蝶子の中の黒いもの
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どうしてこうもうまくいかないのだろう。
姉と喧嘩した時もそうだった。
上手く謝れなくて結果姉を殺してしまった。
すべて自分が悪い、それなのに。
死んだのは姉一人だった。
病院のベッドの上で白い天井を見た時、私は絶望した。
姉の死を知ったときは、目の前が真っ暗になった。
どうして私が生きているのだろう。
どうして、姉はあの時私をかばおうとしたのだろう。
どうして、
私は謝れなかったのだろう。
後悔の念だけが私の体の中をぐるぐると渦巻いていた。
そしてその黒い塊はやがて私の中のすべてを飲み込みつくして、気づけば私は自分の喉元に刃物を当てていた。
母が持ってきてくれた果物を切るためのナイフ。
ごめんなさいお母さん。
「待ってて、お姉ちゃん……」
そして私は、二回目の殺人を犯した。
でも現実はひどく残酷でそして私に厳しかった。
私は悪魔になり果てたのだと思った。
目が覚めると私は家にいて、何もない場所で一人うずくまっていた。
姉に謝るために死んだのに、どうしてこんなに醜い形で生きている?どうしてまだ私は生きている?
どうして―――。
あぁ、そうだ。
私が向こうに行けないならば、姉をこちらに連れ戻せばいい。
気づけば私は三回目、四回目、五回目と殺人を繰り返していた。
そしてそれはやがて私の愛していた人形たちにまでさせるようになった。
もう私は罪をかぶりすぎた、汚れ過ぎた。
だからもう今更どうなったってかまわない。
ここまで来たら姉を連れ戻せるまで、なんだってしてやる。
多分、狂っていたのだ。
私ではなく、私の中の何かが私を支配していた。
ヒカリもライトもそれに狂わされてしまった。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
私の中に残ったわずかな生前の私の意識は、泣き叫んでいた。
苦しくて、こんなことは無駄だともう分かっていて、それでもなおやめられない。
「だれか、だれか私のことを、助けてくれないかな……」
血まみれの部屋でつぶやいたその一言は、きっと誰にも届かなかったのだろう。




