04 異世界から来た大聖女
「何もない村だけど周辺は魔物が少なくない。この村でゆっくりしていくと良い。急ぎの予定が無いのならこの家に泊まっていきなさい」
二人の青年に連れられて、アルテ村にやって来た私アイリ。
村長ヘルナンデスの快い出迎えを受け、なんと宿がわりに自宅の客間まで空けてくださり、そこに泊まるようにと勧められた。
それは嬉しいんだけど、知らない世界の知らない人の家で、馴れない寝具では寝つけないかもしれないし…
それに比べて、聖女を告げる見ず知らずの怪しい女の子を自宅に招こうとする。きっと、村長はそれなりに人が好いのだろう。
「あの~、何も予定は無いんだけど…… お家はアイテムボックスの中にあるので〜、少しの間、家を乗せる土地だけ貸してくれると嬉しいんだけど ?」
「アイテムボックス ?
乗せる土地 ? 」
村長は困惑している。
女神様の好意で元の世界から全ての持ち物を送ってもらったから、安全な土地さえあればそれで良かったのよね。だけど、話が通じてないのかな ?
「あの~、この世界にはアイテムボックスとか魔法の袋とかって存在しないとか ?」
「いいえ、そこは大丈夫だよ。ところでさっきの話からするとアイリがアイテムボックスを持ってるってことなのかい ?」
「良かった〜 ! 通じてた。
そうです、そうです。 」
「お前アイテムボックス持ちの設定かよ ? ってか家が入ってるってどんだけだよ ? んな訳ねーだろ。だけど、もしアイテムボックスが本当なら聖女ってのも真実味が出てくるんだけどなぁ。ホラもたいがいにしとけよホント !」
「レイさん ? ホラだなんてあなた……
私のことをまるで信じてなかったのね ?
あ~冷たいなぁ~ !」
ああん、嘘なんて何一つついてないのに、設定とかホラとか言われたぁ。イタイケな女子に向かってさあ、普通はそんなにストレートに突っ込まいでしょ ? ヒドいよ。それとも、アイテムボックスに大聖女って、そんなに珍しいモノなのかな ?
「なっ、なんだよそんな…… 家とか異世界から来ただとか、多少のバカげたことを言ったからって、お前のことを責めたりしないからさ。安心しろよ。」
「あ~ まるで信用されてない ! 」
それは仕方のないことかも知れないけれど、どうにかみんなの疑いの眼差しから逃れたくなった私は、どうすれば良いか ? っていうか何をアイテムボックスから出してやろうか吟味していた。
「ジャ~ン !
だったらこれでどう ? 異世界のカボチャよ」
「「「おーー !」」」
「確かにアイテムボックスから出した感じだけどなあ…
コイツはそこらにも転がってる普通のカボンチだろ !? 」
「そっかあ ! カボチャはこっちにもあるのかぁ。
あ~ん、失敗したわ ! 」
しかしこのレイとかいう男 !
ブサイクとまでは言わないけど、のっぺりとした顔で全然カッコ良くもないのに、ずいぶんズケズケとものを言うから…
少しだけ苛立ってきたわ。
○その点ではアイリも負けてないようだが人間、自分のことはなかなか見えないものである…
「なぬぬぬ~ !! じゃっ、じゃっ、じゃ~あ このポテチでどうかしら ?
お近づきの印に差し上げるわ、村長さんどうぞ ! 」
ポテチとは皆様ご存じの通り、日本でいちばん有名な、ジャガイモを油で揚げた袋菓子よ。
アイテムボックスからポテチを3袋出してその内の2袋をそのまま村長に差し出した。
そしてひとつの袋は封を開けて村長に渡し、私はそこから一枚とって食べて見せた。
「サクッ、異世界で最高のお菓子よ ! みんなも食べてみて」
「おっ、おう。」
「とてもキレイな絵が描かれて…… アイリは王族か、高貴な貴族様の娘さんかい ?」
「ううん、平民。普通の庶民よ。異世界のね !」
「そうかい ? このような珍しいもの…
ああ、異世界のものだとすれば… 」
3人は少しビクビクしながらひとつずつ手に取り口に運んだ。
サクッ、サクサクッ
「美味しいよ ‼」
「うおっ、美味い !!」
「塩味がきいて旨いな ! 異世界という確信までは持てないが、この銀の包みと何が書いてあるのか読めない文字はこの国の物でないと認めざるを得ないな !」
(村長はちょっと信じてくれたようだけど、レイはぜんぜんダメかあ〜 ?!)
