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26.ようこそ読書会へ

「ローザ様も読書会にご招待したいのだけどどうかしら?」

「私は本好きのお友達が増えるなら大歓迎ですわ!」

「マリアが良いなら俺は別に構わない」

「俺も構わないが、イーディス嬢はローザ嬢とはどこで知り合ったんだ? 彼女の周り、いつも取り巻き凄いだろ」

「ちょうどお一人の時に。みんなOKなら早速お手紙書かないと! 一緒に文面考えましょう?」

 四人で顔を付き合わせながら、新たな仲間への招待状を書く。最後に明後日の朝に茂みの中を確認します、と記し、イーディスが持参した本に挟んだ。そして三人を図書館に残して渡り廊下へと向かう。まだ朝も早く、他の生徒の姿はない。あの日誘われた茂みをかき分ければ、靴の跡の上には赤いリボンが落ちていた。出会った時に彼女が身に付けていたものと同じ物だ。目印として残しておいてくれたのだろう。イーディスはそのリボンの下に本を置き、再び図書館へと戻った。

 手紙に記した通り、二日後に茂みを覗けばそこにはイーディスが残した本とは違うものが置かれていた。その上には真っ白いリボンが置かれている。本とリボンを回収し、弾む足取りで図書館へと向かった。

「イーディス様、その本は!」

「ローザ様からのお手紙が入っていますわ」

 本の中から手紙を抜き取れば、マリアはキラキラと目を輝かせた。バッカスがやって来るのを待ち、四人でローザからの手紙を読む。手紙には歓迎してくれて嬉しい。そしてラスカシリーズの感想を早く伝えたいと書かれていた。彼女はすでにラスカシリーズを読破していたようだ。感動の名作だと、特に『ラスカと飛行艇』が気に入ったのだと、文字からすでに興奮具合が伝わってくる。

「飛行艇か、ローザ嬢はなかなかコアなところを選んだな」

「是非遺跡についての感想を聞いてみたいところだな」

「ローザ様はラスカの服に興味はあるでしょうか!」

「みんなでラスカシリーズの好きな話を持ち寄って好きなところを紹介するのはよさそうですよね」

「それは名案だな!」

「では早速そのことを手紙に記そう。イーディス嬢、レターセット持っているか?」

「もちろんです!」

 グッと親指を立てれば、三人は各々ペンを取り出した。それぞれに便せんを一枚ずつ渡せば、思い思いの言葉を書き連ねていく。もちろんイーディスも。そして前回と同じように封をした手紙を本に挟む。今回もやはりイーディスのお気に入りの本である。先ほど本と一緒に回収した白いリボンは本の上に載せておいた。きっと今日か明日辺りに回収してくれることだろう。ローザは明後日図書館にやって来るという。

「楽しみだなぁ」

 声に出して呟けば自然と頬が緩んだ。



「ローザ=ヘカトールです。この度は読書会に参加させて頂きありがとうございます」

「そんなかしこまらないでください。私達、ローザ様がいらっしゃるのを楽しみにしていましたのよ」

「マリア様……」

「本は持ってきたか?」

「それはもちろん! 『ラスカと飛行艇』の他に私の一推しの一冊を」

 ローザはニッと笑って、バッグの中から二冊の本を取り出した。一冊は絵本サイズのラスカシリーズ。そしてもう一冊は文庫サイズである。だがその厚さは通常のものの倍近くある。前世でいうところのポケット辞書のよう。もちろん中身は辞書ではなく小説だが。それも表紙を見た瞬間、この場にいる四人が目を見開いて驚くほどの超有名作品だった。

「『カルバス』じゃないか! しかも初版帯付きだと!? 買い取り……いや手放すような読者がいるとは思えない」

『カルバス』は二年前に突如として小説界に現れた作家のデビュー作品である。作家の素性は謎に包まれており、性別すら不明。自費出版されたその本は初版が百冊にも満たないと言われ、それらを手にしたものはごくわずか。だがそのわずかな人間達の噂により、初版は数日のうちに完売。大陸のどこの店に置いているかも分からずに求め歩いた者は数知れず。一ヶ月後に増版されるや否やそれらも書店に並ぶと即日完売。貴族や商人だけではなく、どこの国でも多くの平民が手に取るなど爆発的流行を生み出した。内容は身分違いの男女が恋に落ちる超王道恋愛小説である。けれど今まで読んだどの本よりも心情描写がグンを抜いていた。胸が抉られるような悲しみに、羽根が生えたような幸福感。実在しないはずの花の香りやヒロインの髪の質感さえも読者に伝えてくれる。まるで魔法にかかったよう。多くの出版社が作家との接触を試みた。けれど辿り着くことは叶わなかった。なにせ本を刷ったのも本屋に並べてくれと頼んだのも全てその作家が雇ったなんでも屋だったのだ。そしてその男ですら作家のことを何も知らなかった。『これを小説として本屋に並べて欲しい』と依頼されただけのようだ。増版が出来たのはその作家が『利益が出た場合は全てそちらでもらってくれ』と伝えていたから。そして何でも屋の男もまたカルバスの世界に捕らわれたからだ。彼のおかげで増版されたカルバスだが、帯が付いているのは初版のみ。もちろんここにいる四人ともが『カルバス』を所有しているが、初版はおろか第二版ですらない。帯の存在だって噂を聞いただけで現物を見るのは初めてだ。

「実は商人からもらったリストで見た時から目を付けていましたの」

「あらすじすらなかったんだぞ!?」

 バッカスはあまりの感動にぷるぷると震えている。その姿にローザはキリッとした顔で口を開いた。

「分からないからこそ読みたくなるのですわ」

「確かに! ああ、でも羨ましい! 帯をよく見てもいいか?」

「もちろんですわ」

「俺、この学園に通って良かった……」

 しみじみと呟くバッカスは本当に幸せそうで、キースと『ここ、伏線だぞ』『この読点な~。148ページとリンクしている』と感想を言い合っている。

「この本を持ってきたのにはオススメだという以外にももう一つ理由がありまして」

「理由?」

「はい。本文に出て来る童話がラスカシリーズとよく似ているなって。そう思い始めると帯の文にも少し理由があるように思えて」

 帯には『あの子達が生涯笑って過ごせますように』と手書きで書かれている。作者のサイン付きであること、そして初版以外に帯がついていないことから作者本人が書いた可能性が高い。

「『あの子達』がラスカシリーズの登場人物を指している?」

「私がたまたま続けて読んだからそう見えただけで、もしかしたらラスカシリーズの他にもリンクしているように見える作品はあるのかもしれません。それにこれが次の作品への伏線と取ることも出来ます!」

「そういえば以前、作者は西方の生まれなのではないかと噂になっている。カルバスにはまだ気づいていない場所が隠されていそうだな!」

 目を爛々と輝かせたバッカスはページを捲ろうとした。けれどマリアは「待ってください」と彼の手に手を重ねた。

「マリア嬢?」

「私の持っている本と色が違う……」

「どこだ?」

「手元と机の影です。うっすらと赤みが混じっています」

「言われてみればそんな気も? だが保管環境では……ないか」

「カルバスなら確かこの図書館にも置いてあったはずです。私、取ってきます」

 イーディスは立ち上がり、目的の棚へと足を進めた。


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