第6章 -56話-【信号弾】
ーやけくそになっていたんだろう。
僕は、信号弾を上げた。
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「なぁ、花火見たことあるか?」
長い沈黙のあと、後部座席に座っているジャネットが口を開いた。
「あるに決まってんだろ、独立記念日って知ってるか?」
運転席のヒデキは皮肉を込めて、子供に諭すかのように返事をする。アメリカは独立記念日に花火を上げる。そう決まっていた。ヒデキは思い出と共にこみ上げ出た涙をこらえた。
「ちげーよ、そんなちゃっちいやつの話はしてねぇ」
「なんだと?」
まるで、思い出までバカにされたように感じて、ヒデキは声を荒げた。
「日本の『ハナビ』見たことあるか?ありゃ、アメリカの花火がションベンに見えるぜ」
両親は日系だが、アニメ以外の日本文化を知らないヒデキは、自分より日本に詳しいこのアフロ―アメリカンに嫉妬を覚えた。嫉妬と言うよりは、何ヶ月も前に出された宿題を忘れてきたようなバツのわるさだったかもしれない。
「日本のハナビは上がり方も粋なんだ、こう、ちょうどあんな感じでヒョロヒョロっと…おい!右見ろ!信号弾だ!」
声を受けてヒデキが右を見ると、確かに赤い信号弾が上がっていた。
「これは、『撮れる』んじゃないか?」
ジャネットが興奮して言う。ヒデキもさっきまでの複雑な感情をゴミ箱に捨てて、返事をした。
「チャプター2『救出』撮影開始だ!」