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09 良い鍛練法を編み出しました


私のせいでご馳走にありつけなかったのかな ? なんて若干落ち込んでいると、レイとクラウは雑談しながら焚き火の準備をし始めた。


「あの~~ ! 差し出がましいようですが、もうコンテの町に用が無いのでしたら、転移の魔法で村まで帰りませんか ?」


 私の転移の魔法を使えば一度訪れたここと村との行き来は自由だろう ?

 ただ、全員で移動できるかどうかは分からない。

 何となく、いけそうな気はするけど…

 まあ、やってみれば分かることよね。と、気楽に考えていた。


「ああそうか、もう用事はないからね。 ……じゃあ転移で帰ろうか。って、んん ? 私達も一緒に行けるのかい ?」


「そこは〜…  …  やってみてからのお楽しみですよ !」


「ええ〜 ? 」


「はははっ、オマエのそういうとこ、嫌いじゃないぜ !」


「どうぞ聖女様の御心のままに… 」


 と、大きな反対意見も無かったということで、一度やってみることにした。


「 ……じゃあ皆、転移するので手をつなぎましょう」


 私たちは輪になって手をつないだ。


「私達をコンテの町へ連れていって… 転移 !!」


4人で転移なんて、初めてだった。

パーティー全員の転移は見事に成功した。一瞬で村長の家の前まで帰ることができた。

 

 一瞬で遠くの村まで来てしまい、三人はあっけにとられていた。

 

しかし馬が来ていないのに気がついて、もう一度転移で迎えに行った。馬は一緒に転移することができた。荷車はとっくに収納済みだ。


「ただいま〜 !」


「おかえりアイリ。ごくろうさん。何度も往復させて悪かったねえ」


「平気よ。まだまだ何度でも行けそうよ」


「アイリにかかるとコンテの町まで一瞬なんだね…

 あっそうか ? そういうことか。なんで素材を持ち帰ったのか…… 少し謎が解けた気がするよアイリ !」


「そういうことよ、村長さん ♪♪ コンテの町にはいつでも売りに行ける。だけれど私を奴隷にしようとした超~〜〜高飛車なビリーズ商店や、ちょ〜〜~~~低額査定のギルドになんかは売りたくないわよね ! 買い取ってもらうならジョエルズ商店かな ? 私の転移魔法があればいつでも何度でも行けるでしょ ! 一週間くらい後に又行きましょ !!」


「あゝ分かった。そういうことだったら納得だ。全て君に任せる ! 大聖女アイリ様の案でいこう」


「聖女様。素晴らしいお考えです !」


「えっ ? クラウ ? 何だかさっきからことば遣いがおかしいわよ ! クラウはとっても可愛いんだからもっとフランクで良いのよ !」


「はい ! 努力します」


「敬語だし~ ⤵⤵」


「ハハハッ コイツもこう言ってるんだからそんなに責めるなアイリ ! きっと君を敬う気持ちがよっぽど相当なのさ」


「ええ〜〜 ? 責めはしないけどさぁ 」


敬意よりも好意がイイんだけどな〜 !!


でもまあ、これでひとまずは役目を果たしたということで良いのかな ?


当初は往復に4日間の予定だったけど、なんと僅か1日の日帰りで片付けてしまった。嬉しい誤算だね。


村人達には途中で引き返してきたのかと、しつこく尋ねられたけど、経緯を説明して、買ってきた品物を見せると納得してくれて、一様に驚いていた。

この日はここで解散した。



慣れない徒歩で長い距離を歩いて、次の日は身体中がギシギシといいそうなくらいにくたびれたので、一日ゆっくりと休んだ。


その翌日には痛みもとれてすっかり元気になった。やっぱり16歳の身体は最高ね ! 若いって素晴らしい。異世界さいこー !!




 ちなみにここではスマホもタブレットもオンラインでは使えない。


 アメージングで奇跡的にDVDや本を取り寄せられるけど、それ以外のネットやオンラインとかは無理で、誰とも繋がっていない媒体ではそれほど熱中できない。


そんな訳で、この異世界の閑静な田舎に来てからというもの、特にお仕事も勉強も無くて、実質上ブラブラしているのだ。


 だけど、預かっているレッドベアやウルフの素材を売り捌くという重大な使命がある。


そうよ、私にはアルテ村の今後を左右する重大な使命があるのよ。アルテ村の産物や魔物の素材とかを適正な価格で卸せるようにしたいんだ !?


