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新たなる宇宙シリーズ

災害

作者: 尚文産商堂

プロローグ


ファイガン暦4123年。すでにその時にはその兆候は現れていた。

しかし人々は、それをたんなる通常の時期の流れの中の行動としか考えていなかった。

それこそが、これから起こるさまざまな現象の最初だった。


第1章 大異変前夜


白の者と黒の者が現れた時、世界は崩壊する。これは昔の伝説でしかなかった民族伝承の一説である。

クチクラ・ルカルンドは、そんな民族伝承を研究している第1人者だった。この宇宙中に散らばっている民族伝承をひとつの本にし、出版していた。

第14銀河国立民俗学研究所の研究員でもあった彼は、さまざまな場所に出入りする事が出来た。そして、学会に対してどこの民族にも終末思想があることを示した最初の人だった。


「やれやれ、ようやく言え帰れるな…」

彼は1週間ぶりに家族が待つ家に帰った。

「おかえりなさい!」

娘と息子が笑顔で出迎える。ともに10歳になったばかりだった。

「ああ、ただいま」

ゆったりとした口調で答える。帽子を玄関脇の棚の上に置いて、リビングへと向かった。

「あなた、おかえりなさい」

彼の妻であり、良き研究仲間であるタリウム・ルカルンドは、リビングで編み物をしていた。

すぐそばでは、暖炉の火が楽しげに弾けている。

彼はどっかりとソファーに座る。目の前には白い机があり、その上には晩御飯が乗っていた。

「とりあえず、食べましょうか」

4人ともソファーから降りて、机の周りに座った。


「ところで、研究は進んでいるの?」

タリウムがクチクラに聞いた。

「ああ、まあまあだな。この前、学会に発表したことのパッシングを食らっているところだ。そんな事は無いって言う事でな」

「私は、そんな事無いと思うな」

娘である、レニウム・ルカルンドが言った。

「娘は応援してくれるのか…」

クチクラは、涙が溢れてきそうだった。

「ごちそうさま。僕は、早めに戻って、やりたいことがあるから」

息子である、キサントフィル・ルカルンドがそう言って、そのまま立ち上がった。

「ちょっと待て、やりたい事って何だ?」

「昔聞いたことがある伝承の研究」

「それは、どんな伝承なんだ?」

クチクラは、食事そっちのけで話に食いついた。

「あなた、食事の時まで仕事の話はよしましょうって、散々いっていますでしょ?」

タリウムが、クチクラに注意した。

「ああ、そうだった。すまないが、後で詳しく教えてくれ」

「いいよ。じゃあ、僕は、部屋にいるから」

「私も、戻ってるわね」

キサントフィルとレニウムは、それぞれの部屋に戻った。


親にとって、一番の幸福とは、一体なんだろうか。

クチクラは、それが自分の仕事を引き継いでくれることだと考えている。

何にもまして、それが嬉しいと考えている。

だからこそ夫婦揃っての職業である、民族伝承研究家になってくれる事が、クチクラにとって一番嬉しい事だった。


「入るぞ」

クチクラは、キサントフィルの部屋に入った。

「どうぞ」

キサントフィルの部屋は整然と整理されており、全ての本が棚の中に確実に収納されていた。

「で、夕食の時に話していた伝承ってなんなんだ?」

「ああ、それね。ちょっとまってね」

キサントフィルは、かなり古い黄ばんだ紙を取り出した。

「昔、神がいた。片方は黒、片方は白。世界は、灰色で包まれていた。

