第四章『後悔』 第五章『現実』
連作の詩『高校』の第四章・第五章です。
第四章は試験より前。五章は試験後です。
五章の「会議」とは、生徒の出願先を審議する会議のこと。
センター試験の結果を、教室で自習していた数人のクラスメイト達と話し合ったとき
私も結果は悪かったのですが、予想外に皆の結果も悪く、ショックを受けました。
実を言うと、この連作はすべて高校三年生の受験期に書いたものです。
小説を書いたり読んだりするのを我慢する代わりに、どうしようもなくたまった想いのはけ口として、書き始めました。半分日記のようなものかもしれません。
どうしてものときは思いっきり感傷に浸って書いて、書き終えたら切り替えて勉強していました。
教室全体が息苦しくて、負けてしまったかのような空気に包まれていました。
あの日のことは、二度と忘れられません。
『後悔』
振り返れば 12月があり、11月があり、10月があり・・
去年と何も変わりはしない
ノートには数字と文字が 捨てられたように散らかっているが
それが何になるのだろう
試験のたったの一日で 世界はきっと大きく崩れる
きっとそこに音はない、目に見えるものではないが
膨らんだ偽物の不安が
飾られた空虚な自信が
ほろほろと崩れ落ちる
すべて落ちたら何が残るか
ただそこに在るだけの 過去が残るか
『現実』
ごみ箱に捨てられた過去問
だれのだろう? 私が行きたかった大学と同じだ
出願すらできないなんて
ああ この人は受かるんだろうなと思っていた人が
ことごとくセンターで落ち
こんなものなのか
友人の赤くはれた目が 痛々しくて見ていられない
誰より頑張っていたあの子も あきらめたと
どうしようもないものを はじめて前にした
動かない壁が 私たちを囲い込むような
先生たちの中にはきっと かつて志望校に落ちた人もいる
どんな気持ちで 会議の結果を告げるのだろう
私はいつか、応援する側になる
生徒の未来を、私の過去を手に入れるため
やめておきなさいと、もっと安全なところにしろと
何度その言葉を紡ぐだろう
それでももう二度と、こんな景色は見たくないや
センター試験の日は、バスの運転手さん、選挙の人、いろんな人が「頑張って」と言ってくれました。まるで、私たち受験生のことを皆が応援してくれているような気持ちになりました。あの日だけは受験生皆が勇者になったような気分でした。
いつもは私も外から見ていたのに、今回は自分が中にいる。「解答速報」や、問題に対する感想が、自分たち受験生という囲まれた世界の外から降ってくる。私たちは先に問題を知っていて、学校や塾の先生が時計とにらめっこしながら情報を待っている。そう思うと少し優越感のような気持ちも沸いてきたり、いろいろなひととのつながりを実感したり、逆に他人同士の気持ちの隔たりを感じたり、複雑な気持ちでした。
試験が終わった時、泣いている子とそうでない子と、くっきりとわかれて
さっきまでみんな同じ問題を共有する仲間だったのに、変な感じがしました。
終わったことにはひとまずほっとしつつも、一日目の帰りには選挙か何かのチラシを配っている人に「お疲れ」を言われただけに、二日目の帰り道には誰も「おつかれ」を言ってくれないのが少し寂しく感じました。