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5.慈愛の聖女

「聖女といったら桃色の髪だろ? それに二人の聖女が同時に存在するなんてあり得ない」

「あり得なくはない」

「は?」

「バッカスの言う通りだ。同時に存在するということ自体はあり得る。だが学園入学年齢まで生き残ることが出来るなんて……。メリーズ、君はなぜ銀髪の女子生徒を聖女だと思ったんだ? 銀色の髪はこの国では珍しいが西方では珍しくもないが」

「彼女の周りだけ魔素の流れが違ったからです。彼女を中心に渦を巻いているようでした」

「ああ、聖女は魔の流れが見えるんだったか」

「正しくは『癒やしの聖女』は魔の流れが見える、だがな」

「どういうことですか?」

「聖女はメリーズのように突然特別な力を開花させる『癒やしの聖女』の他にもう一人いるんだ。おそらくメリーズが感じたもう一人は『慈愛の聖女』だろうな」

「慈愛の聖女? そんなの聞いたことがない」

 アルガはフンと鼻を鳴らす。だが彼も心の底からメリーズの話を否定したい訳ではないのだろう。フードから除く顔には『面倒くさい』と書いてある。まだ会ってまもないリガロにもわかるほどしっかりと。癒やしの聖女の婚約者となった彼にとって新たな聖女の発見は厄介事でしかないのだろう。それにしても慈愛、か。マリア嬢の瞳から慈しみなんて見えなかった。どちらかと言えば執着に近い。ただの友情と呼ぶには濃く煮詰められすぎている。けれどイーディスは全く気付いていないようだった。何度も話は聞いていたが、まさかあんな目をする少女だとは思わなかったのだから。けれどイーディスがそれに気付いていないのは、何も彼女がたった一人の友人だからという訳ではない。おそらく慣れてしまっているのだ。

 マリアからは執着の混じった友情を、リガロからは拒絶と恋情を。そして他の令嬢から悪意を向けられて育った彼女の感覚は他の人よりもウンとズレてしまったのだ。異常な環境が今のイーディスを作り上げた。きっと一つでも欠けていたら彼女は彼女ではなくなっていただろう。どの結末が正しいかなんて分からない。リガロの心境は複雑であった。

「あまり有名ではないからな。産まれたとしても存在は隠されたままのことが多い」

「聖女ってのはありがたい存在なんじゃないのか?」

「『慈愛の聖女』の別名は『贄の聖女』ーー癒やしの聖女のように大地を癒やす力は持たず、かの聖女が有する力は大陸に湧き出す魔素の吸収。聖女の身体に大量の魔素が溜まっていき、大陸中の魔素を一定値まで下げる頃にはその身体が朽ちると言われている。魔素に愛されることから魔界信仰者からは『魔の聖女』と呼ばれて信仰対象にもなっている。また癒やしの聖女とは違って、慈愛の聖女は先代が亡くなってきっかり百年後にイストガルム国の姫として誕生する」

「あそこの姫様ならこの前他国に嫁いでいっただろ?」

「公に発表されている姫は、な。だが公にされていない姫がいたとすれば……。そもそもあのギルバート家が他国の男爵令嬢を婚約者にすること自体がおかしな話だ。だが自国の姫様、ましてや慈愛の聖女ともなれば話は別だ」

「慈愛の聖女を守るためですか……」

「厄介な奴が入学してきたな」

「その二人の周りに魔界信仰者が集まったらどうするんだよ」

 額を押さえるマルクに頭を抱えるバッカス、アルガは面倒臭いと頭をかきむしった。けれどメリーズは真っ直ぐと前を向いていた。この場で一番現実を見つめているのは彼女かもしれない。数日前、彼女は自身を聖女の片翼と称していた。片割れが見つかったことに対して、彼女は彼女なりに何か思うところがあるのかもしれない。

「知らないところで祭り上げられるよりはずっとマシだろうと割り切るしかないな。それに誰も『慈愛の聖女』がこの年まで生き残り、あまつさえ友人のために学園に入学してくるとは思うまい。しばらくは大丈夫だろうが、ギルバート家との話し合いも必要だな。儀式の前倒しも視野にいれる必要がありそうだ。メリーズ、アルガ。君たちには少し無理をさせてしまうかもしれない」

「面倒だが、まぁ早く終わるならそれに越したことはない」

「慈愛の聖女様が長年努めてきたお役目に比べれば無理なことなんてありませんわ!」

「リガロ。君には慈愛の聖女が暴走を起こさないか、それとなくイーディス嬢に探って欲しい」

「俺が?」

「慈愛の聖女が学園に通う理由はイーディス嬢だ。どこで知り合ったのかは分からないが、対等に話せるのはギルバート家の令息か彼女だけだろう……。巻き込みたくないと言っていた君には悪いが、彼女が儀式成功の鍵の一つを握っている」

「イーディスが……」

「ともかく、これから私達はマリア嬢とイーディス嬢を刺激しないように気をつけつつ、儀式を早く済ませる方法を模索しなければいけなくなった訳だが、何か良い案はあるか?」

 巻き込みたくないという気持ちは今でもある。けれどイーディスとマリア嬢を引き離すことなど出来るはずもない。


 こうしてイーディスもまた、聖女の儀式に関わることとなった。


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