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さっちゃんと夏  作者: 沢井 比呂
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さっちゃんと大悟2

 早矢香は朝から軒先のベンチで本を読んでいた。本も終わりにさしかかっていた。

「さっちゃん」

 大悟の声がした。

「昨日のことが気になってさ、何か進展はあったかい」

「私も気になっているんだけど……」

 ほどなくして奈央がやってきた。晴れやかな表情だった。

「昨日はありがとう。おかげでうまくいったわ」

「もう大丈夫なの」

「私が死んで以来、閉め切りだった窓を安弘さんが開けたの。たぶん立ち直ってくれると思う」

 奈央は早矢香にそっと耳打ちした。

「お祭りの晩に、大悟君に言いたいことがあったんじゃないの。ちゃんと想いを伝えておかないと、きっと後悔するわよ」

 早矢香は頷いた。

「人生どうなるか解らないし、良いタイミングも少ない。だから、想いを残さないようにしっかり生きてね。それじゃあ、二人とも本当にありがとう」

 奈央の姿は夏空に消えていった。

「さっちゃん、凄いじゃないか。こんなふうに困っている人を助けることができるなんて。『特技が無い』なんて言ってたけれど、全然そんなことないよ。目標だって大丈夫。まだ高校一年生だろう、心配しなくてもきっと見つかるさ」

 大悟は早矢香の目をまっすぐに見てそう言った。

「大悟兄ちゃん、ありがとう。私、自分の力で人のために何かができるって解った気がする」

 早矢香は素直な気持ちで、その言葉を言えた気がした。

「俺は別に何もしてないよ。それじゃあ、俺は帰るよ」




 しばらくすると早矢香は読んでいた本をぱたりと閉じた。明日はもう東京へ帰る日だ。

 早矢香は自分の大悟に対する気持ちにはっきりと気づいていた。奈央の言うとおりだ。人生どうなるか解らないし、想いを伝える良いタイミングも少ない。早矢香は今こそが、そのタイミングだと思った。この夏に想いを残しておくなんて事はできない。

 早矢香は隣の大悟の家に駆け込むと、玄関の呼び鈴を鳴らした。

「大悟兄ちゃんいますか」

「俺だけど、さっちゃん、何か用かい」

 大悟が玄関から出てきた。早矢香は真っ赤な顔をしている。

「あの……。大悟兄ちゃん、大事な話があるの」

(了)

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