第9話【行き着く先は全て絶望】
正式にソウルイーターを倒すチームに加わった銀花だが、機械種のソウルイーターが出現してから全くソウルイーターは現れなかった。
「こんにちわ」
しかしソウルイーターとは急に現れるものだ、銀花は今日もラボで過ごす。
「よぉ十神、ちょうど良かった、これを見てくれ」
ラボに入るとハチが何やら変な機械を持っていた。
「それは……えっと、なんですか?」
「ブラックホール」
「そーいえば美緒さんと待田さん遅いですねー」
「おい話を反らすな話を」
「……はあ、それで、それはやっぱり作ったんですね」
なぜブラックホールを作れるのかは疑問だが、ハチのspiritsoulなら可能……なのだろう。
「これは試作二号機なんだけどな、どんなものでも吸収出来るんだぜ」
「……今すぐ破壊します」
そんな危険な物をなぜ作ると銀花は心銀で破壊しようとする。
「ああ! ちょっ待て待て! 大丈夫だから! ブラックホールってのは嘘! ただのゴミ箱だよ! ゴミを圧縮して小さくする機能があるから沢山入るんだよ!」
「全く……嘘はいけませんよ?」
「は、はい……ってなんでオレ年下の女の子に説教されてんの?」
そう言ってハチはゴミ箱を置き、ふとパソコンを見る。
「そろそろ二人が来るな」
「え? なんでわかるんですか?」
銀花がそう聞くのでハチはパソコンの画面を見せると、地図の上に青い点が二つ、ラボに近づいていた。
「発信器付けた」
「……いいんですか?」
「こうでもしとかなきゃ、もしもの時すぐ見つけられるだろ? 十神にも付いてるぜ」
「え!? ど、どこに!」
「それは秘密だ」
そしてここで美緒と待田がラボへ入ってくる。
「やぁハチ君に十神君、遅くなったね」
待田はそう言うとスーツを1枚脱いで、ネクタイを少し緩める。
「ハァ……スーツってキツくてやだよねぇ」
「それで待田さんはどうだったんですか? 就活」
美緒がまたもハチからチョコを奪い食べて言う。
「ダメだった☆」
「おいリーダー」
待田の言葉にハチがそう言って、新しいチョコを食べる。
「まぁここで稼げてるしね」
「……え? 稼ぐ?」
「あぁ、そうだ忘れてた、はいこれ、機械種討伐ありがとう」
銀花の言葉で思い出したように、待田は封筒を渡す。
「これは……お、お金!?」
「お給料だよ、国から支払われるんだ」
「え、でも私中学生ですし……バイトは……それにこんなに沢山」
「中学生でも問題ない、小学生の能力者も居るらしいしね、それにこれは命を落とす危険があるんだ、これくらいでも安いもんさ」
「……まぁ、貰って良いと言うのなら貰いますが……でも最近ソウルイーター出ませんよね? 大丈夫ですか?」
ソウルイーターが出現しない、それはつまり待田の収入が無いということになる。
「大丈夫大丈夫、多分そろそろ来るし……それにお金の為にここに居る訳じゃ無いからね」
「確かに、そうですね」
しかし待田の言った通り、敵は来てしまった。
「来たぞ! ソウルイーター……じゃない!? これは、能力者だ!」
「能力者……悪さをしてるってことですか?」
するとハチがパソコンを弄りながら言う。
「いや、こいつは悪さってレベルじゃない! 町全体を攻撃してる! 早く行け!」
「りょ、了解です!」
待田はそのままだが、美緒と銀花は戦闘用スーツに着替える。
「これ……このまま外に出るんですか?」
「最初は恥ずかしいと思うけど……これ攻撃を吸収するし意外と便利なのよ」
多少の気恥ずかしさがあるが、そんなことも言ってられない、すぐに現場へ向かう。
「笹木美緒、行きますッ!」
「え……と、十神銀花行きます!」
『それそいつが勝手に言ってるだけだから言わなくていいぞ』
「はっ、早く言ってください!」
そう言って出動するが、被害は恐ろしいものだった。
ビルは崩れ、街路樹も所々燃え、多くの人が倒れている。
「こ、これを……一人で?」
「能力者……spiritsoulはここまで強力なのよ、ただこれはちょっと……ヤバいかもね」
「二人とも、敵の能力がわかるまで下手に動いちゃダメだよ、ボクが探るから、隅で隠れてて」
「「了解っ!」」
***
敵の能力者、ハチは監視カメラをハッキングし、顔を確認、その後詳細をデータベースにて検索。
