第4話【心銀】
数時間の移動で、ようやくラボに着いた。
「もう真夜中ね……親に連絡とか入れた方がいいかしら」
「お前誘拐して親に連絡とか……身代金請求する気か?」
「違うわよ! 銀花の親も心配してるかなって!」
ラボに着いて早々に美緒とハチの言い合いが始まる。
「あの、多分大丈夫です」
そう銀花は言った。
「私、親は居ますが……一人暮らしなので」
「え、あ……な、何か事情があるのね! っていうか訳もわからずこんなところ連れてきてごめんね! ちゃんと説明するからね!」
少し顔が暗くなった銀花にあたふたする美緒。
「とりあえず自己紹介しような美緒、オレは八田成之だ、主に情報収集とかナビをしたりしてる、それと……これから詳しく説明するんだがオレの能力であるspiritsoulは“理解”だ、よろしくな十神」
と、ハチが自己紹介をする。
「ちょっとちょっと、こういうのはリーダーであるボクから自己紹介するものじゃないかな!?」
「あ、すみません待田さん」
「全く……ボクは待田優人、ここのリーダーをしてる、ボクはまぁ、リーダーらしく指示したりしてるよ、ボクのspiritsoulは“強化”っていう便利な能力だよ」
そう待田も続けて自己紹介をする。
「最後は私ね! 改めまして、笹木美緒よ、戦闘経験は……さっきのやつだけなんだけど、一応戦闘員してる、spiritsoulは“サイコキネシス”よ」
美緒も自己紹介したところで銀花が。
「待田さんに、笹木さん……で、ハチさん?」
「お前もか、もういいよハチで」
ハチはもう諦めた。
「私は十神銀花です、それでspiritsoulとはなんでしょうか?」
「じゃあボクが説明しようかな、spiritsoulは名称でまぁ単純に超能力だよ、ただ1つ共通点がある」
「共通点……?」
「うん、ここに居る全員、臓器移植手術を受けたんだ、移植された臓器にはその人の魂が宿るとかで稀にこういった超能力を発揮する、何か変わったことがあったはずだよ」
確かに銀花は目が急に良くなったり知らないはずの本の内容がわかってしまうと言ったことがあった。
「それは、臓器を移植した人はみんな能力を持つんですか?」
「いや、それがそうでもない、さっきも言った通り稀だからね、世界にも数十人しか居ないんじゃないかな」
「そ、そうなんですか……何て言うか、まだ頭が混乱しててよくわからないです」
「また何かわかならいことがあったら聞いてよ、ボクは暇だから」
リーダーなのに暇でいいのかと銀花は思ったがそれは置いといて。
「さっきのやつ、ソウルイーター? と私のspiritsoul……についても教えて頂けますか?」
「……そうだなぁ、これ以上聞くとなると君はあれと戦わなくちゃいけなくなるよ」
「え、あ……あれと? 私が?」
「君にはもうその力がある、ボクは協力して欲しいけど無理にとは言わない……でも、能力を悪用したその時は敵と見なすけどね」
「悪用なんてしません、ですが……さっきの鉄の板も勝手に出てきたので何とも言えません……」
「そうだね……じゃあ君の能力については話そう、って言ってもわからないんだよねぇ、ハチ君頼むよ」
するとハチは何やらパソコンを弄り始める。
「ラボって言うんだから当然そんな感じの設備もある、奥の部屋に行ってくれるかな?」
「わ、わかりました」
奥の部屋、そこは壁一面ガラス張りで真っ白な空間だった。
『えー、こほん、防音の壁だからスピーカー越しに話すね、その部屋はどれだけ能力を使っても壊れることはないよ、ボクが検証済み』
待田はマイクを持ちながらそう言う。
「えっと、私はどうすれば?」
『能力を使ってほしいんだけど……さっきの感覚覚えてるかな?』
「え……っと、やってみます」
銀花は、あの鉄の板は防衛本能が働いて生成された、と予想している。
なので目を瞑り、黒い影が銀花を捕食しようとするあの光景を思い出してみる。
「…………ど、どうですか?」
銀花がゆっくり目を開けると、驚くべき光景がそこにあった。
「ぐっ……これは、また……何とも凄い能力だね……」
出現した鉄の板は先程のやつよりも大きく、ガラス張りの壁を貫通していた。
「ま、待田さん! 大丈夫ですか!?」
と、美緒が駆け寄る。
壁を貫通した鉄の板はハチと待田に衝突しようとしたところを
待田が寸でのところで抑えたのだ。
そして、驚いたと言うのは鉄の板が巨大化したということだけではない。
何故なら鉄の板を止めた待田の腕には魔方陣が5つ。
つまりかなり能力で強化したということだ。
