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14.画廊で語られる『罪』②

 けれど聖母の死を以てしても魔の増大は抑えられなかった。数百年もの時が流れても抑える方法は見つからず、増えていく一方。大陸には魔が満ち、人々は心を病んでいった。穴は騎士の子孫達によって守られているが、このままでは第二の穴が作られる日も近い。


 そう思われた時だった。

 イストガルム王家にかつての聖母とよく似た顔の姫様が生まれた。生まれ変わりではないかとされたその姫には魔を見る力はなかった。けれど魔を取る力はあった。その姫は無意識のうちに周りの人々の魔を取り除いていたのである。人々は歓喜し、姫を第二の聖母と讃えた。けれど取り除かれた魔は消えたのではなく、彼女の身体に蓄積されていただけに過ぎない。多くの魔に犯された姫は幼くして命を引き取った。驚くべきは彼女もまた聖母と同じく、亡骸が残らなかったことだ。彼女の身につけていた物だけがその場に残され、煙のように消えていく。まるで初めからその場には誰も居なかったように。彼女が消えて百年が経つと、また同じような少女が生まれた。顔は聖母とは似ていないが、やはり新たな姫もまた周りの人間の魔を取り除く力を持っていた。


「この世を憂いた聖母の魂が戻ってきているのではないか」


 そう噂されるようになったのは、三人目の姫が消えた時だった。

 ちょうどこの頃、大陸の最南端の村で魔を癒やす力を持つ少女が複数名発見された。彼女達と王家の家系に生まれる姫を区別するため、癒やしの力を持つ少女達を『癒やしの聖女』、そして周りの魔を取り除く姫を『慈愛の聖女』と呼ぶようになった。


 癒やしの聖女は何人もいたのかって? 同時に存在したのはこの一回だけ。この時期に存在した癒やしの聖女は人々から「穴を浄化して欲しい」との願いを聞き、癒やしの力使用中に亡くなった。それ以降に生まれた『癒やしの聖女』は力を行使するためには信頼すべきパートナーが必要になった。理由は分からない。だがおそらく聖母の力の一部を受けついだ魂は力を使うことを嫌がっているのだろう。『癒やしの聖女』の誕生する間隔は年々開く傾向にある。『癒やしの聖女』が生まれずとも魔は増え、『慈愛の聖女』の負担は大きくなる。彼女達がこの世に留まる時間も自然と短くなり、魔は大陸に溜まるようになった。


 穴はいつしか魔のたまり場となり、キャパシティーを越えれば今度は中から魔が溢れるようになる。癒やしの聖女がいる時は彼女達に癒やしてもらっていたが、それでも短期間で多くの魔を癒やせばかつての聖女のように命を落とす。だからその場凌ぎでしかなかった。少しずつ、けれど溢れないようにギリギリを保っていても限界は来る。


 カルドレッド特別領と名付けられた特殊地形が生まれたのも魔が増えすぎたためなのだろう。この頃からゲートと呼ばれるようになった穴とは違い、癒やしの力を使うことが出来ないその場所はいつか他の国をも飲み込むのだろうと恐れられた。けれど当時のトップ達は特殊地形に住む者を移住させるくらいしか出来なかった。それに魔を溜める場所が出来たことで少しだけ余裕が出来たのも事実だ。それから二千年が経った今ではすでに三カ国が飲み込まれたが、未だ浸食を止めることは出来ていない。

 だがどうにかしようとはしていた。

 長い間、カルドレッド特別領では魔についての研究が続けられており、魔を一時的に吸収する物質『退魔核』の生成にも成功した。それが四十年前のこと。当時の管理者はこの技術を応用し、ゲートに魔が溜まりすぎることを回避出来ないかと考えた。時間を少し後ろ倒しにするだけでもいい。少しでも余裕を作れればそのうちにさらなる研究を進められる。


 長きにわたり、慈愛の聖女の誕生を嘆いていたギルバート家はこの計画を『慈愛の聖女消滅計画』と名付けた。


 大地の生け贄となる聖女が二度と誕生しませんようにと願いを込めて、実行に移したのは今から三十五年前のことだ。そう、剣聖誕生となったきっかけになったあの事件だ。あれは無理にゲートを開こうとしたために起きた事故だ。


 大陸中から集められた腕に自信のある者達は内部から魔物が出ることを想定していなかった訳ではない。だが数千年かけてゲートの内部が作り変わっていることは誰も予想していなかった。中を覗いた者によると、深い深い穴でしかなかったその場所には新たな世界が広がっていたらしい。そこから魔物が一斉に飛び出してきたのだと。


 多くの犠牲者を出し、計画は失敗。

 魔は未だ多くが大陸に残されたまま。生き残った者もほとんど元のように剣を振ることが出来なくなったため、人々は不安を抱くようになった。

「再び魔物が溢れ出したら、その時は自分達にも被害が及ぶのではないか」

 計画のことを話せば魔の誕生にも触れることとなる。公にすることは出来なかった。だから代わりに圧倒的な強者を作り上げることにした。


 魔物にも勝てる者が存在することを人々に印象づけるため、一番軽傷で大陸一の実力を有していたザイル=フライドを剣聖として祭り上げることにしたのだ。提案者はザイル本人だった。彼の力が衰えてしまう前に剣聖に匹敵する強者を作り上げるため、各国は戦闘力に優れた者を育成するようになった。


 実際、剣聖に並ぶまではいかずとも強者と呼べる人材はすぐに育った。

 だが彼らが目立たないのは圧倒的強者、リガロ=フライドがいるから。今や名実ともに第二の剣聖となった彼だが、生まれてからすぐに各国は彼に注目した。彼の父は計画に参加していたものの、剣の才能はいまいちだというのも大きいのだろう。孫はザイルの才を引き継いでくれただろうか、と幼い彼にプレッシャーと魔を背負わせた。無自覚だろうが、それがリガロ=フライドの性質を大きく歪めることとなる。


 リガロ様は集めた魔を力に変えることが出来るようになった。それだけ聞けば良いことのように思えるだろう。分かったばかりの頃、フライド家は大いに喜んだそうだ。きっと彼が剣聖を継いでくれるのだと。

 唯一、ザイル様だけがその力に警戒し、計画に使用した『退魔核』をリガロ様に持たせ、定期的に魔を取り除いた。そして後にザイル様が危惧していた力の代償が明らかとなった。


 慈愛の聖女は魔によって身体を蝕まれたが、彼が蝕まれるのは心だ。人々に期待され、彼らの不安を背負わされるごとに彼の精神は蝕まれていく。けれど同時に力を増し、そしてさらにプレッシャーを背負わされるという悪循環に陥ることになる。代償に気付いたのは彼の力の発現から数年が経った時のこと。イーディスを拒絶し始めてからのことだった。


 知ってたのに、話せなくてすまない。

 けれどあの状況からイーディスを引き離せばどうなってしまうのかは誰も予想がつかなかった。最悪、リガロ様は暴走を起こす。魔を源に強くなる彼が暴走すればザイル様でも対処することは難しい。だから君を彼の隣に置き続けた。癒やしの聖女が見つかり、彼女との接触を重ねる度にリガロ様の精神状態が正常に近づいていると聞き、安心したよ。マリアはもうこの世を去った後だが、彼女の友でいてくれた君がこれ以上苦しめられることはなくなるのだって。けれど彼は、今まで支えてくれた君の心を踏みにじった。


 ◇ ◇ ◇

「リガロ=フライドが許せない。けれど剣聖を生み出したのは俺たち騎士の末裔なんだ。俺には彼を恨む権利はない」


 そう締めくくったキースは酷く苦しげだった。


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