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17.消えたイーディス

 途中ですれ違った警備の者はリガロの様子にギョッとしていたが、止められることはない。王城の馬小屋に待機させていた愛馬の背に乗り、フランシカ家に急ぐ。何もなければそれでいい。聖女の件を打ち明けて、儀式が終わるまで待っていて欲しい。報酬としてもらえる屋敷を一から一緒に考えて欲しいと告げるのだ。膝を付き、もう二度と離さないと誓おう。

 息を切らして到着したリガロは警備二人に問いかける。

「何か変わったことは?」

「今日はお食事も取らずに部屋に戻られたようで、以降動きはありません」

「ありがとう」

 フランシカ家の使用人に話を通し、彼女の部屋の前に立つ。ノックをし、ドア越しに彼女に伺いを立てる。

「イーディス。リガロだ。今、話いいだろうか?」

「…………」

 けれど一向に返事がない。明日出直した方がいいのかもしれない。けれど嫌な予感は次第に大きくなっていく。

「イーディス、会わなくてもいい! 返事だけでもしてくれ!」

 機嫌が悪いのではなく、寝てしまっているのか。外から見た時は電気が付けっぱなしだったが、そんな時もあるだろう。けれどそうでなかったら……。元気なら脳筋なんて嫌いだと枕でも投げつけてくれればいい。

「入るぞ」

 剣で斬りかかられても構わないと覚悟をし、レディの部屋を遠慮なく開いた。

「クソっ」

 嫌な予感は当たってしまった。リガロが突入したその部屋にイーディスの姿はなかった。

 警備の二人を呼び、三人で部屋の至るところを探したが彼女の姿はない。それどころか人が隠れていた形跡や抜け出した形跡すらもない。応援を呼びたいところだが、城の状況を考えれば難しいだろう。この間もイーディスが乱暴されているかもしれないと思うと居ても立ってもいられない。けれど焦っても情報がなくては動けない。焦りを隠しつつ、リガロは使用人に話を聞くことにした。

「最後に彼女を見たのは誰ですか?」

「私だと思います。食事はいらないとのことで、お飲み物だけご用意させて頂きました」

 メイドが告げた時刻は夜会が始まる半刻ほど前。もちろんその頃には警備の二人が所定の位置に待機している。またその一刻ほど後にイーディスの様子を心配したフランシカ男爵が部屋を訪れている。だが返事はなく、寝てしまったのだろうということで自室に戻った。その時にはすでにイーディスがいなくなっていた可能性が高い。その時間、物音を聞いた者はいないかと聞いて回ったが皆が首を振った。異変は感じなかった、と。

 人の動く影がカーテンに映らなかったことは警備の一人が証言している。だがこの話のどこかに穴があるはずなのだ。人一人が忽然と消えるなんてあり得ない。


 唯一の手がかりはイーディスのベッドの上に開かれた状態で放置されていた一冊の本。それもイーディス本人の持ち物ではないときた。使用人の話によれば彼女はよく図書館から本を借りてきたり、友人と本を貸し借りしていたらしい。おそらく借り物だろう、と。タイトルすら読めないその本にはびっしりと異国の文字が綴られている。バッカスやローザなら分かるのだろうか。


 そもそもこれは誘拐なのか。失踪の可能性も否定は出来ない。

 イーディスくらいの歳の令嬢にとって婚約解消ほど恐ろしいものはないだろう。それも自らに非がないともなればなおのこと。無実の罪で喉元に剣を突き立てられるようなものだ。逃げ出したいと思っても不思議ではない。それこそ解消される前に良い仲の相手と駆け落ちをしたり……。今宵ほど格好の逃走日はない。それも婚約者から夜会に参加するなと言われているからなおのこと。見張りがいたことに驚いていたかも知れない。それでも逃げ出したとすれば、リガロは見逃すべきなのではないだろうか。探して、連れ戻したところで彼女に恨まれるだけ。

 この本だって愛する男との文通に使っていたのかもしれない。リガロの読めない文字を使いこなす男の手を取って、今頃幸せに笑っているかもしれない。何も持ち出さず、本だけを残したことに何かしらの意味があるのではないか。嫌な考えばかりが頭の中でぐるぐると回っていく。大きく息を吸い込み、冷静になれと拳を固める。

「まだそう遠くは行っていないはずです。王子に頼んで、国境付近の門へ伝達してもらいます」

 もしもイーディスが自らの意思で屋敷を去ったのだとしたら、その原因を作ったのは間違いなくリガロである。そして誘拐だとしてもやはりそれは変わらない。隣でオロオロと戸惑う彼女の父に非はないのだ。ならば原因を作ったリガロが家族の元へと連れ戻さねばならない。そこにリガロの心情を組み込む権利はない。

「あ、ああ。頼む」

「それとこの本を預からせてもらってもいいでしょうか?」

「構わない」

「ありがとうございます」

 唯一の手がかりを手に、リガロは城へ戻った。

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