神は、黒と白、どちらかで世界を染めようと、日夜闘っていた。

その影響で、神は増えた。神は、その増えた神を律するために、掟を作った。

しかし、黒とも白とも決まらない世界は、次第に、完全な中間色となった。

その結果、どちらかの神も勝利することは出来なかった。

黒と白のそれぞれの神に作られた神々は、その不完全なる勝利に怒った。そうして、元々の神を追放し、自分達だけの楽園を作った。

それが、この宇宙である。

この宇宙は、灰色だからこその利点もあるが、常に、黒の神と白の神の火種となっていた。

だから、この世界に、黒と白の神、二人が合わさった時には、世界が崩壊するだろう」

キサントフィルは紙をたたんだ。

クチクラは考えはじめた。

今まで聴いた事が無い伝承だった。

「どこでそれを見つけたんだ?」

「友達からもらった。その友達は、友達のお父さんから。友達のお父さんは、さらにそのお父さんからって言う感じで、ずっと伝わっていた物だって」

「じゃあ、ここ最近に作られたものじゃなくて、相当昔、最低でも5代に渡っては、受け継がれて来ていたんだな」

「そう言う事になるね」

「これを、研究に使って、発表してもいいのか?」

「いいみたいだよ。本人に聞いて確かめたけど、名前さえ出さなければ、どんなふうにしてもらっても構わないって」

「そうか…」

クチクラは考えた。

これまで集めてきた民族伝承。さらに息子が持ってきた言い伝えのような書物。

全てが、白い神と黒い神が合わさった時に世界が滅びると、そう伝えていた。

「世界は、必ず滅びるものなんだな…」

クチクラは、そう確信した。


翌日の朝早く、クチクラは家を出て、研究所にこもった。


第2章 変化の波は突然…


それから1年経った。宇宙のとあるところで起こった政変。それが、全てのきっかけだった。

それにより、第5銀河系連合国は崩壊。

その結果、無政府状態に陥った第5銀河系全体に対して各銀河系は封鎖措置をとった。


「我々は合致した政策として、無政府状態に陥った第5銀河系全体に対して、治安維持軍を派遣し新しい秩序の回復を狙う」

発表したのは、その他の銀河系連合を代表して第1銀河系で成立していた、国家連合体だった。

さまざまな支援がすぐに集まり、発表から1週間後にはそのための支援団体まで設立されるほどだった。


「やっぱりな…」

クチクラは国立民族岳研究所の研究室で、一人合点していた。

「どうしたの?」

この日は妻のタリウムも来ていた。

「ああ、第5銀河系連合国が崩壊しただろ?それについて昔の文献を調べていたら、どうやら黒の者と白の者が関係していそうなんだ」

「でも、それが誰か分からないんでしょ?」

「昔いた神がそれに該当すると思う。黒の神は、サイン神。白の神は、おそらくアントイン神だろう」

「でも、彼らはもうひとつになっているわ。この伝説が本当だったら、もう成就していても不思議じゃ無いわよ」

「そうだよな…いや、待てよ…」

クチクラは、突然、紙の裏の白いところに何か書き始めた。それは、黒い円と白い円だった。

「どうしたのよ、急に」

「今いる神で、誰が黒くて誰が白い?」

「え〜、誰だろう…」

「じゃあ、今の神の名前、全部言って」

「えっと…スタディン神、クシャトル神、ナガミ神、ショウヘイ神、カナエ神、サダコ神、ユウタ神、アユ神、クニサキ神、サトミ神、タカシ神、クリオネ神、ヒデキ神、タマオ神、ミント神、レモングラス神、ハーブ神、オールドゴットね。でも、色とかって…」

