漫才「ブラックジョーク」
ボ=ボケ
ツ=ツッコミ
二人「みなさんこんにちはー」
ボ「早速ですが」
ツ「何でしょう」
ボ「夢は何ですか」
ツ「夢?」
ボ「はい」
ツ「夢ねぇ。宝くじが当たると良いなぁ、なんてね。ははは」
ボ「でしたら国会議員を目指せば良いのでは?」
ツ「国会議員? 国会議員と宝くじって何か関係あるの? というかブラックジョーク的な話なら止めてね」
ボ「当選すれば次の選挙までは働かずとも給料が貰えるんですよ」
ツ「だからそういうブラックジョークは怖いからやめろ!」
ボ「不労所得が貰えるし参議院議員なら6年は安泰です」
ツ「議員歳費を不労所得って呼ぶのはやめろ!」
ボ「そんなに言うなら早期解散の心配はあるけど衆議院議員でもいいですよ!」
ツ「何で逆切れしてんの? つうかどんな目線で言ってんの?」
ボ「そういえば衆議院の任期って4年じゃないですか?」
ツ「知りませんけどそうなんですか?」
ボ「ええ。総理大臣が議会の解散をしなければ最長4年は安泰です」
ツ「だから安泰とか言うな!」
ボ「で、選挙で当選した後の初めての議会召集日に総理大臣が『衆議院を解散します!』なんて言ったらどうなるんですか?」
ツ「さぁ、恥ずかしながら議会の仕組等はよく知らないんですよねぇ」
ボ「次の日から無職になるのかなぁ。その際には1日分の給与しか貰えないんですか? それとも1か月分の給与が貰えるんですか? というかいつから議員扱いなんですか? 当選したその翌日からですか? なら当選翌日から給与対象になるんですか?」
ツ「知らないっての」
ボ「ボーナスは貰えるんですか? 他の手当はどうなるんですか?」
ツ「だから知らないっての。つうかそういうブラックジョーク的な話は怖いから止めて欲しいんですけど」
ボ「政治に興味無いんですか?」
ツ「興味が無いとまでは言わないけど……まあ、言い方は悪いけど『勝手にやってくれ』って感じですかねぇ」
ボ「確かに好き勝手やってますね」
ツ「止めろ!」
ボ「は?」
ツ「そういう発言は止めろっての! というか何で政治の話なの? 夢の話でしょ?」
ボ「政治家になるのが夢なんですよね?」
ツ「そんな事は一言も言ってない!」
ボ「そうでしたっけ?」
ツ「そうですよ。じゃあ、私からも聞くけど君はどうなの? 夢はあるの?」
ボ「私ですか?」
ツ「はい」
ボ「俺は東大に入ってクイズ王になるんだぁ!」
ツ「何の話?」
ボ「いや聞かれると思ってなかったので咄嗟に思い付いた事を口にしてみました」
ツ「自分が質問した事と同じ事を聞かれるのはよくある事じゃないですか?」
ボ「なるほど」
ツ「で、どうですか?」
ボ「う~ん、そうですねぇ。言ってみれば芸人になる事が夢だったから、芸人になった後の事は考えてませんでしたねぇ」
ツ「ああ、なるほど。私も漫才で人を笑わせたいと、そしてそれを生業に出来たら良いなぁと、それが夢というか目標だったからその先の事は考えていなかったなぁ。というか君は何で漫才をやろうと思ったの?」
ボ「姉が勝手に応募して」
ツ「そんな話、昔のアイドルでよくあったね。つうか君にお姉さん居ないよね?」
ボ「ああ、母でした」
ツ「何でそんな分かりやすい嘘を」
ボ「母より姉って言った方が格好良いかなぁと思って」
ツ「つうか本当にお母さんが応募したの? どこに?」
ボ「すいません、全部ウソです」
ツ「何でそんな嘘つくの? あんまウソばっか付いてるといつか訴えられちゃいますよ?」
ボ「黙秘します」
