表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/18

14 大猫にヤラれた

 

村長が話し掛けたのだけれど、二人にはそれに応える余裕なんて、とてもなかった。


 目の前の、自分と同等かそれ以上に強い敵に集中している。


「うん、だったら私も加勢しよう !」


村長は大猫との対戦経験があるようで、若い二人よりもかなり上手く立ち回っている。


 村長の援護が加わることで、相手にそれなりに有効なダメージを与えられるようになった。

 これぐらいやってくれるなら心配無さそう。


私はホイッ、ホイッと大猫を戦闘不能にしていった。


 仲間の防御にそれほど気を配らなくても良くなったから、攻撃に集中できて楽しいわね。


安心していたところだけど、男3人でやっと2頭ほどのブラッディーキャットを倒した頃には、周りを囲む敵は10頭ほどに増えていた。



だけどそのうちの3頭は、私のキツイ一撃でフラフラになっていた。


 私の中ではまだ大丈夫だろうなと軽く考えていた。


「クラウ !」


私の呼び掛けで、クラウ達はそれに気付いて弱った大猫にとどめをさした。


ラストアタックをした者が経験値を多く得られるから、できるだけ最後は彼らに攻撃してもらってるの。


 私達の、いつものレベリング戦法。


そんなふうにしばらくは順調だったけど、敵の数が10頭を超えてくると段々とらちが明かなくなってきてしまった。まさに防戦一方といった感じだ。


 元々、自分たちよりもやや格上の魔物。一対一で向き合っても命のやり取りとなる厳しい敵なのに、大猫たちは群れの仲間の危機を嗅ぎつけて、次々と押し寄せてくるのだ。


 戦い慣れた村長でさえ、全身から冷や汗が止まらなかった。ましてや、若いレイとクラウはそれどころではない。


 自らの死を、リアルに想像させられガクブルで、ひとたび攻撃を受ければその死にグッと近づく、とても速くて重い攻撃を防ぐのに、精一杯になってきていた。


 「うっ、くわっ !」


クラウらしきその声を聞き、振り返って見たら腕に怪我をしていた。



「クラウ、大丈夫 ?」


 「はい、大丈夫です」


 「ヒール !  …念のためね」


心配になって注意深く見ると、怪我はそんなに深くは無さそうかな ?

 

 まあ、魔物と向き合ったままで、怪我も気にせず戦い続けていることだしね。 きっと、問題無いでしょう。


なんだ。すり傷程度だったのか ? 回復魔法で治療するなんてちょっと過保護だったかな ?


 ……とはいえ、彼らにとって格上の相手だから心理的にも厳しいだろうし、全く余裕が無さそうだわ。


だって、大猫はどんどん、どんどんとやって来るんだもん。


もう10頭ぐらいは倒したっていうのにさっ。


「こりゃあ相当大きな群れだったってことね。アハハ !」


「アハハじゃねえぞアイリー !!! このままじゃあ俺たち全滅するぞ。何とかしろよオイ !」


(もー、クラウは真面目に頑張ってるのにレイはうるさいな~)


「あああ、完全に囲まれてますよ。やっぱり嫌な予感は当たってしまいましたね」


(あゝ、村長もきつそうね)


って、チラッと見たらレイったら細かい傷で身体中が傷だらけになってるじゃないの〜 !


クラウのことは心配で、何だかんだチラチラと見ていたけど、レイのことなんて全然見てなかったわ~ !


 だけど一応まだ倒されてないんだし、まぁいっか ?


それにしても皆、かなりボロボロになってきてるわね。


 いくら徹底的に鍛えるといっても、命あってのことだし…

 手加減するのもじれったいしね。あー、いっそバコーンとやっちゃいたいわ。


 いい加減、このあたりが潮時かな ?