コイツは全然信じてないし〜
アイテムボックスから出した感じとか、異世界の確信は持てないだとか言われちゃってるよ。
「私はいっこも嘘なんて言ってないのに~ !!」
「まあまあアイリちゃん ! 私は君のことを信じてるからね。だけどこのポテチとかいうお菓子は手が止められないねー !」
「僕も信じることにするよ、アイリ !」
「うわあ~、村長は私のことよりポテチに心を奪われてるし、私の最後の心の拠り所だったクラウまで"信じることにする"とか言ってる ! それって全然信じてないけど、そういうことにしておこうか ? ってことじゃない。ふみ〜〜 ! こうなったら、ナニが何でも兄弟揃ってギャフンと言わせてやるんだから~~ !!!!」
「ええい、これが私の異世界の物よ~~~~~~~~~~~~~~~ !!!」
ドドドドドドドドドドドーーーーーーーーーーーン !!!
私は隣の広場に大きな家をドドーンと出してやった。
「「「おおおおおおーーー !!!」」」
3人はアゴが外れそうなほど驚いた。
彼らだけでなく遠くから見ていた村人たちも驚いて、ナンダナンダ ? と言ってドンドン集まってきた。
ちょうどその中に右腕を三角巾のような布で吊っている少年を見つけた。
「キミ、ちょっとここに来てくれるかな ?」
「えっ ? オレ ?」
「うんうん。その腕、怪我をしてるようね」
「そうだよ。ジョンは先週ウルフに噛まれてから、腕がパンパンに腫れちゃってるんだよ」
「うん。わかった。じゃあちょっと治してみるね」
「あ、あゝ… 良いぜ !」
集まってきた村人たちはザワザワし、レイや村長は「それは無理じゃね ?」なんて言っている。
大きな家をトドンと取り出してそれは認めたようでも、それはそれのようで、聖女の方は信じてないようだ。やはり見たものしか信じられないのだろう。まあ出会ったばかりだし、それは仕方がないのかな ?
私は少し緊張して右手を少年の腕の方へ向けた。
「ジョン君の腕を治療します。ハイヒーール !!!」
すると… 金色の輝きを伴って紫色だったジョン君の腕が見る見るうちに健康的な状態に戻っていった。
少年は手をグーパーグーパーした後、腕をぐるぐる回して言った。
「痛くもかゆくもなくなっちゃった」
「うわっ、マジか ? ………………信じるよ、大聖女アイリだったよな ? 疑って悪かった。アレもこれもあまりにも想定外だったからさ…… しかしスゲーなぁ。本気でかぁ ?」
「アイリ様、スゴいです」
……周りの村人たちは「大聖女様 ?」「金色の回復魔法じゃ」「アイテムボックス ?」「恐ろしやーーー !!!」などと、口々に噂していた。
「えっ ? えっ、ええ………… 信じてくれればそれで良いのよ」
てのひらを返したように急に素直に謝られて、何だか拍子抜けしてしまったけど、やっと分かってもらえたようで、私は溜飲を下げることにした。
こんなことなら最初からポイポイっと家を出して、皆にヒールかけまくればよかった。
「それにしてもアイリのアイテムボックスはこんなバカでかい物まで入るのかよ ?」
「それがね。まだ異世界からこっちの世界に来たばかりだからどれくらい物が入るのかとか何ができるのかとか、さっぱり分かんらないんだぁ」
「それなんだがね、アイリは何でもかんでも正直に話してくれるのは良いんだけれど、この事が皆に知れたら大変なことになると思うよ !」
「そうだぜ !」
「んっ ? どういうこと ?」
「そもそもね、アイテムボックスや魔法の袋を持っているだけでも国やギルドからの勧誘も多いし、襲われる事もあるくらいでね。普通は周りの人にだって秘密にしているものだよ。アイリは大聖女で更に異世界人なんだから余程配慮しなければなるまいて」
「ええ~~ そうなの ? 別に良いんじゃない ?」
「そうかい ? このまま噂が広がればすぐに王宮や教会からお呼びが掛かってしまうだろうしね ? 下手をすれば無理やり連行されるかも知れないよ」
「無理やり ? そっ、それは面倒ね……」
「そういうことだ、村の衆よ。この少女アイリは悪い子では無さそうだし、見てしまったモノは仕方ないが、このことはできるだけ村の中だけに留めて、村の外には広めないようにしてやって欲しいんだ」
「ええだええだ ! 聖女様はうちらで守ろうな」
「そうだそうだ ! めでたいなも」
「良し ! じゃあみんなしっかりと頼んだぞ !!」
「「「まかせんしゃい !!」」」
すると村人たちは私に駆け寄って、頭をなでたり肩をたたいたり、また次々と握手を求め、おばちゃんやお婆ちゃんたちにはハグをされ、色々聞かれたりもした。聞かれたことには素直に答えた。
そしてとにかくやたらと歓迎してくれた。
人に抱擁されたのはお母さん以来で十何年振りだろうか ?