ツ「今ここで黙秘する理由が分からないけれども、その文言を使ってる時点で何らかの罪を認めちゃってるって事とほぼ同義だよね?」
ボ「弁護士と相談してから話します」
ツ「法的にはどうであれ、その文言も完全に罪を認めちゃってるって事とほぼ同義だよね? つうか弁護士ってどういう事? 何かとんでもない事を隠してるの?」
ボ「僕は浮気なんかしてません! あ、思わず口走ってしまった」
ツ「うわ、何かベタな展開」
ボ「これ以上の事は弁護士が来てからでないと話せません」
ツ「それは君の奥さんに言って下さい」
ボ「弁護士を呼んでください」
ツ「今は漫才中なので呼べません」
ボ「これだから日本の警察は。いったい何時まで密室での取り調べをするつもりなんですか!」
ツ「ここは取調室じゃなくて舞台の上であり公開の場であり目の前には大勢のお客さんという衆人監視の場であり密室などではありません」
ボ「おお! こんなに傍聴人がいたとは」
ツ「ここは裁判所でなく舞台なので『傍聴人』で無く『お客さん』と言って下さい」
ボ「では司法取引をお願いします」
ツ「いや、浮気という至極個人的な事由に対し刑法での取り締まりは無いので必然司法取引などもありません」
ボ「じゃあ僕の事は誰が守ってくれるんですか!」
ツ「奥さんに命狙われてるの? まあ浮気が原因となれば誰も守ってくれないのでは?」
ボ「これだからこの国は何時まで経っても……」
ツ「浮気した君がそんな事をいうの?」
ボ「やはり国会議員になるしかないな!」
ツ「またその話に戻るの? というか何故に国会議員になる必要があるの?」
ボ「議員になりさえすれば議員でいる間は安全なんですよね?」
ツ「何か曲解が激し過ぎますね」
ボ「『私は一切知りません』で通せばいいんですよね?」
ツ「だからそういうブラックジョーク的な事は云わないで下さい。それに議員のスキャンダルについては世間の目はより一層厳しいですよ?」
ボ「秘書が勝手にやった事ですので知りませんし聞いてもいませんでした」
ツ「秘書が忖度でもして君の代わりに浮気したとでも? というか先程から話を聞いていれば君が真犯人である事は明白だと思いますが?」
ボ「弁護士を呼んでください!」
ツ「だから呼べませんって」
ボ「あ! 良い事思い付いた! 弁護士になればいいんだ!」
ツ「弁護士になる? 弁護士になってどうするんですか?」
ボ「自分で自分を弁護すればいいんですよ!」
ツ「浮気した自分を自らが弁護するって事ですか?」
ボ「そうです!」
ツ「それってそもそも弁護士になる必要ありますか? 浮気した自分を守る為に自らの口で以って弁解するのは至極一般的な対応だと思いますが?」
ボ「本人も反省しているので情状酌量を求めます」
ツ「それは私でなく君の奥さんに直接言って下さい」
ボ「君を証人として僕の家に召喚します」
ツ「は? 何で私が? つうか何の証人?」
ボ「君の奥様も召喚します」
ツ「何で?」
ボ「コンビですので連座制です」
ツ「君の浮気に私も巻き込まれるんですか?!」
ボ「悔しいですか?」
ツ「悔しいというより嫌ですよ」
ボ「ならその悔しさを解決する方法があります」
ツ「単に君が私を巻き込まなければ良いだけなんですが?」
ボ「解決方法を聞きたいですか?」
ツ「は? まあ、折角だから聞かせて下さい」
ボ「君も浮気すれば良いのですよ。そうすれば君も問答無用で当事者となる事が出来ます!」
ツ「おお! って、そんなの望んで無いし解決どころか被疑者が増えてるじゃないですか!」
ボ「コンビ揃って被告人ですね」
ツ「何を嬉しそうに言ってるんですか!」
