ヒカリとライト
まだ外から雨の音がする。
いつになったらやむのだろうか、やむ気配がない。
朝までこの館にいるのはさすがにごめんだ。
「……人がいるのに、電気つかないのかな」
もしかしたらどこかにスイッチがあるかもしれない。
残念ながらこの部屋にはどこにもそんなものは無かった。
そもそもこの館に電気が本当に通っているのかも危うい。
とりあえず暇であるし、探してみようかと腰を上げて、ロウソクを持って部屋の扉をガチャリと開けた瞬間、
二体の人形が愛花の胸に飛び込んできた。
「うわわ、あ、あぶなっ」
間一髪、軽く尻餅をついただけで済んだ。
ロウソクの火も無事だ。
愛花の上には二体の人形。
「逃げてください!今すぐ!」
状況が呑み込めないまま人形がそう話し出す。
人形が話し出したことにもびっくりなのに、更に逃げてと言いだすんだから何事だ。
「今すぐっていうか、とりあえずここは危なくて!!」
女の子の方の人形が必死に愛花の服をぐいぐいと引っ張りながらあわあわとしている。
どうしたらいいのだろう、と愛花は困惑した。
「ヒカリ、多分、もうすぐご主人来ちゃう」
「う、うそ、と、とにかくこっち!」
女の子と男の子はぴょんっと愛花の上から飛び降りるとこっち!と叫びながら部屋から出て行った。
ついていけばいいのだろうか。愛花も慌てて部屋を飛び出す。
人形はとんとんとんと器用に両足で階段を飛び降りていく。
愛花もそのあとに続いた。
後についていくと人形たちがその場で立ち止まってぴょんぴょんと飛び始めた。
「……届かない」
どうやらドアノブに手が届かなかったようだ。
愛花はしょうがない、とつぶやいてすっと手を伸ばして扉を開けた。
「ありがとう」
女の子と男の子は開いた扉の部屋に入っていった。
コンロや大きめの冷蔵庫がある。キッチンのようだ。
だが残念ながら食材のようなものなどは見受けられない。
「あ、あのね、急に、びっくりさせて、ごめんなさい。でもね、危ないの、今」
女の子のほうが舌っ足らずに謝罪をする。
「……僕はライト。こっちはヒカリ。愛花さんを逃がすために来た」
その隣に立っていた男の子、ライトが自己紹介と説明を淡々とやってくれた。
女の子、ヒカリは私が言おうと思ったのに!と少し頬を膨らませた。
「……逃がすって、どういうこと?ここはそんなに危ないところなの?」
愛花がそう尋ねると、ヒカリが少し言いずらそうにしながらも口を開いた。
「あのね、事情はちゃんと言えないけど、ご主人、蝶子ちゃんのことね、少し……危なくて、この館にいたら……その」
うぅ、と挙句の果てにヒカリは口を閉じてしまった、
ライトが何かを察したように口を開く。
「愛花さんは死んでしまうかも。ううん、殺されてしまう、かも」
恐ろしいことを顔色も変えずに言う。
可愛らしい顔をしているから余計に不気味だ。
それに、あの少し感情の起伏は少なそうだが、優しそうな少女が人を殺すと思えなかった。
その時、上の階からバタンッと勢いよく扉の閉まる音と何やら女の子の叫ぶ声が聞こえた。
「いたずらがばれちゃったみたいねライト」
「そうみたいだねヒカリ」
「愛花さん」
「気を付けてね」
ライトとヒカリはそう交互に言うとキッチンの奥にある部屋に入っていってしまった。
本当にあの少女なのだろうか、にわかに信じがたい。
私はどうすればいいのか、と困惑していたときバタンッとまた大きな音とともに扉が開いて、蝶子が入ってきた。
どうやら、あの二人の言っていたことは嘘ではないらしい。
あぁ、逃げなければ。