嬉しくってジーンとして涙が出てきちゃった。
何だか村の人達は私のことをとっても歓迎してくれてるようで本当に凄く嬉しかった。
実はこんな田舎にはなかなか来客も無く、又それが聖女というのが格別だったようで誰もが優しく迎えてくれたんだ。
人懐っこくて本当にバカみたいに優しい。
やがて村人は決して豪華ではないものの、私には珍しい異世界の料理を用意してくれた。
しかし、みんな服もボロボロで、骨と皮だけのガリガリなんだ。スゴく貧しそうに見えるけど無理をして捻り出したりしてないよね ?
歓迎されてる感じがとても伝わって来たけど。
すごく申し訳無くって、おじいさん達にそうしてお礼を言うと意外な答えが返ってきた。
「なになに ! こんな田舎にはお客さんは珍しいからのう。若い娘っこでそれも聖女様なんてことだで皆、大喜びじゃわい、ホッホッ」
「ずっと村さ居でくれでもええでなー !」
珍しい料理などで、きっと彼らにとっては特別豪華な食事を用意してくれたんだろう。これって普通なら歓迎会的なことなのよね ?
周りにはガリガリに痩せた村の皆が集まってくれてるけれど、私の食事だけが用意されてて…
何故か皆の分は無くて…
私が食べるのをじっと見られている。
なんだこれ ?
「ああ、わかった。全員分の食事を出すことができないほど追い込まれているのね ?」
「 …… 」
返事はすぐに返ってこなかった。きっとそうなんだろう。
「アイリはお客様で若いんだし、そんなに遠慮しなくて良いのよ」
「儂らは今さっき腹一杯食べたばっかりでのう」
村長夫人のエレンとじいさんはそう言ったけど… 彼らのお腹はグーグー、ぐーぐーと合唱している。
そんなの100パー違うと言い切れる。
やさしい嘘だ。
しかしね、皆の気持ちはとても嬉しいんだけどね……
みんなを見渡す。
村の衆はニコニコして、善意にあふれている。
だけど、これは食べられないよ。
「うーん、エレンさん。大きな鍋とかってありますか ?」
「もちろんあるわよ。村長宅には必需品なのよ~ !」
「じゃあ鍋にお水を半分入れて沸かしてもらえませんか ? 私が簡単に食べられる物を何か用意します。みんなで一緒に食べようよ。」
「「「おおーー !」」」
そうと決まれば私達の行動は早かった。
皆は庭に出て火を焚いて、片やエレンはすぐに奥から大きな鍋に水を半分入れて持ってきた。
どうやらとてつもなくお腹を空かせた人が多いこの状況だし、今すぐに食べれられるものを作りたい。そうなると、少し味は落ちるとしてもそれは仕方ない。
アメイジング.comでパックのご飯をとりあえず20個ほど買った。
(本当はお米から炊きたいんだけど、急ぎだから許して !)
更に冷凍の鮭の切り身500グラムを購入した。
アメイジングで購入した商品がポンポン ポンポンとと出てくるのを見た村人たちからは様々な歓声があがり、とても驚いている。
驚き、ザワザワしている村人たちにニコっと微笑んでから、鍋にパックのご飯をどんどん入れた。
おタマで切り身に熱湯をざざっとかけてから鍋の中に投入した。