ボ「仮の話、してない浮気を疑われたら浮気する権利が貰えるんですかね?」
ツ「何だよその話は! そもそも私は疑われてないから!」
ボ「なるほど。じゃあ、もしも僕が君の奥さんも出廷する法廷で以って『相方も一緒に浮気してました』と言ったら、果たしてどうなるでしょうか?」
ツ「何!?」
ボ「君はその場で以って無実を証明できますか?」
ツ「私は浮気なんかしてませんよ!」
ボ「ですからそれを論理的に証明できますか? 過去から今現在に至るまで自らを一点の曇りも無い清廉潔白な存在だと論理的に証明できますか?」
ツ「くっ! 何て汚い真似を! 過去が綺麗ではない事を知っている癖にそんな事をいうなんて、それは脅迫と同じだ!」
ボ「もう一度聞きます。君は自らを清廉潔白な存在だと言えますか?」
ツ「くっ!」
ボ「どうですか?」
ツ「……」
ボ「どうですか?」
ツ「あの……今度奢るので穏便に……」
ボ「買収ですか?」
ツ「いや買収って……」
ボ「裁判長! 私買収されましたっ!」
ツ「ちょっと! 私達コンビでしょ? 連座制なんでしょ? 一蓮托生でしょ?」
ボ「僕は彼の事は知りません。今日初めてここで会いました」
ツ「異議有り! コンビとして舞台の上に立っているのに初対面なんてありえません。よって彼は法廷で虚偽の発言をしました!」
ボ「ジョークですよ、ジョーク」
ツ「相方を売るようなジョークは控えて欲しいんですが」
ボ「では改めて立候補の件についてですが」
ツ「その話まだ続くの?」
ボ「君も立候補しませんか?」
ツ「しませんよ!」
ボ「政治家になって変えましょう!」
ツ「変えるって何を?」
ボ「お笑い業界です」
ツ「政治の力でお笑い業界を変えるんですか?」
ボ「ええ」
ツ「具体的には何をするんですか?」
ボ「『私達が一番面白い』という法律を作るんです!」
ツ「は? 何それ? どんな法律なの?」
ボ「私達よりも面白い人は現れてはならないという法です」
ツ「現れたらどうなるんですか?」
ボ「即逮捕ですよ」
ツ「た、逮捕?! 何の罪で!?」
ボ「だから『私達が一番面白い法違反』です」
ツ「それってお笑い業界では無く私達だけの保身、というか独裁になってませんか? ダメでしょそんなの」
ボ「どうやら反対のようですねぇ」
ツ「そりゃ反対しますよ。独裁が過ぎるでしょ」
ボ「そうですか。じゃあ別の方法を考えましょう」
ツ「それが良いと思います。で、どうします?」
ボ「立候補します! そして当選した暁には法律を作ります!」
ツ「そこは同じか。で、今度はどんな法律を作る気ですか?」
ボ「『僕の冗談を必ず笑わなければならない』という法律です」
ツ「またもや独裁的な法律! しかし先の法律よりはマイルドか……。因みにそれは相方である私には適用されませんよね?」
ボ「適用されるに決まってるじゃないですか」
ツ「それは厳し過ぎる!」
ボ「全ての国民は法の下に平等であるべきです」
ツ「うぬぬぬ! だったら私も立候補して法律を作ります!」
ボ「ほほー。で、どんな法律を作る気ですか?」
ツ「『ボケ担当の者は要求されたら即時大爆笑級の面白いボケをしなければならない』という法律です」
ボ「な、なんて非道な法を作ろうとしているんですか! 君は人類史上最悪の独裁者として歴史に名を刻むつもりですか!」
ツ「君がそれを言うの?」
ボ「あ、でも相方である僕には適用されないですよね?」
ツ「人は法の下に平等なんですよね? 依って例外はありません」
ボ「なんて非道な!」
ツ「早速試してみましょう」
ボ「試す?」
