ミルクの匂いはやわっこい
日程 、六日目 。
行き先『土』世界。
「どうしたの、ケイトくん。元気がないね」
「ん、だって僕、ツアーコンダクターなのに、あんまりちゃんと仕事できてないなって思って」
「そんなことはないと思うけど」
「なかなか観光地に連れていってあげられなくて。その世界世界で、僕の形態が変わっちゃうから、全然、思うように観光できてない」
「でも、『火』世界の『滝のようで滝じゃない大瀑布』も見せてくれたし、『木』世界の『空を持ち上げる大樹』にも案内してくれたし、」
「……うん」
落ち込んでいるケイトを元気づけてあげたくて、私は大袈裟なくらいに言った。
「すごくすごく楽しいよ。ケイトくんが色々変わっちゃうのも、次は何になるのかなあって、楽しみにしているくらい」
「そう?」
「うん、私、どんなケイトくんでも、」
おっとと、と一拍置いたら、ぱあっとケイトの顔が明るくなった。その顔を見て、私は急に恥ずかしくなって、言葉を飲み込んじゃったけど。
「どんな僕でも?」
「えっとお」
「んー⁇」
ケイトのニヤニヤ顔を両手で挟む。ポヨンとほっぺで手が跳ねて、そっとその柔らかい肌に着地した。
ケイトは今、人間でいうところの1歳くらいの赤ちゃんだ。
というより、普通に人間だ。
「可愛い」
柔肌の頬を撫でる。
ケイトは頬を真っ赤に染めると、私の手にそっと小さな手を添えてきた。
「まふるちゃん、あったかい」
ふふ、と笑うと。ふふ、と笑い返してくれる。
顔のないアメーバーでも好きだったけれど、こうして顔があると、その笑顔が胸の奥に染み込んでくる。
柔らかい。
何もかもが、柔らかく。
私は両腕を伸ばして、ケイトを抱っこした。ミルクのような甘い匂いがふわっと鼻の奥へと届く。
横向きに抱っこすると、赤ちゃんケイトが身体を丸めて、私の腕の中にすっぽりとハマった。
「ふふ、私の赤ちゃんみたい」
けれど、急にケイトが困ったような顔をした。
「赤ちゃんだって⁉︎ 僕は恋人でしょ⁉︎ もう週末だっていうのに、こんな姿になるなんて‼︎ まふるちゃんに手を出すことができないじゃないかっっっ」
ふんっ、という顔を見て、私が大笑いしたことは言うまでもない。