「は、ハチ君、解析っ」
「やってます……けどこれは、地球上の金属と全く一致してませんね………能力使って見てみます」
ハチは板チョコを開けひと口かじると、銀花が出した謎の板に
触れる。
ハチの手が青く光ったかと思うと、それはすぐに消えた。
「………………」
「ハチ、どうだったの?」
手をゆっくり戻し、また板チョコをかじるハチに美緒がそう言う。
「まず用途だが……攻防一体だ、形は十神自身が自由自在に変えることが可能、成分は不明……だが出現させるときに周りから酸素と二酸化炭素を吸収して使用するみたいだ」
「成分がわからない……? あんたの能力でも?」
「ああ、恐らくこの世界、全宇宙でたった1つの金属だよ」
「な、なるほど……十神君、ちょっとこれ引っ込めてくれないかな」
「あ、は、はい! すみません」
銀花はとりあえず消えるように念じるとパッと一瞬で消滅した。
「多分だけど、まだ能力になれてないからこんな大きくなったんだろうね……」
「ご、ごめんなさい……危うく、その……」
待田が止めてなかったら誰か死亡者が出ていたかもしれない。
待田、ハチ、美緒と違い、何か便利という訳でもない攻撃的な
銀花のspiritsoul。
「いい忘れていたけど、能力は元の臓器の持ち主に関係していることが多い、ボクの場合は恐らく、強くなることにこだわっていた人なんじゃないかな。関係してるというか、その人が実現させたかったこと……かな?」
「……その人が実現させたかったこと……?」
病室で話していた穏やかそうな“この人”はいったいどんな理由でこんな攻撃的なことを実現させたかったのだろうか……。
そう銀花は思った。
「まぁ、ボク達に協力するにせよしないにせよ、どっち道その能力がちゃんと扱えるようになるまでは放っては置けないな」
待田は手を軽くマッサージしながらそう言った。
「そうだなぁ……じゃあリーダーらしく、笹木君!」
「へっ? あ、はい!」
「君に十神君の教育係を命じる! 十神君の家は君の高校からも近いし、ちょうど一人暮らしらしいから泊まり込みでどうかな?」
「とっ、泊まり込み!? いや、それは銀花に悪い……」
「……いえ、お願いします、もしかしたらこの能力が勝手に発動して……人を殺してしまうかもしれません、それだけは避けるべきです」
銀花がそう言うと、美緒は少し考えて言う。
「そうね……わかったわ、期間は銀花が能力をうまく使えるようになるまで、で……いいですね待田さん」
「うん、よろしく頼むよ」
「……はあ、了解です、じゃあこれからお世話になるわ、よろしくね銀花」
美緒は待田の無茶ぶりにため息を吐くが、銀花に向かってそう言った。
「はい、よろしくお願いしますね、笹木さん」
「美緒でいいわ」
「一応年上で先輩ですし、美緒さんでお願いします」
「まぁいいわ、それで」
こうして美緒が銀花の教育係をすることになった。
「で、十神、お前はこれからその能力、spiritsoulと生きていくんだ、名前くらい決めてやったらどうだ?」
そうハチが、2枚目の板チョコを食べながら言う。
「って、私達そんなに凝った名前じゃないわよね?」
「まぁ、まんまだな、でも十神のはよくわからないしなぁ、何か名称が欲しい」
そう言われて、銀花は考える。
「……では、“心銀”で、どうでしょうか?」
心臓移植での能力開花で名前が銀花だから“心銀”、随分簡単だがわかりやすい能力名だ。
「いいね、それじゃあ十神君のspiritsoulの名前は心銀で決定だ! これからは毎日、ここに来てもらうからね」
「はい、わかりました……でもその前に1つ」
「ん? 何かな?」
「私まだ入院中なんですけど」
「あー……その事なんだけど、退院おめでとう!」
待田は確かにそう言った、退院おめでとう、と。
「えっと、どういうことですか?」
「もう話は病院に通してあるんだよね、知り合いがそこに居るんだ、ソウルイーターのことも知ってる一般人だよ、あーそうだ、ソウルイーターとかspiritsoulについては他言無用でお願いね、これ、機密事項だから」
「は、はい、了解です……」
銀花は思った。「もう元の生活には戻れないんだな」と。
しかしそれは、少し楽しみな気がしてきた。
「じゃあ行くわよ銀花」
「はい、お願いします」
「ちゃんと安全運転で行くからねー」
「それは当たり前の事ですよ美緒さん」
こうして銀花は美緒と共に自宅へ帰るのだった。
登場人物
十神銀花
笹木美緒
八田成之 (ハチ)
待田優人