ツ「ええ、では今すぐ面白いボケを言ってみて下さい」
ボ「……」
ツ「どうしました?」
ボ「い、いや、その、何も浮かびません……」
ツ「えぇぇぇ……」
ボ「なので罰を受けます」
ツ「罰?」
ボ「はい、僕は君と一生漫才を続けようと思います」
ツ「……?」
ボ「僕は君と、一生漫才を続けるという罰を受けようと思ってます」
ツ「それはつまり、私と一緒に漫才する事が罰だとでも?」
ボ「はい」
ツ「……」
ボ「ははは、ジョークですよジョーク。ボケとしてのジョークですよ。面白かったですか?」
ツ「全然面白くなかったです。という事で罰を受けて貰いましょう」
ボ「ええ! そんな!」
ツ「ジョークですよ。面白かったですか?」
ボ「面白くないですよ!」
ツ「では、お互いに面白くなかったという事なので、お互い罰を受けましょうか」
ボ「お互い? 2人とも罰を受けるんですか?」
ツ「ええ」
ボ「どんな罰を受けるんですか?」
ツ「君と私、これからもずっとコンビで漫才をやっていきましょう」
ボ「…………」
ツ「どうしました?」
ボ「そ、それは僕と漫才する事が罰とでも言う事ですか!? 酷いじゃないですか!」
ツ「君がそれを言うの?」
ボ「ジョークですよジョーク。ははは」
ツ「全然面白くなかったので、やはり罰を受けて貰いましょう」
ボ「ええ! そんなぁ」
ツ「ジョークですよ。面白かったですか?」
ボ「面白くないですよ! もう訴えてやる! 弁護士を呼んでください!」
ツ「だから舞台中は呼べません。というか今ので訴えられる意味が分からないです」
ボ「なら黙秘します」
ツ「漫才中の黙秘って単なる仕事放棄じゃないですか?」
ボ「ジョークですよ。面白かったですか?」
ツ「全く面白くなかったです。これはもう訴訟レベルです。弁護士を呼んできます」
ボ「舞台中は呼べないんでしょ?」
ツ「いや呼びます」
ボ「え?」
ツ「呼ぶといっても君の弁護士ですけどね」
ボ「僕の弁護士を呼ぶ?」
ツ「ええ、君の弁護士を君の代理人として呼びます」
ボ「僕の代理人として?」
ツ「ええ、そしてその方と私とでコンビを組みます」
ボ「代理人とコンビを組む?」
ツ「はい、それでその方と私とで漫才をします」
ボ「弁護士と漫才?」
ツ「ええ、それでその結果、君よりも面白かったら――――」
ボ「お、面白かったらど、ど、ど、どうするっていうんですか?!」
ツ「君はクビです」
ボ「おお! 今のは凄い面白かったです!」
ツ「……」
ボ「ん? ジョ、ジョークですよね?」
ツ「……」
ボ「ちょ、ちょっと……」
ツ「……(ニヤリ)」
ボ「ひ、酷い! 訴えてやる! 弁護士を呼んで下さい!」
ツ「だから呼ぶと言ってるじゃないですか」
ボ「ん? 呼ぶ? 誰を?」
ツ「君の弁護士を、です」
ボ「僕の弁護士? 何で?」
ツ「だからぁ、君の弁護士を君の代理人として呼ぶんですよ」
ボ「僕の弁護士を僕の代理人として? それはどういう意味ですか?」
ツ「どうもこうも、文字通り君の代理人として呼ぶんですよ」
ボ「?」
ツ「だーかーらぁ、君の代理、つまりは私の新しい相方として、という意味ですよ」
ボ「おお! 今のも凄い面白かったです!」
ツ「……」
ボ「ん? ジョ、ジョークですよね?」
ツ「……(ニヤリ)」
ボ「ジョ、ジョークですよね! ブラックジョークですよね! ね! ね!」
ツ「皆さん、本日は有難う御座いました。次回は新しい相方と御目にかかりたいと思います。では、さようならぁ」
ボ「訴えてやる! 弁護士を呼んでくれ!」
2022年08月29日 初版