「……もう一人いるはずだ」

「え?でも、これで、全員じゃ…」

「いや、メフィストフェレスと言う神がいるらしい。この文献にそう書かれている。神々の神と自称しているらしいが…」

クチクラは漫然と白い紙に名前を書き、それらを見つめる。

「どうでしょうね。それよりも、コーヒーとか、いかがですか?」

「ああ、ブラックで頼む」

「はいはい」

タリウムは、そのまま研究室から出た。クチクラは、一人で部屋にこもって研究を続けていた。


無政府状態に陥っていた第5銀河系に到着した治安維持軍は、その状況を見て驚いた。何一つ残っていなかった。空も、大地も、人も、命も、惑星自体も。

「いったい、なにが…」

治安維持軍派遣隊隊長サーカディ・アンリズムが連絡を入れた。

「とりあえず連絡だ。第1銀河系中央連絡室に対して、事実をありのまま連絡してくれ…」

その直後、何らかの振動を感じた。

「なんだ?」

その発振源を見つけようとして、機器をいろいろと操作していたら、途端に、船のあちこちに異常を知らせるアラームが鳴り響いた。

船に積まれているAIは、すぐに離脱するように警告を出し始めた。

「船を、捨てるしかないな…」

サーカディは決断した。

「全船連絡。本船、これより、全乗組員離脱せよ」

「船長、それって…」

「現在、死傷者580名。全体の8割が死んでいるか怪我をした。死んだものは、この船の中に、怪我をした者は、優先的に船から出させろ。いまなら、まだ間に合う…」

「船長は…」

「船とともに歩むのが、船長としての最後の務めだ。こいつとともに、神の元へ帰るだけさ」

サーカディは、船の制御盤を叩きつつ、そう部下に笑って言った。

「これまでご苦労だった。俺の事は心配するな。常に、生きて帰るって、そう言っただろ?」

部下は敬礼して、最後に一言言った。

「船長。あなたは、最後まで迷惑な存在ですよ」

船長は、笑って答えた。

「それが、船長のあるべき姿じゃないのか?」

部下は、それを背中で聞きながら下船した。


船から出て外壁を見ると、変な粘液状の物に外壁が侵食されていた。

「神々が我らを見捨てたから、我らはこうなったのだ」

船に乗り込んでいた、船員はそう考えた。こうして、第5銀河系から脱出しようと試みた。


第3章 恐怖


第5銀河系の無政府状態は衛生状態も悪化させていた。

野鳥から感染したと思われる新種のウイルスは、第5銀河系内で瞬く間に感染が拡大した。

他の銀河系連合は、自国領域内にウイルスが侵入することを恐れ、第5銀河系からの難民に対して隔離政策を行った。


「どういう事だ…」

各銀河系及び銀河団国の会合で、第1銀河系国の大統領が言った。

「我々も対応に苦慮しているところだ。第5銀河系にある有り余る天然資源は、我らにとっても必要不可欠だ」

「なぜ神々は、このような試練をお与えになられるのだ?」

「そう言っても始まらないだろう。起こってしまった事はどうしようもない。これからの事について協議をするのが一番の問題ではないか?」

「そうだな、では、これより会合を始めよう」

その時、誰か部屋に入ってきた。

「だれだ?」

「余はメフィストフェレス神。これまでいたこの世界の神々とは違い、お前達に幸せを運んできた者だ」

「幸せとは?」

「さて、お前達が、どういう結論に達するかによって、話すかどうかが決まるな」

「…では、いらぬ。出直して来てもらうしかなさそうだ」

「それは、残念だな。では、また来るからな」

そう言って、メフィストフェレス神は、すぐに引き返した。


そして、その会合のさなか、伝令が臨時情報を伝えてきた。

「臨時速報です。第5銀河系の中心部で、派閥同士の抗争から発展した戦争が発生。全域に渡り、戦争が激しさを増しているもようです」

「…困った事になった」

「さらには、伝染病が蔓延しており、第4銀河系、第7銀河系、第11銀河系にも発生確認。隔離中ですが、非常な早さで感染地域拡大中」

「ここで、悠長に会合を開いている時間はないと、そう言う事か」

「じゃあ会合をしている場合じゃない。第4銀河系、第7銀河系、第11銀河の皆さんは、すぐに各自の国にお帰りくだされ。我らの会合の結果は、追って知らせましょうぞ」

「ありがたい。では、早々に判断を下さねば…」

こうして、会合はお開きになった。だがこれ以後、こうした会合が開かれる事は無かった。


クチクラの元にも、伝染病や戦争の話が来ていた。

「じゃあ、次には飢餓が来るだろう。そして、世界は変わるんだ」

「飢餓はもう起きてるわ。第5銀河系の半数の地域で異常気象が観測されたり、飛蝗が来たりしているらしいの」

「そうか。じゃあ、神々に対する一般大衆の反応は?」

「どうやら、あちこちで排斥運動が起きているらしいの。新しい神と称する人たちも現れているぐらいよ」

「そうなるのが普通だろうな。それでも、人間、最後にすがるものは宗教だ。それは変えようがない」

クチクラは、タリウムに言った。

「ものすごく甘くしたコーヒーを持ってきてくれ」

「砂糖は?」

「できるだけ入れてくれ」

そうしている間にも、あちこちに伝染病がはこびり、飛蝗がやってきて、異常気象が起き、戦争が勃発した。

