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さっちゃんと夏  作者: 沢井 比呂
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さっちゃんと大悟

 夏の激しい通り雨がまるで嘘だったかのように空は青く晴れ渡っていた。少し傾き始めた太陽が地面を灼き、道路のアスファルトからはかげろうが立ち上っている。その向こう側には延々と続く山並みが揺らめいて見えた。

 お母さんと一緒に東北にあるおじさんの家にお盆の帰省をしている早矢香さやかは軒先のベンチに座って本を読んでいた。その姿を熱心にスケッチをしている背の高い少年は、隣の家に住んでいる二つ年上の幼なじみの大悟だいごである。大悟は美術大学の受験が来年に迫っていた。

「さっちゃん、疲れてないかい」

 大悟が柔和な笑顔で早矢香に声をかけた。

「大丈夫、私は本を読んでいるだけだから。それにしても大悟兄ちゃんは、絵を描くっていうはっきりした夢があってうらやましいな。私には特技らしいものも無いし、目標なんか全然見つからないよ」

 早矢香は下を向いた。

「その本、おもしろいかい」

 やや、間を置いて大悟が尋ねた。

「別に。夏休みの課題だから読んでるだけだし」

「そうだよな、宿題は面倒だよな」

 大悟は一人で頷いた。

「大悟兄ちゃんこそ、受験の勉強の対策しなくて良いの」

「気分転換だよ、ずっと机に向かっていても効率悪いし。それに実技の方が配点が多いから、とにかく描かないとな」

「あっ、そう。それならいいけど」

 早矢香はつれなく答える。小学生くらいまでは母の実家に帰省するたび、大悟がかまってくれるのがうれしくてしょうが無かったのに、ここ何年かはこんなぎくしゃくした感じだ。そういえば、小さな頃から一緒に絵を描いたり工作をしたりしたっけ、そのおかげで夏休みの自由研究には一切困ることがなかった。

「明日の夏祭り、さっちゃんも一緒に行くだろう」

 大悟が言った。

「わからない」

 早矢香は大悟から目をそらすように本の上に視線を落とした。

「約束だからな。あと、これあげるから」

 大悟は強い調子でそう言い残して自分の家へと帰っていった。早矢香の手元には一枚のスケッチが残された。そこには鉛筆による丁寧な筆致で、本を読む長い黒髪の少女の姿が描かれていた。

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