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夢、覚め来たれば

作者: 黒冬 如庵

 鬼が、笑った。


 殺し尽くしたはずだった。

 心のひだの奥底に至るまで。


 殺し尽くしたことを彼自身が信じなければならなかった。

 透徹したまなざし、あの見透かすようなまなざしから隠しおおせるとはとうてい思えなかった。

 だから、殺した。

 殺しながら生き続けてきた。

 その亡骸は、黒い澱となって奥深いどこかに雪のように降り積もってゆく。それは暖かな春が来ても、燃えさかる夏を迎えても決して消え去ることはなかった。


 降り積もる。


 母が殺されたと知らせが入った。

 時間はかかったが、最善の結果が出せたと確信していた直後だった。本来ならあり得ないはずの結末。


 黒い澱が、吹雪のように吹き荒れる。


 何もかもを犠牲にしても耐え続けた。守るべきものがまだ残っていた。苦労をかけた母を失ってなお、貧しい時代を支え続けてくれた妻を思えば耐えられた。


 その妻も疲れ果てて逝ってしまった。


 なぜ、こんなにも奪われるのだろう。黒い雪原に足を取られながらよろばうように進む人生がそこにあった。そう思ったとき、殺し尽くしたはずの鬼がどこからともなく現れた。そして、笑いながらささやいた。


「なぜ、おまえだけが苦しむ?苦しむべきはかのものであろうに」


 笑いがこみ上げてきた。血を吐く発作のような、止めようもない狂笑だった。


 笑い続けた。


 熱に浮かされたように笑い続けた後、唐突にそれは去った。嵐の収まった黒い雪原を、血のような紅い月が煌々と照らす。


 いいだろう。今度は俺が奪う番だ。この飢えと乾きを存分に返してやろう。後のことは……まあ、何とでもなるさ。


 心の底からこみ上げる思いを口に出す。


「敵は本能寺にあり!」


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小ネタで、初投稿。

ひねててスイマセン。


ちなみに人質の母親が殺されたというのは後生の創作だそうです。

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