第一話 愚か
「起きてください! 斗茂矢さん! 起きて!!」
「んー? ここどこ?」
白いベッドの上だった。
「どこって、私のベッドの上てす!!」
そう言えば、エミリーのベッドの上で寝たんだっけ。 結局もとの世界には帰れなかったのか。
「今日は朝から魔法やりますよー!」
「元気だねえ。」
「お風呂に入ってきます。」
まだ起きたばかりのはずなのに、彼女は走って風呂場へいく。
「開けないでくださいね。」
開けるわけがないのに。
早く魔法を習いたい。
「斗茂矢さーん! 私の部屋の棚から洗顔セットとってくださーい!」
「わかった。」
彼女の部屋の棚は三段で、一段目を開けた。そこには大きな救急箱が入っていた。
二段目は、小物だった。
三段目に、洗顔セットらしきものが入っていた。
「入っていいですよ? 全裸ですが。」
彼女は笑いながら言う。
「遠慮しとくよ。」
「じゃあおいといてください。」
「はい。」
暫くして、彼女が風呂を上がった。
「斗茂矢さんも入っていいですよ?」
流石に彼女が入ったあとの風呂に入るのは、遠慮しておくか。
「いいです。」
「気持ちいいのに。 今日の夜は入ってくださいね。」
「うん。」
入らないから着替えたいが、着替えがない。 どうする、俺。
「ちょっといいかな。」
「何ですか?」
「お金、貸してくれないかな。」
紳士としてこんなことを聞くのは恥だが、着替えを買うにはこれしかないのだ。
「着替えのお金ですか?」
「うん。」
「じゃあ私が選びます!!」
俺等は町の服屋に来た。
「これもいいですねー。 これとかどうですか?」
彼女の感性は素晴らしい。彼女が選んだ服のどれを着ても自分に似合っているのだ。
「じゃあ、これにしようか。」
「お金は私が出します。」
「着ていってもいいかな。」
「いいですよ。 毎度あり!」
俺は、この世界のメジャーなファッションといわれる服を着ている。
とてもいい服で、涼しい。
「じゃあ魔法やりますよ! 公園へ来てください!」
公園へいくと、彼女が杖を持っていた。魔法の杖かはわからないが。
「じゃあ、これやってください。」
途端、彼女が杖を振った。すると、小さな炎が発生した。
「できます? やってみてください。」
できるわけがない。そう思いながら彼女から杖をもらい、同じことをやると、大きな炎が発生した。
「やばい!」
「私に任せて!」
彼女が炎に手をかざすと、だんだんと炎が弱まってきた。
「ありがとう。」
「斗茂矢さんは、魔法を使えるので、今日の反乱に一緒に参加しましょう。それでお金が貰えるので。」
それで傷だらけだったのか。なるほど。
「じゃあ、参加するわ。」
「それでは他の魔法もやります!」
「おけ」
「じゃあこれ真似してください。」
彼女が手を前にかざすと、青白く透明な盾が現れた。
「この盾は、帝国軍の攻撃をほとんど防ぐことができるんですよ。」
俺も真似してやってみる。
勿論、何も出てこない。
「ああ、ジョブントだった。
ちょっと待ってください。」
彼女は杖を俺に向かって振る。
俺は一回不思議な感じになったが、それは一瞬で、すぐにもとに戻った。
「もう一回やってみてください。」
もう一回、同じことをした。 すると、彼女が出したのと同じ、青白く透明な盾が現れた。
「やった! できた!」
「もう、斗茂矢さん子供みたい!」
「いやあ、少し取り乱した。失礼。」
こうして俺は楽しく魔術を教えてもらったのであった。
やがて夜になった。
エミリーは、鎧などの装備をしている。
「あ、私のお下がりでよければ、斗茂矢さんの分もありますよ。」
もちろん、もらう。死にたくないから。
「じゃあ、行きますよ。」
「うん!」
俺は、今日、闘う。比喩ではない。
勿論、物理戦なんてできないので、魔術で遠距離で攻撃をする。
戦場へ来た。
最前線では、反乱軍の兵士が戦っている。
炎の矢などが、飛んでくる。
「早く前行きましょう!」
彼女は走って出て行く。
「食らってください!! 炎攻撃!おりゃーです!!」
「ぎゃー!!」
「うわー!!」
「助けてくれー!!燃えてるぞー!!」
女性だけに戦わせるのは駄目だ。 そう思った俺は、もう我慢ができなかった。
ただ、今は反乱軍が優勢だ。
そんなことも気にせず、俺も炎の攻撃を仕掛ける。
かっこよさ重視で、即興で技名を作る。
「アルティメットビッグファイアー!!!」
さっき教えてくれた魔法で大きな炎を発生させる。
「あ゛ーー」
「うぎゃー」
「熱い!!熱いよぉ〜!!!」
敵の悲鳴が聞こえる。
これが俗にいう、地獄絵図だ。
炎が燃えていたり、剣が体に突き刺さっていたり。そんな状況だ。
どうしてこんな状況になっているのか。 俺にはわからない。
決められた道を進む2Dアクションゲームのように、決められたように従っておけばいいのだ。 俺の家ではそういう教えだった。 だから、学校でも何でも、全部言われた通りやっていた。
俺もこの教えに反感は無い。
だから俺にはこの状況が理解できない。
でも、この世界の人間は戦っている。
わざわざ死ににいっている。
戦えば戦うほど、帝国側を怒らせて、死人がふえるだけだ。
俺からしたらこの世界は愚かだ。
そんなことを思っていたら、俺はいきなり地面に倒れた。
生きている人間は勝手には倒れない。
恐らく、今の状況で俺が思う限りだが、俺は頭か心臓を弓か何かで撃たれたのであろう。
思えば短い命だった。
まだ俺には夢があった。
でも異世界で死ぬなんて。
俺はこの世界以上に愚かだ。
そんなところで、俺の意識は途切れた。