使命といえば、村人の健康を守ることも忘れてはいけないわ。


 2日に一回の炊き出しは今も続けているよ。う~ん、やせ細った体型はまだまだ変わらないけど少しは皆の顔色が良くなってきた気がするわね。



そんな私は今、フラ~~っとパーシーの家に行って、約束していたオレンの実のジュースを飲みに来ていた。


すると、遠くにクラウを見つけた。

 やった〜 !


「パーシー、キャシー、ありがとう。じゃあ又来るわね !」


「ほいほい、気を付けてなー」

「またおいで !」



私は嬉しくて、クラウを走って追いかけた。


「クラウ~~ !! ……どこ行くの ?」


「こんにちは、聖女様 ! 鍛練でもしようかと…… 」


「だったら私にも手伝わせて !」


 ……!! 


 …クラウは驚いている。


「えっ ? 鍛練などつまらぬモノですよ。聖女様のお手をわずらわすなんて… 手伝っていただいて良いんですか ? 」


「もちろん良いわよ ! 私はクラウを、この村を守れるいっぱしの魔法戦士に鍛えてあげたいの… 」


「ありがとうございます !」


クラウは村の脇で鍛錬する気だったようだけど、二人なら大丈夫かなと、私たちは村の外へ出ることにした。


「クラウ、手を出して !」


「はい、どうぞ」


少し照れながら差し出したクラウの手を優しく握った。

私だって前世では清らかなまま人生を終えてしまったし、男の子と手を繋いだことなんて数えるほどしかないから、二人揃って顔を赤くしてしまった。


(だけど転移の度にクラウの手を握れるなんて…… ふふっ、役得、役得 ♪♪♪)


「転移するわね ! 村の北の大樹の前に行って… 転移 !!」


私達二人は私が初めてこの地に訪れた場所まで転移でやって来た。走れば村から数分の場所だ。


「ええー ? 北の大樹に来たの ? ここの魔物はけっこう強いですよ !」


「村の周辺のゴブリンばっかりじゃ、つまんないでしょ ? そんなんじゃ鍛錬にならないわよ !」


「承知しました、聖女様 !」


「うーん、どうしちゃったのかな ? 何かずいぶん堅いわね、クラウ !」


○実はクラウディーはアイリがレッドベア2体を軽々と倒したのを目の前で見せられた瞬間に、異世界から来た少女の総てを真実だと受け入れ、神か女神のように崇拝してしまったのであった。


その後も彼女のダメダメなところは目に入らず、転移や収納やギルドでの対応力を見ては感動し、盲目的な信者のようになっていったのだ。


アイリもどこかおかしいなと感じていたけど、まさかそこまでとは気が付いてなかった。魅了のスキルでも使えば完全にハマっていただろう。





さてそれはそうと、魔物と戦う前にクラウのステータスを見て考えてみた。

魔法戦士か~ ? う~ん、悪くないけど守ってあげないと危ないわね !


クラウディー 魔法剣士 14才 男

レベル:14 人族

攻撃力:34

守備力:33

体力 :39

速さ :27

魔力 :41

好運 :80

HP:68/71 MP:75/80 SP:84

スキル:剣術LV1、風魔法LV2



最初に現れた魔物はフォレストウルフだったわ。この野生の狼は鼻が利くから、きっと私らを良い獲物だとでも思って狙ってきたんでしょうね ?


だけど…… 残念だったね狼さん ! 私は見た目とは違ってアンタらに殺られるほど、か弱くないのよ !


