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22.積み重なった違和感

「ちゃんと買えて良かったな~」

「途中で購入制限がついた時はどうなることかと思いましたけどね。予定していた個数を確保出来て良かったです」

 イーディス達よりもずっと前に並んでいた人が立て続けに百も二百も購入したとかで、急遽制限がついたのである。明らかに転売目的。どの世界にもここぞとばかりに儲けようとする者はいるものだ。三年に一度しか売られない願い星はさぞ高額で取引されるのだろう。だが願い星はシスター達が三年間コツコツと作ってきたもので、個数には限りがある。なるべく並んでくれた人全員にお渡ししたいので、と制限が付くのも仕方のないことだと思う。とはいえ、知り合いに頼まれてきている人も多いのだろう。また残量を確認しながら制限個数を変更する可能性があるとアナウンスがあり、人数確認のための整理券が配られた時、列は相当ざわついた。イーディスに渡された番号は『296』で、キースはもらわなかった。後方にはかなり人が並んでいたのだ。番号が一つでも増えてしまったら、欲しい分が買えない人も出てきてしまう。いざとなったらマリアの分だけ買って帰ろう。三年後は朝一番に来ようと話し合い、順番を待った。けれど教会側が早めにアナウンスしてくれたこともあり、五つ購入することが出来た。マリアとイーディスとキースの分、そしてリガロと癒やしの聖女の分である。お詫びとはいえ、宿泊券を譲って貰ったからには何かお返しをすべきだろう。二人がこの類いのものを信じているとは限らないが、こういうのは気持ちの問題だ。不要であれば知り合いにでもプレゼントすることだろう。


 教会の列を並び終わった後はキースと少し歩いて、祭りの風景と町並みをカメラに収めた。少し多めに撮ったので、祭りが始まる前にフィルムを交換しておかねばならない。けれどまだ時間がある。少し休んでからでいいだろう。ふぅっと息を吐きながらソファに腰を降ろす。


「食事は祭りが始まる少し前に持ってきてくれるらしい。あとは食事をしながら星を見るだけだ。願い事は決まったか?」

「家内安全 健康長寿です! まだまだマリア様にお伝えしたい場所が沢山ありますから!」

「マリアに伝えたい場所、か」

「? どうかしましたか?」

 いつも同じようなことを伝えているつもりだが、何か引っかかることでもあったのだろうか。キースの表情は暗い。イーディスが首を傾げれば、キースは彷徨わせるように視線を動かす。話すべきか、隠しておくべきか悩んでいるようだ。けれどついに心を決めてゆっくりと口を開いた。

「イーディスは、本当にこのままでいいのか?」

「どういうことですか?」

 遠慮がちに告げられた言葉の意味がよく分からない。

 イーディスはこれからも、死んでからもマリアを愛する。キースと一緒に各地を巡って、フォトブックを完成させて。お墓参りは聖女の妨害のせいで最近はあまり行けていないが、これからは以前のように足を運ぶつもりだ。それの何が悪いのだ。キースだって認めて、一緒にやろうと手を取ってくれたではないか。一体何の問題があるというのか。苛立たしげに声を上げれば、彼は困ったように眉を下げる。それでも伝えると決めた言葉を飲み込むつもりはないようだ。イーディスを見つめ、ぽろぽろと言葉を落としていく。

「違和感はあったんだ。それこそ君がギルバート家に来てからすぐの頃からあれと思うことはあった。けれど誰しも一つくらい隠し事はあるものだろう。イーディスが話したくないのであれば知らない振りをするべきで、君がそれを受け入れているのであればそれでいいと思っていた。だがリガロ様と癒やしの聖女を見て、このまま君の優しさに浸り続けていていいものかと悩むようになった」

「キース様はどこまで知って……」

「マリアと会ったことがあるのだろう。いや、マリアだけではなくきっと俺とも。君は、こことは別の世界から来たのではないか?」

 質問をしているようで、彼はもう確信を持っていた。だからこのままでいいいのかと問うたのだ。

「……話すつもりなんてなかったんですけどね」

「いつからだ」

「学園に入学する少し前から、私の魂はこの世界の『イーディス』に入り込みました。でもその頃はまだ私の意思は反映されず、視覚や聴覚を共有するだけでした。私が『イーディス』となったのはリガロ様から婚約を解消してくれと言われ、学園を去った時です。それからはずっと私のまま。元いた『イーディス』は、この世界のマリア様と文通していた彼女は一度も戻ってきていません」

「この世界の、というと君は違う世界でマリアと文通を?」

「はい。こちらの世界とは少し違って、恋愛小説だけではなくいろんな本をオススメして。それに一緒にシンドレアの学園で勉強もしていたんですよ」

「学園に通っていたのか!? マリアが?」

「入学式で顔を見た時は驚きました。キース様とはそこで初めてお会いして、マリアの一番は俺だからなんて宣言された時は驚きました」

「まるで出会った頃の君だな」

「あれはあちらの世界のキース様の真似です」

「そうだったのか。……マリアはその、いつまで?」

「私がこちらの世界に来たのは、あちらの世界で十五の時。ちょうどシンドレア国で王家の社交界が行われている夜のことでした。それ以降のことは分かりませんが、その時はお元気で。そういえばアリッサム家の使用人が特効薬が見つかったと話してくれました」

「特効薬? そんなものが開発されているとは……いや、その頃にはすでに癒やしの聖女がいるとすると、彼女の力を使えば魔を取り除くことは可能かもしれない。だがなぜそちらの世界とこちらの世界で差が出たんだ?」

 謎解きをするようにブツブツと呟くが、その答えをイーディスは有していない。ただ図書館で教えてくれた使用人の言葉に嘘はなかったと思う。あれが嘘だとしたら使用人ではなく、役者に転職をした方が良いレベル。心の底からマリアを思っていなければあんな声は出ないだろう。


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