異世界はゴリラが多い
あまり引き延ばすようことでもないで、この「異世界」についてちょっとばかり説明しようと思う。
只いざ説明するにしても、この「異世界」は正直なかなか複雑だ。
別段、ゴブリンやエルフがいるようなふぁんたじーな世界でも、車が空を飛んでマイクロチップが脳に埋め込まれているSF染みた世界でもないのだが、それでもやっぱり複雑なのである。
「前」にいた僕の世界と文明レベルは同じだし(テレビもネットもあるのだから僕に不満はないのだけど)、国の数や名前が変わっているわけでもない。この「異世界」で、僕がこの生まれた国は「前」と同じ「日本」だし、僕の名前は「鈴木圭」というこれまた純日本人の名前である。
僕も、この「異世界」に生まれたばかりは「前」と同じ世界に生まれたのだとばかり思っていた。が、それでもやはりここが「異世界」であるのは、決定的に「前」と違う基準で世界が定まっているからである。
それが男女の存在だ。
この「異世界」で、「男」とは胸におっぱいがついていて、股にはちんこがついていない。声は高いし、体毛は薄く、要するに「前」の世界で生物学的に女と分類された生き物は、この「異世界」では「男」なのである。
それでもこの「異世界」の「男」は呼び方だけが逆転しているというわけでもなく、完全に「前」の女と同じというわけではない。
「男」は性欲が強く、下品な言い方をすれば「濡れやすい」。異性に対して精神的な繋がりよりは肉体的な繋がりを求める傾向にあり、要するに学校にはエロ本を持ち込み、家では一人で猿のようにその性欲を発散する。
「また、男子がエロ本持ってきている!」
「ほんっと、男子ってサイテー!」
という非難の声をかけられるのが、誠不可思議にも、見目麗しい「前」の世界での女性たちというのだから、もう何が何だかわからない。
そしてこれまた不思議なのだが、この「前」の世界で女であった「彼ら」の性質が「男」になったからといって、その全てが全て逆転しているというわけでもなかった。
「男」が基本的に着る衣服については、前の女性たちと変わらない。
ブラジャーはつけるし、パンツは女物だし、学校の制服は基本的にスカートだ。
セックスアピールも「前」の女性と変わらず、胸と尻は大きければ大きければいいし(異論はあるのだろうけど、今回個人の性癖を語るとそれだけで話が終わるので置いておく)、美的感覚も「前」の世界とそう変わらない。
ただ、「前」の世界での「可愛らしさ」はこちらの「異世界」での「格好良さ」であり、「女らしさ」は「男らしさ」に代わり、「美少女」は「イケメン」なのだ。
一旦、この「異世界」についての「男」を説明させて頂いて、正直頭がこんがらがるかと思うのだが、更に意味が分からないのが、この「異世界」の「女」たちである。
「彼女」らは僕からすれば、まさしくエイリアンだ。
先ほどの「男」の説明で、勘が悪い人間でも恐らくこの「異世界」での「女」とは、股にちんぽがついている「前」の世界の男を基準に、女の性質を受け継いだ生命体なのであろうことは想像に容易いだろう。
それは間違いではないのだが、それだけでは少々不十分である。
何も好き好んで「女」の話をしたいわけではないので端的に、かつ平易に言わせてもらえれば、この「異世界」で「女」のほとんどはゴリラである。
ちょっと悪意が滲んだのでもっと簡単に言わせてもらえれば、要するに筋肉マッチョなのである。
この「異世界」ではどうやら「女」にだけ効果のある「空気プロテイン」が存在するらしく(別に学会で発表されているわけではないが)、「彼女」たちは「前」の男と比べると一昔前の不良漫画に出てくる番長のようなガタイの良さであり、実に「男」からして「豊満」なのだ。
そして「男」について説明した通り、女性性がこの「異世界」では「男性性」と受けとめられるが為に、こちらでは眉毛濃い、体毛が濃い、筋肉がついている、身長が高い、顔が角ばっている、ちんこがでかい、というのは非常に「愛らしく」「美しく」「エロい」のである。
ゴリラ大繁殖の理由がお分かりだろうか。
僕の通うこの学校はどうやら「女性偏差値」が高いようで、身長180センチをザラに超えるような巨人どもが、「空気プロテイン」で「前」以上に鍛えられたその筋肉を惜しげなく披露し、チラ見えするその胸筋からはゴワゴワとした胸毛を生やし、見事な上腕二頭筋は熱帯雨林のようで、その顔は世紀末から抜け出した修羅どもなのである。
そしてその修羅共が「前」の女性のような言葉遣いと振る舞いで話しかけてくるものだから、僕の「異世界」生活は高校に入ってからというもの、毎日が罰ゲーム状態なのであった。