「ガルルルッ !」


「聖女様 ! 僕にはこの魔物は荷が重いです !」


「ええ、分かってる。まずは守りに専念なさい。良いのさえもらわなければ、なんの心配いらないのよ !」


私は素早く動いてウルフに近付いた。魔物は私の動きにまるで対応できていない。


グーに握ったげんこつを金づちのように上から"ガツン" と頭に叩き下ろしてやった。


「ギャウーーン !」


フォレストウルフは酔っ払いのようにフラフラになってしまった。


「クラウ ! 風魔法よ !」


「えっ ? はい !! 風よ我を助けたまえ、ウィンドウ スピア !」


クラウが放った槍状の風魔法は弱って無防備になっていたフォレストウルフの首すじを貫き一撃で魔物の命を奪った。


「ナイス ! まずは一頭ね !」


クラウは血抜きなどの下処理を素早く済ませて私に収納を促したけど、私はそれに応じなかった。


「ううん、収納しないで良いのよ」


「えっ ? ここはとても強い魔物が多いですし、血の匂いで魔物が集まっては危険ですよ !」


「だって魔物をたくさん倒して鍛錬するんでしょ~ ?」


「えええええーーー ????」


そんなことを話しているうちにまたフォレストウルフが現れた。今度は2頭だ。クラウは青い顔をしたままだ。


「うわっ !!」


クラウは驚いて声をあげ、後ろへ二歩三歩後ずさったけど、私は特に驚きもせずに、さっきのウルフと同じように、ガツン、ガツンと連続で頭をどついたのだ !


「ギャウーーン !」「ギャウーーン !」


「スゴい。スゴいです聖女様。相当強い魔物のはずなのになんという手際の良さでしょう ? 見とれてしまう程です」


「は~い。魔法よろしくね !」


私の手際の良さに付いてこられないようだけど、クラウは少し戸惑いながらも魔法を放って二頭を倒した。


そして血抜きをし、ウルフ3頭をまた、野ざらしのまま放っておいた。




○大聖女アイリを心から崇拝し始めているクラウでも、こんなやり方には理解が追い付かなかった。


こんなのは、普段から狩りをする者の常識ではあり得ない方法で、もしも自分達の能力以上に魔物が集まり過ぎてしまえば、一瞬で命を失ってしまう。そんなことは当然タブーとされていたのだ。


それでも彼は、やれと言われれば素直に従った。僅かに疑いや心配があったけど、それよりも聖女を信頼し、敬う気持ちがとても強かったからだ。


その後もオーク、グリーンパイソン、スパイダー、高位種の混じったゴブリンの集団と、次々と魔物が現れた。




あゝ倒した魔物の血の匂いがエサになってドンドン誘い込んだし、たくさんの魔物が寄ってきたわ。こうなってしまうとクラウには手に負えないようね。


「もうダメです !! 魔力も残り少なくなっちゃいました !」


「分かったわ ! クラウの身体を癒して…… ハイヒール !!」


「ああーーー ! 傷や怪我が…… 体力もほとんど戻りました ! ありがとうございます。本当に素晴らしいお力ですね !」


「これくらいたいしたことないわ。じゃあクラウは大ケガで即死だけは避けるように、頑張って身を守るのよ ! 私は大概の怪我だったら治せるから安心してね ♪♪」


「はい頑張ります !!」


私はサバイバルナイフを手に取り、次々と現れる魔物をバッタバッタとなぎ倒していって、退治した魔物は更に大きな山のようになってしまった。


「うわわわわーー !!」


襲い掛かってくる魔物をほとんど一撃で倒してしまい、とうとう私の前に立ちはだかる魔物は居なくなった。この辺りの魔物は討伐し尽くしてしまったのかも知れない。


「よーーし ! こんなもんかな ?」


「は、は、は…… はい ! お疲れ様でした、聖女様 ! 素晴らしい御活躍でしたね」


(可愛いクラウ ! こんな風に敬ってくれるのも悪くないかも ? だけど、こんな感じだったら私のお願い、何だって聞いてくれそうな気がするわね ‼‼ 良いこと思い付いたわ。なんならエッチなお願いも聞いてくれるんじゃないかな ?)


「クラウ ? ここに来て(ひざまず)きなさい !」


「はい、聖女様 !」


(ゴクリッ !)


「今日は頑張って良く戦いましたね ! ワタクシの手にキスをすることを許しましょう !」


(上手くいくかしら ?)


「はい、ありがとうございます聖女様 ! 」


クラウは何のためらいもなく、細身の身体にブラウンでふわふわの髪を少し風になびかせながら、跪いた。 




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