表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/155

10.邪魔者

「オーブの試験はどうなっていますか!」

「どうした、急に」

「調整が終わり次第、シンドレアに送ります」

「リガロ様のだったら慎重に進めようとこの前も決めたじゃないか」

「リガロ様のは計画通り進めてください。早めに送りたいのは王家に対してです」

「……子ども達か。分かった。今追加で作っているネクタイやらリボンやらと一緒に送ろう」

「職員を何人か派遣することは可能ですか?」

「俺も考えていた。こいつらなんてどうだ?」

 アンクレットの方にも報告書が回っていたらしい。すでに派遣する人員のピックアップまで完了している。開発班から一人と、研究チームから一人、それにカルドレッド一の暴れ馬のパートナーである。彼らがいれば大抵のことなら早めの対処が可能だろう。何かあっても二日と経たずにカルドレッドに情報が回ってくる。実にいい選出だ。

「彼らにお願いしましょう」


 シンドレアに三人の職員を派遣し、マントや王子達のデータに加え、オーブのデータも送らせた。そのデータを元にさらなる調整を重ね、大会から半年が経過してようやくリガロの元にもオーブを送ることが出来た。時間がかかったが完成した訳ではない。まだまだ改良の余地は残されている。それでもこれ以上遅らせることは出来なかった。


 リガロはすでに剣の退魔核と退魔核を織り込んだマントだけでは対処しきれないレベルになっていたのだ。会場やシンドレアの観光地にオーブを置き、大量の魔を回収しても、彼の中に溜まっていく魔の増加を抑えることは出来なかった。原因は不明。頻繁に取り替えるくらいの対処法しかない。オーブもマント同様、数日に一度新しいものを用意することになるだろう。精神状態が保てているのが不思議なくらいだ。




「イーディス様、像の撤去ってどういうことですか!?」

 メリーズの村に撤去要請の手紙を出してから一週間。イーディスが想定していたよりもずっと早くメリーズは怒鳴り込みにやってきた。皺を引き延ばした手紙をズイッと掲げて訳を説明しろとイーディスに詰めよる。彼女に好意以外の感情を向けられたのは初めてだ。だが手紙を出した時点で予想は出来ていた。メリーズはイーディスを『尊敬』してくれているから。


「撤去というかリガロ様のみに変えて欲しいなと思いまして。もちろん資金はこちらが負担します」

「あの像は我が村を救ってくださったイーディス様とリガロ様のお二人がいらっしゃるから意味があるのです! 剣聖の像が必要ならば他に建てます!」

「それでは意味がないのです」

 本当はイーディスだって彼女から、村の人達から像を取り上げたくはなかった。だが事情が変わったのだ。


「なぜですか!」

「これですよ」

 机から一冊の雑誌を取り出し、付箋のついたページを開いて見せる。それはリガロ特集のページであり、同時に今になって出てくるには不自然な名前があった。


「イーディス=フランシカについて……」

 きっかけとなったのは三ヶ月前のとある雑誌だった。

 リガロの活躍をまとめる記事にメリーズの出身地が取り上げられたのだ。問題は像が掲載されたこと。台座に刻まれた名前からリガロと共にいる女性がイーディスであることが判明し、記者達は『イーディス』に関する情報を集め出した。


 そこからリガロが結婚しない理由は突如として姿を消した婚約者『イーディス=フランシカ』にあるのではないかと騒がれるようになるまで、さほど時間はかからなかった。

 イーディスとてオーブの調整や子ども達の魔量の引き下げに奔走してなければもっと早く気付くことが出来ただろう。溜め込んだお馴染みの雑誌で見つけた時にはもう遅かった。メリーズの村には多くの人々が集まり、ついにリガロへのインタビューでもその名前が載るようになってしまった。『イーディス=フランシカ』はとっくに死んでいる。今さら掘り起こしたところで、前に進もうとしているリガロの邪魔になるだけだ。

 今のところ、オーブや退魔核に異常は見られないが、これ以上変に刺激はしたくない。


「イーディス=フランシカは邪魔なのよ」

「わかり……ました」

 メリーズは悔しそうに唇を噛みしめ、否定の言葉を飲み込んでくれた。イーディスが新しい像の費用を渡そうとすると、ふるふると首を振り、そのままカルドレッドを去った。


 それから二週間後、例の像が忽然と姿を消した。

 代わりに像があった場所には木製の像が置かれたそうだ。新聞の一面に記事と共に大きく載せられた写真にイーディスはため息を溢した。そこに映っていたのは剣聖像ではなく、聖母像だったのだ。それも元の像よりも立派な像である。カルドレッドから村に戻ってすぐに彫り始めたのだろう。

 女神像の次は聖母像か。彼女はどうあってもそこにイーディスを置きたいらしい。とはいえ、あれがイーディスだと分かる者は本当にごくわずかだ。言いたいことはあるが、譲歩してくれた上で村人達の説得もしてくれたメリーズには素直に礼を告げるべきなのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