銀河系は、国としての体裁すら保てない状況になってきた。恐怖が人から人へと伝染し、世界は恐怖で満ちていた。


第4章 救世主


クチクラは、ものすごく甘くしてもらったコーヒーと頭痛にさいなまれながら、神々の神殿が破壊されて行く事を目にしていた。

「やれやれ、やってきてしまったか…」

「どうしたの?」

「子供達を呼んでおいたよな」

「ええ。もう到着して、本を読んでるわ」

「ちょっと、呼んでくれ」

「分かった」

クチクラが、タリウムに子供達を呼ぶように頼むと、すぐに二人はやってきた。

「どうしたの、父さん」

「お前達は、この状況を端的に述べるとするとどう言う?何でもいい。いくつでも構わない」

「世紀末」

「神々の終焉」

「新たなる世界への扉」

「世界の刷新」

「革命」

「なるほどな。そうなるか。だとすると、問題は誰が新しい神になるか、か」

「それって、メフィストフェレス神って言う神じゃない?」

クチクラは、とまって聞いた。

「ちょっとまて、なんでレニウムがメフィストフェレス神を知っているんだ?」

「だって、新しい神といえば、彼じゃないの?ニュースで、そう言っていたわ。各銀河系及び銀河団国会合に現れて、何かを伝えてそのまま消え去った神だって」

「そうか…だとすると、彼こそが、救世主になるのかも知れないな…」


翌年、世界は不幸のどん底にあった。世界中での自殺率は過去最高を記録したが、それと同じぐらい人々の精神は病んでいた。そこに、メフィストフェレス神が奇跡を起こしながら現れた。

「これまでの神は何かして来ただろうか!否、何もしていない。つまりはこれまでの神ではなく、新しい神こそが新たなることを起こすには最適だと言う事になる。この、メフィストフェレス神のことだ。我こそが、新たなる神にふさわしい!」

彼は最初に、第5銀河系を平定した。それから、次々に改革と称して神々の信仰を捨てさせた。宇宙中で古参の神々の排斥運動が起こり、文章の中以外ではその名前をみる事は無くなった。

こうして、メフィストフェレス神が改革を成し遂げた。後世の記録には、第1次大異変と称されて乗せられているものだった。

世界は神の強大なる権力掌握によって、戦争、飢餓、疫病は終わっていった。数年の間は敵対しているグループもいたが、そのグループも歴史から消されていった。


第5章 第2次大異変


それからと言うものあちこちに空震が起こり、世界中のあちこちで災害が発生した。神々はその情報を権力によって封じ込めた。それがあった場所には、何かしらの空間のずれが生じていた。


「経済の新興のためには、新たなる空間と接続しその上で発展することが必要である」

神がそう言った。こうして、世界が震えていった。


クチクラの研究グループは、家族全員で行われていた。

「空間接続とか聞いた事も無いぞ」

「でも、あちこちの文献には、神が出来る事のひとつとしてあげられているよ」

「つまり、メフィストフェレス神は、神としてその行為をしているって言う事だよね」

「確かに、メフィストフェレス神は神だから、それをすることは不可能じゃないよ」

「でも、人民の心は、確実に離れて行く事になるぞ」

「一切意に介していないと断言できるね。そもそも、元々の神々を追放してまで、自分の権力を掌握したがっているほどだもの」

「とりあえず、空間接続についての文献を探すしかないか…」

クチクラは、頭をかきながら言った。そのまま部屋から出ていった。


1週間後。第1次大異変から数年の月日が流れ、メフィストフェレス神が即位した日は記念日として祝日扱いになっていた。これまでの間に行政機関によって逮捕された人たちは、数え切れないほどいた。


「さて、これで全部かな?」

再び研究室。

家族全員が勢揃いして話し合っていた。

キサントフィルとタリウムは公立高校に入学していたが、この日は、この祝日のため休みだった。

「空間接続と言うのは、この文献などから総合的に考えると、神のみができるもので遥か過去にいたと言われているホムンクルス神が最初に行った事になっている」

「今じゃ、メフィストフェレス神だけだけどね。神と言える存在は減らされた。そして、人々は真に信仰している人々のみを遺し、地上に残ったり地下に潜ったりしている。この研究所は、いつ潰されるか分からない。だからこそ今の内にするしかないんだね」

「そう言うことだ。神は気まぐれに行動するからね」

「空間接続自体は、あまり珍しくないみたい。この宇宙自体も、第18銀河系は他の銀河系とは独立した特別な生態系を持っていると言う話よ。だからこそ、第18銀河系だけは、こちら側と分離する事も可能なはず…」

「もしもの時は、こちら側と分離して一人だけ生き残るつもりなのかもね。そのための方舟としての第18銀河系とするならば…」

「とにかく、元々いたスタディン神達は、昔の宇宙から来たと言う話だった。だとすると、別の宇宙があった事になりそれらが生き残っていたとするならば、メフィストフェレス神がこの宇宙と接続することも考えていく必要があるだろうな」

「そうか……たしかに、それは考える必要があるな。他宇宙も存在するという話は、前々から聞いていた。しかし、それがいざ目の前に突きつけられると、相当驚く事になるだろうな…」

