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俺の養女に手を出すな!  作者: 杏朱
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第五章 後顧の憂いを断とう 1

草木も眠る丑三つ時、小鳥遊(たかなし)クンのアパート前には、異様な風体の男達が集合していた。

彼らは昼間に遭遇した、暴走族の青年達である。

わざわざ音を立てない様、自分のバイクを手で押して、ここまでやって来た。


集団(グループ)の中に、リーダー格の青年の姿は見えない。

この場には手下の連中だけが訪れた様だった。


「おいおい、リーダーは呼ばなかったのか?」

「アイツは単なる財布だろ? リーダー面して稼ぎの半分は持って行く様な奴を呼べるかよ」


リーダー格の青年が聞いていれば、憤慨しそうな台詞が飛び出す。

彼らの云う半分の金にしても、組織への上納とグループ連中へのオゴリで消えてしまう。

リーダーの取り分など殆ど無かったのに、酷い言い草だった。


この集団(グループ)の大半は、社会から脱落(ドロップアウト)した上流階級(ぼんぼん)の子弟で構成されている。

金銭感覚の無さと、金遣いの荒らさでは、定評があった。


「で、ここが昼間のおっさんの家か?」

「そうッス。この目で確認したッス」


あの後、二人を尾行していた青年が答えると、ポリタンクを手にした青年達が、ワラワラとアパートに近づいた。


「では、これより裁判を始めまーす。被告人は、俺らの崇高な募金活動を拒否すると云う、反社会的行動を起こしました。有罪と思われる方は挙手をお願いしまーす」

有罪(ギルティー)

有罪(ギルティー)

その場にいる全員が醜悪な笑みで「有罪(ギルティー)」と手を挙げる。


「判決! よって被告人を火炙りの刑に処しまーす」


これは、彼らの考えた娯楽だった。

住宅に火を着け、焼け出された人々の絶望的な表情を写真に撮って、ネットに公開する。


リーダー格の青年がいれば、青い顔をして必死になって止めた事だろう。

しかし、タガの外れた青年達を止める人間は、この場には誰もいなかった。


最初は、おっさんの家を突き止めて小金を稼ぐだけの腹積もりだった。

しかし、あれよ あれよと云う間に、内容が放火にまでエスカレートしてしまった。


単なる憂さ晴らし。

日頃の溜まりに溜まった鬱憤(うっぷん)が、この どうしようもない娯楽へ、彼らを導いた。


『自分達は抑圧されている』

彼らは常々、そう感じていたのだ。


しょせん成金連中と、周りの集団(グループ)からは揶揄され、蔑まれる日々。

楽しい募金活動は、リーダー格の青年の指示に、いちいち従わなくてはならず、自分達の思う通りには させてもらえない。


自由を求めて暴走族になったと云うのに、ここでも組織のヒエラルキーには逆らえず、上役には常にヘコヘコしなければならない日々。

屈辱だった。


そんな中、リーダー格の青年を可愛がっていた組織の幹部が事故で入院した。

そして、彼らは気付いたのだ。

リーダーを庇護していた権力が消え失せれば、もうリーダーの言いなりになる必要は無いのだと云う事を。


これからは、自分達の やりたい様にやる。

手始めに、むかつくおっさんの絶望した顔でも見てやろう。

彼らの動機なんて、そんな単純モノでしかなかった。


灯油を満載したポリタンクに焚き付け用の新聞紙が差し込まれる。


想像力の欠如した頭では、人が焼け死ぬかも知れないとか、思い出や財産を焼失して、絶望する人がいるかも知れないと云う考えは浮かばない。


モヤモヤする気持ちをスカッとしたい。

その一念でしか行動していなかった。


どうせ、俺らは未成年。

手が後ろに回った所で大した事はないし、親が何とかしてくれる。


彼らの倫理的な壁は、限りなく低いモノだった。


シュボッ!


高級そうなオイルライターに火が灯る。

ゾクゾクとした背徳感に、その場にいる全員が狂喜した。


裁判長役の青年が、この場を代表して号令をかける。

「イッツ、ショウ、ターイム」


ドォウン!!!


掛け声と共に、ポリタンクの前にいた人間が、周囲のバイクと共に一斉に宙を舞った。

それは それは、とても芸術的な軌跡を(えが)いて。


「な……なっ」

数秒後、重力に引き寄せられ、目の前にドサッ、ドサッと、人が降って来る。

あまりの光景に、腰を抜かして座り込む、裁判長役の青年。


最初に飛ばされた連中が地上へ落ち切ると、その後は丁寧に一人ずつ、別の仲間が空へと飛ばされた。


飛ばされた仲間が地上へ落ちるたびに、新たに上空へと巻き上げられる仲間たち。

状況を察して逃げようとすれば、優先的に空へ飛ばされる。

大混乱に陥った集団は、数分もせず、たった二人を残して、全ての人間が空へと飛ばされ、そして地に落ちた。


「どうなってやがる」

裁判長役だった青年が、絶望交じりの呟きを漏らす。


「何なんっスか!? 一体、何が起こっているんッスか!?」

二人の尾行役だった青年が、半狂乱になりながら喚き散らす。


「あやつらで最後じゃな……」

最上階。玄関前の廊下から、眼下に倒れる暴走族を手すり越しに見つめ、エンリは感慨もなく呟いた。


その時だった。


「こいつは派手にやりやがったなぁ……」

エンリの後ろから、突如 野太い声が鳴り響いた。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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