 一対一で戦って、目の前にいる大猫の攻撃を剣で受けるのがやっと。その横から、後ろから出てくる大猫の対応には後手後手になってきてる。


ブラッディーキャットは自分達よりもかなり大きくて、強い敵でも数の暴力で倒してしまうのだ。


一頭のチカラもバカにしたものではない強力なものだけど、時々放ってくる電撃攻撃がけっこう厄介だった。


 この電撃で麻痺をすると、高ランクの冒険者でも遅れをとることがあるという。


また、麻痺しなくても、電撃を浴びると動きが止まって攻撃を受けてしまうのだ。



「ああっ !!!」



今まさにクラウが、横から出てきた大猫からサンダーっぽい電撃を受けていた。


動きが止まったクラウに別のブラッディーキャットの鋭い牙が迫る !



私はサバイバルナイフを取り出しながら、最大限のスピードを捻り出して、クラウに迫っていた大猫を斬った。


「ふう~、危なかった」


 そしてクラウにヒールの魔法をかけて体力を回復させた。


「ありがとうございます聖女様 !」


「お安いご用よ !」


私はホッとしてクラウの近くにいた何頭もの大猫をまとめて追い払い、蹴散らしていた。


 すると……




「うっ…… ぐあーーーーー !!」



 レイの大きなうめき声が聞こえた。ヤバい ?!



「えっ ? どした ?」



クラウを守って安心していたら、今度はレイが電撃魔法でしびれてしまい、二頭の大猫に足と肩を噛み付かれていた。


(うわあ、やられてる~ ! ヤバいヤバい !)


「頑張れレイ、くそっコイツら」


一応その近くに村長がいて周りの大猫から更なる追撃をされるのは防いでいた。


私は急いでレイの近くに行ってレイに噛み付いている二頭の大猫を斬った。


「ギャウーー! ギャウーー !」


「ぐっ ! ううー 」


レイはかなりひどい怪我で、血が滴る肩を押さえてひざをついてしまった。


 かなりの重傷のようだ。



「ああ~、これはひどいわね。ゴメンねレイ ! すぐに回復魔法かけるから……」


「ああ、頼む。 くっ…… 」


「レイの怪我を元の健康な身体に戻して ! グレートヒール !!!!!」



初めて唱えた上級の回復魔法は、差し出した私の右手から金色のエフェクトを伴い、鮮やかな光があふれてレイの全身を包み込み、みるみる間にレイの傷を癒していった。


 「おおー、これは伝説の聖女様の、金色の回復魔法じゃないか… 」

 村長はなにか知ってるような口ぶりで唸った。 


 「聖女様 ! 素晴らしいです」


 「おおーーー 痛くない ! 一瞬で元通りになった…… ホントにスゲーんだな、お前の力。ありがとうアイリ」


「ううん、ゴメンね援護が遅れて」


「ホントだぜ。クラウの援護は早かったのによー」


「ハハハ、ごめ~んね ! だけどさ、それにしてもちょっと情けないんじゃないの ? まだこの場所なんてほんの森に入ったばかりのところなのよ。こんな不甲斐ないんじゃ、ここより奥になんて、全然行けないじゃない。気合い入れなさいよ」


「おっ、おう… 」


 レイの傷はキレイに治り、すぐに復帰した。

 私たちはフォーメーションを維持したまま頑張ったけれど、数の暴力に押され、今にも蹂躙されようとしていた。

 まさに、よくある高レベル冒険者グループの全滅パターンだ。


「あああ ! こりゃあしんどいぜ !」


 レイは限界が ?