「……矢神孝治年齢32……特にこれと言った特徴は無いな……」
しかし矢神孝治、彼は異常とも言えた人間だった。
ビルの屋上で矢神孝治は見物していた。
「ハァ……ダメだ、つまらない、もう少し足掻いて見せろよ」
「居た居た、君か、こんなことをしたのは」
到着した待田が矢神孝治に向かってそう言う。
「ッチ、警察か? にしては随分服装が……」
「違うさ、君と同じ、能力者だよ」
待田の言葉に矢神孝治は高々と笑う。
「ハッハッハ! そうか! ヒーロー気取りのアホな連中はお前らか!」
ここで待田は矢神孝治の言動に疑問を抱く。
「……ソウルイーターについて知ってるって言うのもちょっと気になるけど……“お前ら”って、どうして複数形なんだい?」
「ハッ! 隠そうとすんな、匂いでわかる」
「匂い……じゃあ君のspiritsoulは……いや、そうなるとこんな攻撃力は……」
待田の言葉に、矢神孝治はニヤリと笑いこう言う。
「ならば見せてやろう、俺の力をッ!」
そう言った矢神孝治の身体は大きく変化する。
身体が巨大化し、服が破ける。しかし露出した肌は人間のものではなかった。
「さぁ、楽しませてくれよ? 俺のspiritsoulで絶望を見せてやる」
顔すら変化し、人間の部分はもはや二足歩行という部分しかない。正真正銘、怪物だ。
「うわぁ、ヤバいなこれ……強化」
待田は腕と足に二個ずつ魔法陣のようなものを展開し、自身を強化する。
「オラァァアッ!!!」
「ッ!?」
しかし、振り下ろされた大きな腕をギリギリで交わした待田は驚愕する。
何故ならさっきまで自分が立っていた地面が粉々に砕け散ったのだ。
それどころか、周りの所々が爪で引っ掛かれたように……いや、レーザーでカットしたような綺麗な断面が見える。
それほど強力な爪なのだ。
「フンッ!」
「グハッッ!?」
すると矢神孝治はそのまま身体を回転させ、回し蹴りで待田をぶっ飛ばす。
「つまんねぇなぁ……これだけで骨が数本折れるなんてよ、鍛えてんのか? そこで見てるだけの奴も女二人だし、お前ら本当にここを守ってるヒーローなのか?」
「女だからってバカにするなッ!」
「美緒さんッ! ダメです!」
美緒が戦おうとするのを止めようとした銀花だが、その手は届かなかった。
「やぁぁああッッ!」
美緒は能力で周りの瓦礫を浮かせ、矢神孝治にぶつけ、腰からハチが作った武器を取り出す。
見た目はただの黒い棒だが、雷クラスの電撃を発生することが出来る武器だ。
「あぁ、俺そういうの効かねぇんだわ」
そう言った矢神孝治は美緒を叩き落とす。
「ガハッ!?」
叩きつけられた地面は崩れ、美緒は下の階へ落ちて瓦礫に埋まってしまった。
「美、緒……さん? 待田、さん……?」
「ハァ……一番弱そうなのが残ったな」
待田も起きる気配が無い、ハチは恐らくこの事はわかってはいるだろうが、ハチに攻撃手段は無いからどうしようもない。
「さぁ、どうやって殺そうか……? 骨を一本一本折っていくか? それとも握りつぶすか?」
「なんで……あなたはなんでこんなことをっ!」
その銀花の言葉に矢神孝治は答える。
「愚問だな、楽しいからだ……よッッ!」
「心銀ッ!」
矢神孝治の蹴りを何とか心銀でガードする。
「うぉお……いってぇえ、なんだよ一番めんどくせぇなぁ!」
そう言って矢神孝治は心銀を殴って破壊しようとする。
だが破壊出来るはずがない、ない……はずだった。
「オラァァアアッッ!!!」
矢神孝治の渾身の一撃で、なんと心銀が大きく凹んだのだ。
「な、なんで……!」
「残念だが、俺の能力は“絶対的な破壊”だ、どんなに硬いものでも、絶対破壊するという意志さえあればそれは破壊出来る、まぁこんな姿になるのは俺もちょっと不本意だけどよ、楽しいから良いよなッッ!」
矢神孝治はそう言って心銀を破壊した。心銀は粉々に砕け散り、欠片が地面に落ちた。
「どうした? 壊れないはずの壁が壊れて絶望したか? ハッハッハ、笑わせるな、絶望ってのはもっと、もっともっと……美しいものだ、嗚呼……絶望は美しい! お前にも絶望を見せてやろう!」
矢神孝治はそう言って、一歩一歩ゆっくり銀花に近づく、まるで絶望が迫ってくるかのように。
登場人物
十神銀花
笹木美緒
八田成之 (ハチ)
待田優人
矢神孝治




