第5話【台風が過ぎたあとの晴天】
家に着いた銀花と美緒は夜も遅いのですぐに寝る準備をして寝た。
そして銀花は夢を見た。夢と言うには少々ハッキリし過ぎだが。
「やあ! いい名前を付けてくれたね!」
と、恐らく銀花の心臓の提供者である“この人”は夕方に見たときはぼんやりしてよく見えなかったが、今回はよくわかる。
“この人”はコートを着ており、真っ白な空間で真っ白な椅子に座っていた。
その前にはもう1つ真っ白な椅子があった。
「まぁ座って座って! お話しようよ!」
「は、はい」
銀花は言われるままに椅子に座る。
「えっと、これは……夢、ですよね?」
銀花は周りを見渡しながら言う。
「うーん、夢というより……君の意識の中? 言うなれば意識空間? 意識世界? そんなものだよ」
「は、はぁ……? それで、何の御用でしょうか?」
「あぁ、うん……なんか僕のせいで変なことに巻き込まれちゃったから、謝ろうかなーって」
「それは大丈夫です、慣れてますし、それに……あなたの心臓が無ければ私は死んでいたかもしれませんし……」
銀花は心臓の辺りをキュッと抑えて言う。
「なんか照れるなー! まぁでも、君の力……心銀、これは危険だ」
「…………そう、ですね」
spiritsoulはその人の実現させたかったことの具現化、こんな危険な力を“この人”は実現させたかったのだろうか。
「うん、わかってるよ、君が聞きたいこと……でも誤解しないで欲しいんだ」
そう胸にそっと手を置きながら言った。
「その力は、傷付ける為の物じゃない、ましてやソウルイーターを殺す為の物でもない……確かにそれだけの力はあるけど、それは守る為の物だ」
「守る……?」
「あぁ、だって最初に君が再現したのは剣でもなければ槍でもない、ただの板だ……この能力は守る為の力だよ、銀花」
“この人”は今初めて銀花のことを名前で呼んだ。
その目は何かを思い出すような目と同時に、殺す為の力じゃないと必死に否定しているようだった。
「……私に、誰かを守れと?」
「そんなに難しく考えなくていいよ、自分の身が第一だ、自分だけでも守れないようじゃあ他の人達の足手まといになっちゃうからね、自分を守って、余裕がある時に他の人も守るんだ……ボクは、自分すら守れないのにあの子を守ろうとして…………」
と、最後に出そうになった言葉を喉の奥に呑み込んで、また明るく振る舞う。
「まぁ楽しく生けていればいいんだよ! 君の人生もまだ始まったばかりだ!」
「えぇ、今までぐーたらしていた分、思いっきり楽しむつもりです」
「うん、それがいい、僕も影ながら見守ってるよ、さあもう朝だ! 楽しい1日の始まりだよ!」
そう言われると、視界が眩しくなり、強く目を瞑る。
ゆっくり目蓋を開けたときは、もう“この人”は居らず、家の天上が見えた。
「……6時、起きてください美緒さ……」
学校に行く仕度をするであろう美緒を起こそうと、隣で寝ている美緒に声をかけるが。
「くかー………………」
お腹を出してだらしなく寝ていた。
「……もう少しだけ寝かせとくか、ご飯作っておこう……」
銀花は美緒に布団をかけ直し、台所へ向かう。
そして冷蔵庫の中を見る。
「……って、ご飯炊いてないし、入院してたから材料がほとんど無い……」
冷蔵庫には豆腐、ネギ、そして卵しか無かった。
「……まぁ味噌汁とだし巻き玉子くらいは作れるか」
そう言って銀花は材料を取り出し、手、そしてネギを洗い、リズミカルに切っていく。
「…………」
鍋を沸騰させ、切ったネギと豆腐を入れてしばらく火にかけて置いている間に、卵を溶き、出しを入れてよく混ぜる。
「よっ………!」
卵を焼き、うまくひっくり返していく。
「………んあ? いい匂い……」
ここで美緒がご飯の匂いで目が覚める。
「あぁ美緒さん、おはようございます」
そう言いながらだし巻き玉子を皿に乗せ、鍋の火を止めて味噌を溶く。
「お、おはよう銀花……は、早いわね」
「目が覚めてしまったので、お米はありませんがどうぞ」
出来ただし巻き玉子と味噌汁をテーブルに運び言う銀花。
「い、いただきます……」
美緒はまず味噌汁を飲む。味噌のしょっぱさもちょうど良く、朝の冷えた身体を暖めてくれた。
「ほあぁ~、っと玉子焼きも……はむ!」
続いてだし巻き玉子を食べる美緒。
「うんまぁ~~!」
「良かったです、はむ」
昨日の事も忘れるほどのんびりとした朝だった。
「じゃあ私は行くけど……一人で大丈夫?」
「はい、大丈夫です、安心して行ってきてください」
「わかったわ、じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい、美緒さん」
“行ってらっしゃい”最後にそう言ったのはいつだろうか。
そう銀花は思った。
登場人物
十神銀花
笹木美緒
“この人”