「うおおっ !! キッ、キビシイ。

 アイリー ! これじゃあもう、もたないよ !」


とうとう、村長からも泣きがはいった。てかとうとうでもないか、思えば村長は冒頭から泣く泣く戦ってたよね。


 もう私たちの周りには20頭以上の大猫があふれ、全部合わせて何頭いるのかも分からなくなってきた。しかも奴らのなかには、一回りも二回りもデカイ個体がいた。


 ボスらしきそいつが、仲間を誘導しているようだ。


「わかった ! これってかなり厳しい状況よね。じゃあ、ちょっと頑張るわ」


こうなったら、ラストアタックがどうとか、もうこだわっていられない。


 そろそろ本気でやるしかないわ。


「さあ猫ちゃんたち、いくわよ〜 !」


私は手始めに近くに居た大猫の首のあたりを後ろからわしづかみにして、村長達の周りを取り囲んでいた猫軍団のたくさん固まっているほうに、力いっぱいぶん投げてやった。

 すると、大きな身体がドミノだおしのようにバタバタと倒れて何頭かは勢いが止まらず吹っ飛んでその先の木にぶつかっていた。


 すると、倒れてわたわたしている大猫には村長達がここぞとばかりに反撃していた。


 私はさらに続けて、目の前にいた大猫を予備動作もなしにスッと首すじを斬った。


更にその流れのまま二頭目も斬った。


 その大猫は、私の横凪ぎの一撃に耐えきれず『ズドンッ』と音をたてて倒れ絶命した。


 「ウギャギャ、ウギャギャ !!」


 「ギャウーー」「ギャーー」


周りを取り囲んでいた大猫たちは私が三頭目を倒した時には群れ全体が私の方へと向かってきた。

 


ボス猫が何かギャーギャー言ってるので、きっと手下にアイツをやっつけろなんて指示を出しているんじゃないかな ? 


 これまでの落ち着いた態度と違って、怒り心頭でかなりバタバタした様子だ。ああいう上司のもとで働くのは勘弁していただきたいものだ ! 


 今まではどこかで見下していたのか、ギヤを数段上げた私の動きを見て、相当慌てているようね。


それでも私は4頭、5頭と、恐るべき早さで、続けざまに斬り倒していった。


 ところが調子に乗ってしまったのか、5頭目を倒した後の体勢が崩れたところを狙われてしまった。


そこを脇にいた大猫が放った電撃魔法をまともに受けてしまったの。


 「いやっ !」


 (うわあ~〜、やられたわぁ。まずっ)


電撃の光がけっこう大きかったから、ヒドくやられたかと思ったけど、案外ちょこっとビリッとしただけだった。   


 「あれれ ?」


(ステータス値が高くて魔力が一万とかだから案外大丈夫なのかな ? ラッキー !) とか気楽に思ってた。


たいして痺れもしなかったけれど、それでも少し動きが止まってしまった。金縛りみたいになって動けなかった。

こりゃあ いただけない。


 電撃で痺れたわずかなスキをついて、そこに別の大猫の爪撃が迫った。

 レイの時と同じだわ。どうやら、この一連のフォーメーションは大猫たちにとって必勝の攻撃パターンのようね。コイツら馬鹿じゃない ! しっかり自分達の攻撃の特性を理解してうまくつかってる !

 今さら気付いても、遅いんだけど……


(ダメだ~、動けない~、避けらんないよ~ !)


ちょっぴり身体を後ろに反らして、少しでも避けようとしたけど、そんなんじゃ避け切れなかった。




バキッッッッッ !!!



「くうっ ! 痛ったぁ~」



バキッッと、とても大きな音がした。


 腕にガツンとモロに当たって服が破られたんだ。


 腕からは血が滲んでいる。


 「ギャウギャウーーーー !!」


 さらに別のもう一頭が反対側から急所とばかりに、首筋にガブリッと噛みついた。

 



「うにゃあ~〜、ワタシ、もうだめかも~ ?」



「おい !! 大丈夫かぁ ?!」



「聖女様 !!! うあああーーーー !!! なっなっ何という…… 今、助けます !!」


 「ア… アイリ !!!」


 仲間たちは心配して声を掛けてくれた。

 自分たちも余裕ないでしょうに……


すごい力でガツンと爪の攻撃を受けたので、ザックリとやられてしまったのかと思ったけど…


 「んっ ? 痛くない ? 」


 ザックリやられて、感覚も無いのか ? とも思ったけれど、腕はついていた。ホッ !


 何だか、服が破れただけで、軽いすり傷程度のようだ。どっこも、なんてこともなかった。


あれれれれっ、何でだろう ?



