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23.断罪された悪役令嬢は

「マリアの体調以外にもこの世界と違うことはあったか? 些細なことでもいい。気付いたことがあれば教えてくれ」

「リガロ様でしょうか。十二~三歳くらいの頃から私に関心を持つようになって……。今になって思うとあの状態は魔を克服した状態なのかもしれません。それから一年後にはシンドレア国では乗馬が流行し、剣術大会は観客席を有料化するほどの人気でした。確かリガロ様と対戦するためにいろんな国から参加者が来ているとか」

「多くの魔を集めることで、この世界の彼よりも早く克服した? 剣聖の孫である彼が魔を集め続ければマリアの負担も軽くなる。『剣聖』の役割が十二分に果たされたからこそマリアは学園に通うほど健康体でいられたのか? だがザイル様とリガロ様の二人でそこまで緩和されるものなのか? 英雄を作りだそうという計画自体は過去にも何度か実行されているはず。リガロ様が特殊とはいえ、劇的に変化があるとすると……。それにその時のゲートの状態、はイーディスには分からないか。あちらの世界の私が話しているとは思えない。むしろマリアと共にイーディスのこともこの手の話からは遠ざけているはず……」

 パチパチと情報のピースをはめ込んでは、キースはなるほどと頷く。イーディスにはどこがどうなって、自分の知るリガロに至ったのかはてんで想像がつかない。気付いたらそうなっていたとしか。ただなんとなく、キースとバッカスに守られているような気はしていた。

「キース様は触れて欲しくないことがあるのか、あからさまに視線を泳がせることが度々ありまして」

「それがおそらく聖女やゲート関連だろうな。君の近くにリガロ様はいなかったのか?」

「いえ、彼は学園に入学するようになってから距離を置くようになりまして。私はリガロ様よりもマリア様とキース様、そして図書館の中限定でそこに二人の友人が加わって三人~五人で過ごしておりました」

「二人の友人か。差し支えなければその二人の名前を聞いても?」

「シンドレア国第一王子の婚約者のローザ=ヘカトール様と、レトア公爵家のバッカス=レトア様です」

「よりによってその二人とは……。いや、レトアはマリアかローザ嬢の監視役というわけか。どのタイミングで接触してきたか覚えているか?」

 どうやらキースは二人のことを知っているようだ。思うところもあるらしく、頭を抱えているが、二人が悪い人ではないことをイーディスはよく知っている。

「バッカス様と会ったのは私が初めて図書館に足を運んだ時で、その後同じ授業を受講する予定と分かり、マリア様とキース様にも紹介して図書館の中限定で一緒に過ごすようになりました。ローザ様はそれからしばらく経ってから、王家の夜会が行われる少し前に茂みの中から声をかけられまして。そこから仲良く」

「茂みの中?」

「渡り廊下の所に小さな茂みがありまして、他の方から隠れるのに使っていらっしゃったようで。王子もリガロ様も癒やしの聖女様につきっきりで、身分は違えど似たような状況だと話しかけてくださったのです。ですが友人のいる私と、聖女様のことを非難する言葉ばかりを吐く取り巻きに囲まれた彼女とでは、状況が違ったのです。数日おきにではありますが、図書館に足を運ぶローザ様はとても楽しそうで。マリア様とも仲良くなれたと話してくださいました」

「こちらの世界でもローザ=ヘカトールは魔に犯されたことが判明している。断罪された後はシンドレアのとある場所で療養していたが、ついに去年、息を引き取ったそうだ」

「っ!」

「衰弱していたようだからな。だが最後の方は穏やかな日々を過ごしたと聞いた。君の世界のローザ嬢もそうなりそうになっていたところを、イーディスが救い上げたのか」

 悪役令嬢の断罪後については語られていないが、まさかそんな背景があったとは……。キースによってサラッと告げられた事実に背筋がゾッとした。

「そんな大層なことはしていません。ただ図書館で一緒に読書会をしたくらいで」

「この世界のマリアも君と文通をすることで元気になっている。リガロ様の変化によって得られたものもあるだろうが、彼が変わるよりも前の影響はやはりイーディスによるもので間違いないだろう」

 ただ文通しただけで。本の話をしただけで。そんなに変わるものだとしたら、今まで魔に犯された人達はきっと孤独だったのだろう。少しの隙間に入り込んだ魔が毒のように体内に巡り、そしてやがては……。あの日、馬小屋に向かわなければ、渡り廊下を通りかからなければイーディスはローザと会うことはなかっただろう。少しでも時間がズレていれば、彼女は茂みの中にはいなかったかもしれない。ローザは嫌われ者のイーディスとは違って、努力家でとても優しい人なのになぜ誰も話を聞いてくれなかったのだろうか。乙女ゲームの悪役令嬢は誰も手を差し伸べてくれなかった彼女の姿なのだと思うと悔しくて、泣きたくなった。


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