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15.画廊で語られる『罪』③

 罪を犯したのは誰なのかーーイーディスには分からなかった。

 ただ一つ分かることは夢の中と外で、リガロに何かしらの違いがあったことだけ。キースの話によると、この世界のリガロは癒やしの聖女と接触することによって回復していったらしいが、夢の外の彼は十二~十三辺りには回復の兆しを見せていたように思う。

 あの自分勝手さを精神が蝕まれていた状態と言えなくもないが、その前までは完全無視を決め込んでいた。彼に与えられた『剣聖の孫』プレッシャーは同じくらいだろう。つまり爆走事件の近くで何かしらきっかけがあった可能性が高い。それも癒やしの力に匹敵するようなこと。読書をしていただけのイーディスの知らないところで何かがあったのか。右手で口を覆いながら、うーんと考え込む。そんなイーディスの姿をキースは怒りを整理していると勘違いしたらしい。


「罵倒してくれても構わない。だが、どうかマリアのことだけは嫌わないで欲しい」

「マリア様を嫌うなんてことはありませんし、怒ってもいません」

 マリアの幼少期の絵が見られると浮かれていたワクワクを返せ! と文句を言いたくはあるが、今伝えるべきことではない。

 それとは別に、恩人を穴に突き落とすってどんな神経してるんだ! と言いたい気持ちはあるが、何千年も前に死んだ人達に怒っても仕方ない。その人自身も魔とやらに犯されていた可能性もある。だが根本的にわからないことがある。


「それにしても結局『魔』って、聖母が持っていた力って何だったんですか?」


 リガロの変化もそうだが、そこからすでによく分からない。人々の負の感情だけなら聖母や癒やしの聖女のような特殊な力を持たずとも、メンタルケアを行えば済むはずである。それこそ剣聖のような象徴的存在を作り出せばいい。だが人々は聖母と聖女に縋った。彼女達がいる間だけならともかく、いない期間も魔は放置されている。カルドレッド特別領で魔についての研究を進めるくらいだから何かしら対策を取っていてもおかしくはない。けれどほぼ効果がなかったのだろう。だからこそ計画は実行された。


 聖母がきっかけで癒やしの聖女と慈愛の聖女が生まれたのか。はたまた彼女の存在が知られたために似たような力を持った女性達が注目されるようになったのか。


 それに気になるのは癒やしの聖女の存在だ。慈愛の聖女とは異なり、様々な場所に生まれるとすれば利用されることを恐れて力を隠していた可能性もある。

 確かゲームでは癒やしの聖女の特徴は髪色であり、その髪を見てシャランデル家はヒロインを養子に迎えたとあった。だが言い換えれば髪色さえ偽れば、特定の条件をクリアしなければ力を使えない癒やしの聖女を特定する術は失われる。癒やしの聖女になれば労働力として酷使される、なんてことを考えずとも慣れた暮らしや親しい人達から離されることを嫌って、能力を隠していてもおかしな話ではない。


「すまない。聖母に関する情報は少なく、魔についても研究中の部分が多い」

「あともう一つ気になることがあるのですが、なぜ途中からゲート呼びに変わったんでしょう? 私は幼い頃、父から魔界とつながるゲートと教えられていたので気にならなかったのですが、ただの穴だと考えられていたとしたら、なぜいきなりゲートーー門なんて呼び始めたのでしょうか?」

「俺の大叔父にあたる先代も、それが気になったらしく色々調べていたみたいなんだが、管理者記録を辿ってみても、書記の家系を全て当たって過去の資料を探してもある年代からその名称が使われ出したということしか分からなかったようだ」

「ある年代、というと何かきっかけとなるものは!」


 些細なことでもいいから手がかりを! と食いついたが、キースはフルフルと首を振った。


「ない。大叔父は、ゲートの名前が登場した一番古い記録は管理者記録であり、その代の管理者が慈愛の聖女の恋人であったことから、聖女の魂がその場所を通って行き来していると考えたのではないか? と推測していたようだ。だが管理者記録にその背景は書かれておらず、あくまで推測の域を出ないがな」

「なるほど……」


 聖母の誕生から数千年が経っているらしいが、まだまだ分からない情報が多すぎる。



『聖母』『魔界』『癒やしの聖女』『慈愛の聖女』『リガロ=フライド』


 この五つが『魔』の正体を暴く鍵となることは確かだ。そして魔の正体を知ればこの夢から抜け出せるような気がした。場合によっては『聖女』の役割を終わらせることが出来るのだろう。




 画廊で話を聞いてからというもの、イーディスはそればかりを考えていた。何千年もかかって解けなかった謎を解くだけの頭があるかと聞かれればNOだ。それでも一度考え出したら止まらなかった。しばしば三階に足を運び、マリアの絵を眺めるがやはり答えは出てこない。


 キースに頼んでゲートに連れて行ってもらったこともある。だがぴたりと閉じられた穴はその奥の魔界を見せてはくれなかった。

 歴史を知ったイーディスには今まで以上に仕事が割り振られるようになったが、分担出来るものが増えたことで時間も作りやすくなった。


 そして予定よりも早くシンドレア国にあるマリアのお墓に足を運ぶことが出来た。まだまだ痩せているキースは「マリアはそこに眠っていないが、いいのか?」なんて確認を取ってきたが、遺骨があろうとなかろうとイーディスの友人、マリア=アリッサムのお墓はそこにしかないのだ。挨拶に行くならそこしかない。

 ギルバート家の馬車はただ走っているだけでも目立つので、馬車は家紋が刻まれていないお忍び用のものを使い、二人揃って変装もした。マリアのお墓参りをしている時点で関係者だとバレそうなものだが、彼女のお墓はまるでその場が隔離されているように静かだった。お墓には彼女が好きだった花で作った花束と、イーディスお手製のマップを備えた。


「キース様のご両親からカメラをもらったので、今度はロマンス小説の聖地の写真を見せに来ますね」

 結婚報告はそこそこに、マリアの元にまた来る約束を一方的に結ぶ。さあっと吹いた風は木を揺らし、彼女が喜んでくれているようだった。

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