 「だっ、だっ、大丈夫みたい〜〜〜 」


 「そうですか ? 良かったですが… 」


 「危なかった~」


 「強がり言ってるのか ?」



レイはそう言うけど、ホンの少しだけ痛いけどすりむいた程度の痛みだわ。強がりじゃ無いよ !


 う〜ん、痛いかどうかも分かんないくらいだよ。


 私ってそうとう丈夫にできてるみたいね。


 レイみたいに魔物に食べられたり、かじられたことはないから判んないけど、骨の芯まで響くような痛みじゃないからたぶん大丈夫でしょ。




 「ウギィーー ⤵⤵」



 ワタシに噛みついた大猫がつらく、苦しいような声をもらしていた。


 「ああっ ! この子の立派で鋭い歯がボロボロになってる〜」


 そうか~。

 ワタシのステータスがメチャクチャ高いから腕が固過ぎて石でも噛んだみたいになっちゃったのね !

 敵ながら、痛々しくて可哀想に。こんなボロボロの歯、見てらんないよ〜 !


だけどさ、いくら辛くて悲しい嫌なことがあったからって、気軽にうさ晴らしのゲーム感覚で戦ってたんだけど、それでもやられるとなかなか気分が悪いよね。


 トラにガブッッと噛まれたような気分なのよ。名前はキャットだけど見た目、マジ、トラよ。トーーラ !! トラって見たことある ? 恐怖感半端ないんだから。大迫どころじゃないのよ ! 分ってる ? もう、最悪すぎる !


こんな魔物にがっつりやられたら、とんでもないよね。精神衛生上、良くないわぁ !

うん、気を抜かずに集中しよう !


 腕を回復している暇はない。


 回復するほどでもなさそうだけど……


 敵のビッグブラッディーキャットたちは私をターゲットに絞って、次々と襲い掛かって来た。


 傷付いたのを見て、自分たちが有利だと思ったのだろうか ?


電撃をバンバン出して、攻撃は更に勢いを増している。


 勝ち誇って、オラオラ感が半端ない。


 こういうところは人間のヤンキーとかと同じよね。


 ……といっても、ホンモノは知らないんだ。私のヤンキー知識は二次元のメディア仕込み程度なんだけどね。エヘッ !


それでも、私から見ればステータスの差は明らかで、敵の動きは遅く見えてるんだ。それこそスローモーションのようにね。


 攻撃を避けて、受け流す時にはサバイバルナイフで受け、守りに専念すればそれぐらいはたやすいのだ。


「落ち着いて ! 」


ちょっと押してやれば、ステータス差のせいで相手の重さは軽く感じて紙を押してるくらいにしか思えない程だから、実際には重い身体の大猫の体勢はグラグラッと大きく崩れる。


そして、グワッと押してやれば、ふっ飛んでいくのだ。


ああそうか、ステータスの差が大きいからダメージを受けなかったのかも知れないわ。

 じゃあ、ステータスの違いを闘い方に活かしてみよう。


守りから、折を見て攻撃に転じた。目の前の大猫の攻撃をサバイバルナイフで受けて、その大猫の頭を掴むと後ろに居る大猫たちの方へと投げ付けた。


続けて左側にいた大猫の首を掴んで力の限りに投げ付けた。


すると、決して体重が軽くはない大猫たちが、自らの大きな身体がアダとなり、まるで雪崩でも起こしたように隊形が崩れていく。私はその周りの狼狽える大猫を余裕で、続けざまに斬り倒していった。


そして二頭の大猫を斬ったその隙に、また私に攻撃を仕掛けてきたヤツを、今度は逆に狙い打ちで斬ってやった。


 私は同じテツは踏まないわよ。


「良し !! たかだか一撃、かすり傷をつけたくらいで……  私に勝ったなんて思わないでよね !」


私が敵をひき付けたことで、村長たち3人は敵の数が減り、戦いはさっきまでよりもずいぶん楽になっていた。


 3人で協力して何とか少しずつでも大猫を倒していた。


「アイリ ! 木の上から仕掛けようとしてるぞ !」


「えっ ? 木の… ? うへえっ 」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