「人々に警告をするべきだろうか。第2次大異変が発生する可能性があることを…」

「それは、今はしなくてもいいんじゃない?でも、いずれは避けられないと思うわ」

「所長にはそう報告しておこう。ほかに、何かあるかな?」

誰も発言をしなかったので、クチクラはそのまま解散させた。


それからさらに1週間。第2次大異変はやってきた。


メフィストフェレス神は当該区域を厳重に立ち入り禁止にして、誰も入らさないようにした。その中で、神は空間接続を行った。

徐々にこちら側にその全貌を表したのは、空間のひずみが観測されたからだった。

その封鎖区域の周辺では、空間が歪み出すという現象が観測されていた。

それが断続的になり始め、そして惑星系が一つ消滅するほどの力になった。

あちこちに同時に発生したそれらは、封鎖区域内ではさらに激しいだろうと予測されたが、誰一人としてその中に入った人はいなかった。


メフィストフェレス神は、今回の災害による全ての責任を追放した神々になすりつけ、反逆罪とした。

彼らを信奉する人々も皆、メフィストフェレス神によって、虐殺されていった。


「第2次大異変ね」

「そう大異変。第1次大異変よりもゆっくりと被害が拡大しているのが特徴よ。どこまで広がるかは、誰も分からない。神なら知っているかもしれないけどね」

「そうかもしれないが、神すらも想像出来ない範囲に広がっているのかも」

研究室にはいつもの家族が揃っていた。小型テレビが一台、ずっとニュースを流していた。

「今回の災害で死亡が確認されたのは、29億人に上りました。これからも、さらに増える事が予想されます。さらに行方不明者、負傷者は合計48億人になります。今後とも、空震には十分に注意を……」

突然、画面が真っ暗になった。テレビ局が空震にあったのだろう。それ以後、そのテレビ局のいかなる番組も見る事は無かった。


エピローグ


「結果的に、平穏に空間接続が終わったことを神として非常に嬉しく思う」

メフィストフェレス神が、封鎖区域の解放を宣言した時の言葉である。

「第2次大異変、第1次大異変、合わせて死傷者、行方不明者、180億人。歴史上最も被害が多かった災害として記憶されるんだろうな…」

クチクラは家に帰っていた。研究所は、1週間保守点検のために休みになっていたためだ。

昔あったと言われていた、宇宙空間がこの空間と接続されたことにより、空間のゆがみが徐々に激しくなったが、いまではさほどでも無くなっていた。元のように戻ってこれたのが、一番よかったことだろうか。

「メフィストフェレス神は何を考えているか分からない。でも、そんな時でもこの世界に生まれてしまった以上は、生きていかなければならないんだな…」

空を見あげながら言う。

「古来の神々がいた空間イカのような生命が住んでいたが、メフィストフェレス神によって滅ぼされた第2宇宙空間。さまざまな種族が最も繁栄している第4宇宙空間。2大政党制によって支えられている第5宇宙空間。宗教によって平穏が成り立っている第7宇宙空間。これらがこの宇宙と接続した」

「そうらしいね。宇宙開闢以来始めての事らしい。そもそも、第18銀河系は2度目になるのだろうね」

そして、部屋の中に視線を移し、娘と息子に対して言った。彼らはクチクラをじっと見ていた。

「これからの時代は、メフィストフェレス神対国民全員となるだろう。もしかしたら、世界中を敵に回してまでも権力に固執する恐れもある。お前達や、その次の世代達へ、文明の火を絶やさないようにしてリレーを続けなければならない。分かるね?」

二人とも、うなづいた。

「メフィストフェレス神が終身大統領となって、全宇宙空間統合連邦国が成立したのも、ちょっと前のこと。それと同時に空間が閉鎖されていった。民主化に反すると言う理由でデモが繰り返しされたが、デモに参加した全ての者達は殺された。お前達にはそれほどまで激しいのを求めていない。ただ、全ての人たちを救うことが出来るような、そんな行いを後世のために遺しておくべきだ」

キサントフィルとレニウムは、お互い目線を合わせた。うなづいてクチクラとタリウムに向かって言った。

「分かったよ、父さん、母さん。僕達は民族伝承をこれから生まれて来る人たちに対して、遺していく活動をしようと思う。もちろん、メフィストフェレス神に対しても、どんなことでも遺そうと思う」

クチクラは、笑ってうなづいていた。


こうして、彼らは民族伝承研究家一家として、家族ぐるみで研究を続けて行く事になった。彼らこそ、この世界には必要な存在だった。


時代が変わるかどうか。それは、人と時間にかかっている。

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