──っ!」


 いきなりの射撃。

 何が起こっているか分からないという混乱。

 なにより死ぬかもしれないという恐怖がレージーナを駆り立てる。

 機体を地面に擦り付けたまま大きく弧を描くように移動する。

 意図したわけではない。逃げなければと強くフットペダルを踏み、シートに座りながら体を傾けているせいで利き腕側のレバーが大きく引かれていたせいだ。

 しかしそれが功を奏した。

 スラスターでの移動によってケントゥリアの火器管制はレージーナ機をロックするのに時間がかかり、さらに巻き上げた土埃が目くらましになっていた。


〔くそがぁっ! 逃げてんじゃねぇぞレージーナァッ!〕


 通信機越しの怒声に、レージーナは我に返った。


「その声……」

〔アタシだよ、レージーナ・グラウィス〕


 驚愕のあまり体から力が抜けてフットペダルを踏む足が緩む。

 噴射が止まり、がりがりと音を立てて機体が停止した。


「インユリア……」


 応えるように映像通信ウィンドウが開き、歯を剥き出しにして嗤うインユリアが映し出された。


「お前! なにを!?」

〔はぁ? 決まってんだろぉ? テメェをぶっ殺すのさぁ!〕


 正気じゃない!

 レージーナは再びスラスターを吹かして機体を引き起こしながら横へスライドする。

 そこへビームが叩き込まれ爆発が起きる。


〔そうこなくちゃなぁ! 楽しくねぇよ! テメェら! 狩り立てな!〕


 インユリアの号令と共に僚機たちが一斉にスラスターを噴射してレージーナ機を追い始める。

 三機は逆三角形の隊形をとってライフルを構える。

 ライフルの照準用レーザーが機体に当たるたびに警告音がマトリクス内に響き、レージーナの精神を削っていく。


「~~~~~~~~っ!」


 声にならない呻きを漏らしながら必死に機体を制御してジグザグに動く。

 ステラーコーパスの火器管制はほぼ自動制御だ。手動で狙いを定めるなど軍でも一握りの精鋭くらいしかやらない。

 自動捕捉が完了するには数秒ほど照準器に相手を捉え続けなければならない。

 こうしてジグザグに動くことで捕捉される危険性を減らし、生存性を上げる。

 教本通りの動きだ。

 だが、ビームライフル──というより銃火器というものは別にロックオンしなければ撃てないわけではない。

 トリガーを引けば、弾は出るのだ。


〔ほらほらぁっ! どうしたよぉ! 逃げてばかりかよ成績優秀者ぁっ!?〕


 機体の周囲が爆発していく。

 四丁のライフルから放たれる加速された粒子が横殴りの雨のようにレージーナへと襲い掛かる。


「っざけるな! こんな事をして! 何なのよ!?」

〔はぁ!? きこえねぇなぁ!〕


 未だに表示されっぱなしだったインユリアとの映像通信。

 嘲りと暴力に興奮した見るに堪えないその表情に、焦りと混乱に支配されていたレージーナの頭が一気に冷えていく。


(殺す。こいつだけは)


 冷静さを取り戻し、ようやく周囲の状況を見渡せる余裕を取り戻せた彼女は視線を巡らせる。

 演習場の地図は事前に頭に叩き込んでいる。

 現在地を頭の中の三次元マップと照合。

 機体のステータスを把握。

 そして、自分の磨いてきた技術を思い出す。


「!」


 ジグザグの機動から一気に横へ大きくスライドさせる。

 スラスターは全開。


〔逃げんじゃねぇっていってんだろぉが!〕


 大きく距離をとられたのが癇に障ったのか四機とも追ってくる。


(そう。来なさい)


 レージーナは実戦を想定して訓練を積んできた。

 シミュレーターの難易度は常に最高難易度を選び、様々な状況にも対応できるよう縛りを設けて時間の許す限り自らを鍛え上げた。

 今回の状況もそうだ。

 こちらは武器なし。敵機は装備あり。

 シミュレーターでは自機がもっと不利で、敵機にはミサイルやより威力のある武装を装備させた状態のプログラムでさえクリアしたことがある。


「だから……出来る!」

〔命乞いをかぁっ!?〕

「舐めるなぁっ!」


 機体を急反転。衝撃吸収機構ですら抑えきれないGがレージーナに襲い掛かるが、気合でそれをこらえる。

 そのままスラスターを噴射して一気にインユリア機へと肉薄する。


 〔!?〕


 お互いが加速していたせいでインユリアの思った以上に早く接近され、ロックオンしたにも関わらず驚愕のためにトリガーを引くのが遅れた。


 レージーナ機が跳躍するために機体をわずかに沈みこませる。


(このまま一気に──っ)


 レージーナの頭の中ではこのまま交錯する瞬間に飛び蹴りをかまし、一矢報いる光景がはっきりと思い浮かんでいた。


 だが。


〔アタシら忘れんじゃねぇよ!〕

「づぅ!?」


 ビームが胸部装甲を爆ぜさせ、衝撃によって一気に機体が傾いていく。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] シミュレーターとレージーナさんがそれらすべてをプレイしているというこの言及は現実的です。 正当化のタイミングが都合が悪いと言う人もいるかもしれませんが、私はこのままでいいと思っています…
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