第2話【変化する日常】
晩ご飯も食べ終わり、暇なので寝るまで本を読むことにした銀花。
「……ん?」
そこで、あることに気づく。
「これ、読んだことあったっけ……?」
初めて手に取った本のはずだが、次の内容がわかってしまう。
これが臓器移植による記憶の変化なのだろうか。
そしてもう1つ、銀花は視力が少し悪い、眼鏡がいらないほどのことだが、窓の外を見たときに気づいたのだが、自分でも驚くほど目が良くなっていた。
数百メートル先の小さな看板の文字もハッキリとわかるほど。
「……星もよく見える」
そう呟いて、空に見える小さな星を眺めると……。
「よっ……いしょっ! ふぅ、なかなかキツいわね」
「…………え」
黒い……少し変なスーツを着た高校生くらいの女の人が現れた。
「えーっと……ハチ? 何階だっけ?」
その人はハチなる人物にそう聞くと、持っている端末から声がする。
『その階、というか目の前の子……つーかハチ言うな』
「あ、ここだったかー」
その人はハチという人を無視し、銀花を見る。
「ちょっと、ここ開けてくれないかな? 大丈夫、全然怪しい人とかじゃないからねー」
どう見ても怪しい、が、何を思ったのか窓に近寄る銀花。
「………ここ4階ですよ?」
「そうね、登るの苦労したわ」
「……じゃあ開けますね」
そう言って銀花は窓を開ける。
「いやー、ありがとう……でもちょっとそこ退いてくれないかなー! お姉さん入れないなー!」
「誰も部屋に入れるなんて言ってません、さよなら」
銀花はそう言ってそのお姉さんを押した。何故かはわからないが、この人は落ちても平気な気がしたのだ。
お姉さんは当然落下した。
「早く寝よう……」
そう呟いてベッドに戻ろうとした瞬間。
「あー、そうだ……最初からこうやって登ればよかったわ」
そう言って、さっき落ちたはずのお姉さんが病室に入ってきた。
「な、なんで……!?」
「そういう反応見るの久しぶりね……こんにちは十神銀花さん、私は笹木美緒……ちょっと特殊な高校3年生よ」
「特殊……っていうかなんで私の名前を!?」
「まぁね、とりあえず……あなたを誘拐します」
「…………は?」
そう言った美緒は、銀花の身体を抱き上げ、窓から飛び降りた。
「ちょっ! 何考えてっ!」
すると、地面が近くなった瞬間。重力が無くなったかのようにフワッと浮く。
「笹木美緒……さん、でしたっけ?」
「そうよ、あ、ヘルメット被っといてね」
今のは笹木美緒というこの女子高生がやったのだろうか。
銀花は渡されたヘルメットを無意識に被っていた。
「……それで、私に何の用です?」
「着いたら話すわ、しっかり掴まっててね」
「……はい」
そうして銀花は流されるまま、バイクに跨が美緒に掴まる。不安という感情は何故か無かった。
「じゃあ出発……ハチ、能力者確保」
『わかってるって、じゃあ準備して待ってる』
「わかったわ、じゃあ行くわよ」
「はい、安全運転でお願いします」
「うーん、残念だけど……」
私は一瞬ヒヤッとした。そして思った通り。
「急いでるから♪」
そう言った笹木美緒はバイクごと銀花を浮かせると、高速で発進した。
「うわあああああああああああああ!!!!!」
遊園地など行ったことがない銀花は初めてのアトラクションで絶叫する。
「こ、これ! 何キロ出てるんですかぁぁああ!!!」
「えっとねぇ! 130!」
と、二人とも声を張り上げて会話をする。
「これならすぐ着くよー!」
「そりゃあそうですけどぉぉおお!」
こんな会話をしているとハチからの連絡が来る。
「安全運転で来いって! いや今はそんなことはいいんだ、いろいろ説明がまだだけど、時間切れみたいだ、美緒! “奴ら”が来たぞ!」
「は……はあ!? なんでよ! さっき確認出来たばっかりじゃない!」
「んなこと言われてもなぁ!」
銀花にはよくわからないが、何やら緊急事態のようだ。
「……ッ、わかった……すぐ現場に向かう、ちょうどいいし、実戦経験を積ませときましょ」
「お前マジか……いや、もう考えてる暇は無い、被害が出る前に仕留めろ! 今待田さんも向かってる!」
「了解」
そこで通信が終わり、少し速度を落として美緒は銀花に言う。
「十神銀花さん、今から……ちょっと怖い思いをするかもしれないわ」
「……いえ、もう怖いのは慣れてます、私……昔から運が悪いので」
実際はあの通信で、ただならぬ事が起きるということは予測していた。
そして自分はこれに捲き込まれるんだろうとも。
銀花は、いつも通り運が無かったと腹を決め、一緒に行くことにした。
「……出来る限り、私が守るから!」
そう美緒は言うと一気に速度を上げて、現場に急行した。
登場人物
十神銀花
笹木美緒
八田 (ハチ)