行列のできるラーメン店
ある町の人気ラーメン店に、大手の物産会社の営業マンが訪れた。
「社長さん、是非こちらのラーメンを我が社でカップ麺にしていただけないでしょうか」
営業マンは、深々と頭を下げ熱心に商品化を勧めた。この大手の物産会社はこれまでにもいくつかのラーメン店を商品化し実績を伸ばしている。
「これまでに商品化したお店はどれも売り上げが倍増しております。こちらも商品化すれば間違いなく今まで以上の商品になると思いますが」
「あまりそういうことには興味がねぇんだがなぁ」
店主はそっけなく答えた。
「それにですね。お店の宣伝にもなると思いますよ」
と営業マンは食い下がった。
「いやぁ、うちは今のままで十分満足しているんだよ。なあ?」
と、奥で洗い物をしている妻に言った。妻は、にっこりと笑ってうなずいて見せた。
「そうですか。こちらは代々の老舗と伺っておりますが、社長さんの代で味が上がったと評判ですよ」
営業マンは、おだてるように言った。
「いやいや、これも女房のおかげだがなぁ」
「そうでしょうとも、やはり良い奥様をお持ちになると良い仕事が出来るのでしょうな」
営業マンはここぞとばかりに持ち上げるように誉めまくった。
それから小一時間も話しただろうか、営業マンはおだてたりすかしたり、押したり引いたりと、あらゆる話術で商品化を進めたが、結局、店主は首を縦には振らなかった。
ついにあきらめて営業マンは帰っていった。
「おい、おまえ。商品化なんてできるわけねぇわな?」
「そうですわね。」
「そんなことしたら、うちの秘伝がバレちまうわな」
「そうですわね。ところであなた」
「なんだい?」
「わたしもそろそろ子供が欲しいわ」
「そうか、跡取りも必要だしそろそろ作っておかねぇとなぁ」
「そうねぇ」
「今度はダシにしないで、育てるかぁ・・・」