21.星雲祭
「わぁいい眺め! 本当にこんな良い部屋譲ってもらってしまってよかったのでしょうか?」
あれからすぐに聖女から手紙が来た時にはギョッとしたが、中身はファファディアル星雲祭の特別旅行チケットだった。この券があればファファディアル領に五つあるホテルの最上階、スイートルームに泊まる権利を得られる。参加者なら喉から手が出るほど欲しいお宝チケットだが、一般販売はされていない。領主の知り合いや国賓、そして前回の祭りで行われた抽選会で見事当選した人のみに与えられる。そんな超レアアイテムを聖女が譲ってくれたのだ。イーディス達がファファディアル星雲祭に行くことまでは知らなかったようだが、今まで行った場所の傾向から好きだろうと判断したらしかった。
「お詫びだそうだからいいんじゃないか? それに今は星を眺めるより己を見つめ直したいらしいからな。気にしなくていいと思うぞ」
この国の王から予定が会えば是非に、と贈られたものらしく、無駄にするのも心苦しいと書かれていた。ということでキースが事前に取っていた宿をキャンセルし、領地で一番大きなホテルにやってきたという訳だ。実際、窓から外を眺めてみると今さらながら遠慮した方が良かったのでは? なんて思ってしまうが、ここは素直に楽しむべきなのだろう。
「夕食は部屋に運んでくれるそうだが、露店はどうする?」
「今のうちにマリア様へのお土産だけ買っておきたいです」
「よし、じゃあ行くか」
「はい!」
荷物の整理は使用人に託し、外に繰り出す。
メインは夜だが、すでに人があふれかえっている。早めの夕食から食べ歩き用のスイーツまで、行列が出来ている屋台は様々。けれどイーディスの用がある屋台は一番の列を作っている。屋台というよりも教会がやっている出店、バザーといった方がいいか。ファファディアル領には教会が一カ所しかないが、大陸で一番の大きさを誇る。また教会は孤児院を兼ねていることも多いが、この領の孤児院は別にある。ファファディアル教会には司祭様とシスター、そしてシスター見習いのみが在籍を許されている。星の神を崇拝する教会がバザーを行うのは星雲祭の時のみ。販売物は願い星のみだが、その売り上げのみで三年間の運営費をまかなえてしまうのである。
「結構時間かかりそうだな。飲み物を買ってくる。イーディスはそのまま並んでいてくれ」
キースはそう告げると列から抜け、近くのドリンクスタンドに向かう。彼の他にも同じように考える人は多いようで、少し進んだ辺りでもちょくちょくと列から抜けている人がいる。例年そうなのだろう。あそこの店はさぞ良い儲けに違いないとよくよくその店を見れば、売り子は子どもばかり。隣に大人や大きい子もいるが、メインは幼い子ばかりである。目を細めて看板の文字を読めば、そこには『ファファディアル孤児院』とあった。一番人気の教会前に孤児院の店を配置するとはなかなか考えられている。好立地すぎる場所は争いの種になる。だが孤児院ならば運営資金を集めるためとの名目もあり、誰も文句は言わない。領地としても運営資金を自分達の手である程度集めてくれれば経費を他に当てることが出来る。まさに得しかない。
孤児院のため酒類の扱いはないが、夜になる前には店終いをしてしまうのだろう。どうせ教会も日が暮れた頃には祈りの準備のために販売を終了してしまう。絶好の組み合わせなのだろう。
それにしてもオススメの自家製レモネードというのが非常に気になる。なんでも孤児院で育てたレモンを使用しているらしい。さらにその貼り紙には赤文字でご一緒にお手製クッキーはいかがでしょう、と書かれている。いつもはキース任せにしているイーディスだが、今はもうすっかりレモネードの口になってしまった。だが列を抜ける訳にもいかない。帰り際に買うにしても、机に置かれた瓶の中身が残っているかどうか……。早く気付けば良かった! と盛大に頭を抱えている時だった。
「何しているんだ?」
「キース様が行った後に看板に書かれた文字を見て、レモネード頼めば良かったと思いまして」
「そうか。なら良かった」
「何が?」
「レモネードを買ってきたんだ。それと子どもにクッキーもどうかと勧められてな、どちらも三人分買ってきた。ほら、イーディスの分」
差し出されたカップからはほのかな蜂蜜の香り。しゅわしゅわと弾ける炭酸にゴクリと喉が鳴った。受け取ってすぐカップに口を付け、グググッと喉を癒やしていく。
「美味しい~っ!」
思わず声を上げれば、前方に並ぶ人達が何事かと振り返る。恥ずかしい……。真っ赤になった顔を俯け身体を縮こませる。けれどしばらくしてキースにトントンと腕を叩かれ、おずおずと顔を上げる。
「イーディス、見てみろ」
「なんですか?」
「さっき抜けた人達、みんなレモネードのカップ持ってる」
「え?」
「よほど美味しそうだったんだろうな。子ども達も忙しそうだ」
クッキーも食べるか? と差し出され、今度はコソコソと口に運んでいく。リスみたいだと散々キースから笑われるわ、以降チラチラと視線を感じるわで恥ずかしさに耐えながら順番を待つことになった。




