第1話【私はこれから“この人”の心臓で生きる】
2103年、日本は遂に“心臓”の移植手術に
成功した。
ただ海外ではもはや当たり前となった臓器移植手術。
人々は「やっとか」と言ったように、それを深く考えなかった。
しかし、皆は気にしてないが、どうもおかしいのだ。
そう、ニュースにまでなったというのに
その心臓を移植した患者は公表されなかった。
―――そして7年後、もともと病気にかかりやすい
私は心臓が悪くなり、心臓の移植手術を受けることになった。
「……………………」
手術は想像していたよりも呆気なく終わり。
本当に手術されたのかと思うほど身体も縫い目1つ無い。
これには感心するが、麻酔がまだ抜けきっていないのか頭がボーッとする。
「銀花ちゃん! 無事終わって良かったわね~!」
そう看護師のおばさんが嬉しそうに言った。このおばさんとも長い付き合いだ。
そもそも私は身体が弱い、というより運が悪い。
数年前にも、車や自転車に跳ねられ手足を骨折したり、食中毒になったりといろいろとこの病院にもお世話になっていた。
「……失礼します」
病室の扉がノックされたと思ったら、男性の医師が入ってくる。
「えー、十神 銀花さん、無事手術は終わりましたが、心臓移植なんて滅多に無いのでまだ何かあるかも知れません、すみませんがあと1週間ほどは入院ですね」
そう男性医師は言うと、最後に「よく頑張ったね」と微笑みながら言って退室した。
「それじゃあ私もお仕事あるから、少ししたら晩ご飯持ってくるわね!」
私はコクリと頷き。窓の外を眺めた。
もうすぐ日が沈み始める。
……そんなとき。
「君は知ってるかな?」
と、いつの間に居たのか、誰かが病室のベッドの横に座っていた。
ただ、麻酔が抜けきっていないので姿はぼんやりしていた。
「えっ……と……」
「あぁ! 無理しなくていいよ! 僕がちょっと喋りたいだけだから、気にしなくていいよ」
そう……恐らく男性の人が言った。
「それにしても、銀髪なんて初めて見たな……」
と、この人は私の髪を撫でる。優しい手で、ゆっくりと。
そう、私の髪は銀髪だ。染めてなんかない、天然の銀髪。これもとある病気らしいが、人体に影響は無い。
「……瞳も明るいね、ってあれ? もしかして僕見えてない?」
「……うん」
「あはは~、まぁそっか、って話がズレちゃったね、えーっと……そうそう! 臓器移植について話そうとしたんだ!」
そう思い出したようにこの人は言った。
「僕も長くはここに居られないから、手短に話すよ?」
そう言って、この人は話始めた。
「臓器を移植したら、趣味や性格が変わった……なんて言う話は……かなり前から聞いてるよね?」
その問いに私は頷く。日本でも臓器移植が簡単に出来るようになってから、そういう話は多くなった。例えば絵が下手だったのに手術後、驚くほど絵がうまくなっていたり。急に走りたくなって走ったら、以前より速く走れるようになっていたりと様々だ。
「じゃあその臓器に、元の持ち主の魂が宿るっていう話は……聞いたことあるかな?」
そんな話も、噂で聞いたことはあるが。どれも嘘だと皆口を揃えて言う。
「君のその心臓にも魂が宿ってるかもね! ははは!」
すると、小さいが外から足音が聞こえてくる。多分おばさんが晩ご飯を持ってきたんだろう。
「おっと……時間みたいだ、じゃあ最後に……」
そう言って、この人は私の胸に手を当てると。
「僕の心臓、大事にしてね」
そう言われて、私はパッと頭が覚めた。だがそこには誰も居なかった。
「あら! 麻酔が完全に抜けたみたいね! はい、晩ご飯、ちゃんと残さず食べるのよ!」
おばさんが晩ご飯も持ってきてそう言う。
「あの、さっき男性の人が居ませんでした?」
「ん~、廊下には誰も居なかったわよ? 夢でも見てたんじゃない?」
そうおばさんは言うと「それじゃあね」と言って退室した。
「…………」
夢、そう思ったが、あの時頭を撫でられた感覚はまだ残っている。
「もしかしたら……“この人”、だったのかな」
私は自分の胸に手を当て、そう呟いた。トクン……トクン……と、動く心臓は、とても暖かかった。
窓の外を見ると、綺麗な夕陽が私を照らしていた。
***
そして同時刻。あるビルの地下に中学生くらいのやんちゃそうな少年と、髪の長い高校生の少女。そしてリーダーらしき眼鏡をかけた成人の男性が居た。
「……マジか、奴らが動き始めた」
そう少年はパソコンを見ながら言った。
「ボク達だけじゃあ力不足かも知れない……もう少し様子を見よう」
と、リーダーの男性が言う。
「……確かに、“戦闘系能力者”は私だけだものね」
そう高校生の少女が自慢気に言う。
「ん……? おい待て! 居た、居たぞ!」
と、少年がパソコンを凝視しながら言う。
「うるさいわね……な、何が居たのよ」
「能力者だよ! 数年ぶりだ! 見つけたオレに感謝しろよな!」
と、少年はドヤ顔で言う。
「待て、その能力者は味方か?」
「え、いや……そこまでは……」
リーダーが聞くが、流石にそれはわかりかねる。
「仕方ないわね……私が見てくるわ」
「よろしく頼むよ、笹木君」
すると笹木という少女は素早く制服から、戦闘用のスーツに着替える。
「ハチ、これ使えるよね?」
「え、あぁ、バイクか、使えるけどガソリン入れてからな……あとオレは八田だ」
「いいじゃない、ハチのほうがわかりやすいわ」
そう言った笹木はガソリンを入れ始める。
「ったく、どう思います? 待田さん!」
「ボクはいいと思うな、ハチ君」
待田というリーダーらしき男は、そう言うとパソコンを見始める。
「それよりボクらは情報収集だ、ボクの能力は戦闘向きじゃないからね」
「いや、待田さんの能力は……確かに攻撃力は無いっスけど……」
「ほらほら、早く手を動かす!」
そう言いながら待田はパソコンを素早く打つ。
「じゃあ行ってきますね、待田さん」
「あぁ、うん、敵対してきても殺さずに、捕獲してきてね」
「はぁ~い」
笹木はバイクに跨がり、ヘルメットを被り、大きなエレベーターに乗り込む。
「エレベーター上昇……っと」
八田がパソコンを操作すると、エレベーターが上昇し、ビルの駐車場で止まった。
「笹木 美緒、行きまーす!」
『一人で何やってんだ、バカみたいだぞ』
「なっ……良いでしょ別に!」
ヘルメットから八田の声が聞こえてくる。
「ていうか、さっさとナビしてよ」
『都内の病院だよ、そこそこ大きいやつ』
「あぁ、あそこね……わかったわ」
『いってらー』
そうして、笹木美緒はバイクを走らせ、病院……十神銀花の元へ向かった。
登場人物
十神銀花
“この人”
笹木美緒
八田 (ハチ)
待田
看護師のおばさん
男性医師