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1.有能な仲間たち

 学生時代とは別の意味で変わり者だったメリーズは、カルドレッドに頻繁に足を運ぶようになった。イーディスを見つける度に拝むのは止めて欲しいが、彼女の才能はピカイチだ。癒やしの聖女と呼ばれるだけあって、カルドレッド職員達でさえも息を飲むほどの能力を持ち、何より想像力と思考力がずば抜けている。知識レベルも高い。少ない情報であらゆる可能性を導きだすのである。またローザも暇をつくってはこちらに来てくれるので、研究は凄まじい早さで進んでいく。


「本当に、私の周りって凄い人集まりすぎじゃない? 私の役目が伝書鳩と化している」

 イーディスの主な仕事は研究チームや開発チームの進行確認と、魔界側との連絡およびお菓子配給である。たまにアンクレットに頼まれて書類に目を通したりサインをしたりするものの、領主の役目のほとんどをアンクレットが引き受けてくれている。なんでも二十年目を背け続けた分の仕事をやっているだけだとか。イーディスがやろうとしても俺の仕事だから、の一点張りなのだ。

 手伝ってくれとワガママを言ったのはイーディスだが、まさか周りが有能すぎて自分の仕事がなくなるとは考えても見なかった。領主の部屋でだらりと机に身体を預けつつ「なんか私にも出来ることないかな~」とぼやく。魔界へのおやつは昨日持っていったばかりだし、クッキーはアイスボックスクッキーを冷蔵庫にいくつかストックしてある。マフィンを作ってアンクレットに差し入れするのも三日前にやったばかりだ。かといって研究班や開発班に差し入れにいけば確実に手が止まってしまう。カルドレッドの役に立つ行動がしたい。


 うんうんと唸っていると、ふととあることを思い出した。

 領主就任の手紙を渡しにいってくれた職員の一人が変なことを言っていたのだ。


「イーディス、オウルって領主知っているか?」

「はい。以前、バッカス様のお仕事に同行させてもらった時にお会いしました」

「今日、あいつの領の近くを通った時に呼び止められて、変なことを聞かれたんだ」

「変なこと?」

「『聖母様はお元気にしていらっしゃいますか?』ってな。聖母なんてとっくの昔に死んでいるし、そう呼ばれる対象は一人しかいないはずだ。変なことを言うもんだと思ったんだが、少し話を聞いてみると、どうもイーディスを指しているようなんだ」

「え、私?」

「なんでも初めは気付かなかったが、そのオーラはまさしく聖母のものだって」

 多分魔に犯されたか何かだろう。後日、オウルの元に医療班を送る予定だが、変な話だったからとりあえず伝えておこうと思って。その日はそう締めくくっていたが、後日あちらに足を運んだ医療班の者によると彼は魔には犯されていなかったという。それどころかあの日を境に身体の調子がよくなり、大地も潤うようになったと。それは全て聖母様のおかげだと様々な場所で言って回っていたらしい。

 だが多くの者はオウルの言葉を信じようとはしなかった。当たり前だ。カルドレッドに所属しているとはいえ、どこの娘かも分からない少女を『聖母』と讃えるなんてどうかしている。頭でもおかしくなったのだろうと流していた。だがその『ラスカ』が領主になったもので一部で噂になっているらしい。

 就任当初は忙しかったため、すぐに収まるだろうと流していたが、よくよく考えると不思議な話だ。


 なぜオウルはイーディスと聖母を結びつけて考えるに至ったのか。

 魔王や羽根男はともかく、カルドレッドの者や二人の聖女ですらイーディスと聖母の関係に気付いていない。なのに、一度会っただけのオウルは気付いた。あの場では答えを導き出せなかったのだろうが、出会った瞬間に何かしらの違和感を持っていた可能性が高い。イストガルムの教会に置かれていた聖母像と、お出かけスタイルのイーディスとでは似ても似つかない。声は似ているか分からないがオウルだって聖母の声を知っているはずがない。雰囲気だって聖母は高貴な清楚系、イーディスは派手か地味の二択である。


「もしかして、魔道書?」

 確か羽根男は出会った日に「イーディスの本に聖母の力がべったりついている」と言っていた。その聖母の力がなんらかの影響を及ぼしているとすれば……。職員を通して聞いただけの情報を鵜呑みにするつもりはないが、聞いてみる価値はある。どうせ暇だし。イーディスは立ち上がると、食堂でいくつかの食料を分けてもらう。そして外に繋いだケトラに跨がった。


 行く先は魔界。だが真っ直ぐ遺跡にはいかず、屋敷に立ち寄る。お菓子はいらなくとも、何かしら手土産を持っていくと明らかに反応が違うのだ。魔人や魔王は空腹という概念がなく、食べ物を必要とはしないが、元人間の彼らは食事を摂りたいという欲はあるらしい。だが魔界には大した食べ物がない。精々木の実や果物、野草が関の山。過去に領主が持ってきた苗や種を植えてみたこともあるが、魔界で育つことはなかったらしい。

 彼らは小娘相手に直接ねだることはしないが、イーディスが彼らの好物を見抜けるほどにはわかりやすく食事を求めている。羽根男の好物はピーナッツクリームを多めに塗ったサンドイッチ。少ないと尻尾が垂れるので、溢れんばかりに塗りたぐることにしている。魔王の好物は肉だ。種類は問わないが、焼きたてがいい。だから肉はあえて調理せず、食堂からもらったままの状態でバスケットにいれる。ついでに野菜とバケットも。

 そして何よりも忘れてはいけないのは濃いめに入れた紅茶である。これを二リットルの水筒二本分。またセットの牛乳と砂糖も同じバッグに入れる。いつものバッグも持っていくのでこれだけでずいぶんな大荷物だ。

 だがこれがイーディスが魔界訪問をする時の最低限の荷物なのである。


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