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5.嫌なお誘い

 相変わらずお茶会に出れば嫌みのオンパレードだが、楽しいことを思い出してグッとこらえる。

「リガロ様は本当に私には勿体ないくらい素敵な方で……」

 彼に相応しい女性となるように努力をすると口にする一方で、腹の中では目の前のご令嬢達に毒を吐く。他人の婚約者にいちゃもんつける暇があるんだったら自分の婚約者に少しでも構ってやりなさいよ、なんて口が割けても言えるはずがない。イーディスに出来る事と言えば、男同士で輪を作る彼女達の婚約者に哀れみの視線を向けるだけ。彼らもリガロと爵位は同じとはいえ剣聖の孫というブランドには勝てないと思っているのだろう。それでも公然の場で格下扱いされて面白くはないのか、こちらに鋭い視線を向けてくるほど。文句なら自分の婚約者に言えばいいものを、悪意の対象が向くのはいつだってイーディスだった。リガロにろくに相手すらされていないことは見れば分かるはずなのに……。リガロの頬を叩きでもすれば何かが変わるのかもしれない。だが同時にフランシカ家の立ち位置すら変わってしまう。だからどんなに無様だろうと捨てられる日まで耐えるしかないのだ。何度も何度も『シナリオ終了までの我慢』だと必死に自分に言い聞かせ、右手を固めながら手のひらに爪を立てる。そして苛立ちを発散するように本を読みあさった。



 こんな日がシナリオ終了までずっと続くと思っていた。

 けれどある日、リガロは定型文以外の言葉を口にした。

「今度の週末、剣の大会がある」

 普段はイーディスに興味を向けることのない彼が珍しく剣を振る手を止め、読書をするイーディスの元までやってきたのである。一体どんな心境の変化か。誰かに仲良くしろとでも吹き込まれたのだろうか。そうでなければわざわざそんな言葉を口にすることすらないだろう。なにせイーディスは今まで何度もリガロが参加する剣術大会に足を運んでいる。初めて訪れた時こそ彼に招待されたものだが、二度目からは呼ばれることはなくなった。一度目の大会が終わって少しした後から彼が本格的に鍛錬に打ち込み始めたからである。誘われずとも国が開催している剣術大会の予定くらい分かるもので、二度目以降は勝手に足を運んでいる。朝一番に屋敷を出て、いつも決まって観覧席の一番前を確保する。表彰式が終わった後には必ず控え室へと足を運び、彼の勝利を讃える言葉を並べる。返される言葉なんていつも「ああ」か「そうか」の二択だというのに、ご苦労なことだ。だが今はリガロに媚びない期間中である。彼が鍛錬をしている最中に読書に耽る女が大会の応援なんて行くはずがない。つまりカレンダーに書き込まれた赤丸は丸一日読書に浸れる素晴らしい日の証し。例え、彼の口から大会の日程を告げられたところでイーディスの読書日が揺らぐことはない。けれどメイドが近くにいる手前、完全にスルーするのも後で何を言われるか分からない。今、良いところなのに……と舌打ちしたい気持ちを押さえ、本から視線をあげる。

「頑張ってください。応援しています」

 笑みすら浮かべず、けれどあなたのことだからどうせ今回も優勝するのでしょう? と変な確信を持った眼差しを向ける。するとリガロは大きく目を見開き、息を飲んだ。当然来ると思っていたのだろうか。だとすればそもそもわざわざ予定を告げる意味すらない。この脳筋は何がしたいのか。彼と向き合ったところで分かるはずもない。

「休憩するならお茶を用意させますが」

 これ以上話があるかとオブラートに包んだ言葉を投げつける。

「いやいい」

 リガロは短く告げると剣に手をかけ、鍛錬を再開した。イーディスはメイドにお茶を淹れてもらい、本に手を伸ばす。先ほど中断したページを探し当て、物語の世界に浸ろうとした時だった。

「……大会、見に来るといい」

 確かにリガロの声で紡がれた言葉に今度はイーディスが大きく目を見開く番だった。けれど彼がそれ以上を口にすることはなく、ひたすらに素振りを続けた。メイドは「やっと! やっとですね!」と自分のことのように喜んでくれたが、イーディスの気分は沈んでいた。折角の読書日が潰れてしまったのだ。その上、朝から夕方まで続く剣術大会に足を運ばなければいけない。イーディスは早速着ていく服を選ばなければとはしゃぐメイドに聞かれないように小さくため息を吐いた。


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