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書斎と人形

トントントンと部屋の中央にあった大きな階段を人形を抱えて上って行く。

薄暗い館の中はなにか洋画の中に出てきそうな不気味さを醸し出しており、一歩一歩進むのですら恐怖だった。

出られないものは仕方ない。あの扉を開ける鍵を探さなければならない。

歩くたびにローファーの踵の音がコツコツと響いてドキリとする。

それくらい何の音もしないのだ。

外は豪雨のはずなのに、その音すらしない。

そもそも館の中にあるカーテンがすべて閉めきられており、外の様子がうかがえない。

恐怖でグッと腕に力をこめると、


「いたっ」


とまた腕の中から声がした。

まさかこの人形が喋っているのか、と顔の前に持ってきても人形はピクリとも動かない。

不思議だ。なんだ、この人形には幽霊でも入っているのか。

それとも、この人形の持ち主が腹話術かなにかで喋っているのか。


いや、それにしては人の気配がない。

自分以外に他の人がいると思えなかった。

そのくらい静かで、どこかで人が動いたらきっと気づくだろうと思ったのだ。


そうこう考えているうちに、開いている扉に出くわした。

恐る恐る扉を開けてロウソクで照らす。

どうやら書斎のようだった。

大きな棚が六つほど並んでおり、その真ん中にはテーブルとソファといういたってシンプルな部屋だった。

テーブルには写真立てと、枯れた花がさしてある花瓶があった。

花びらは茶色く変化してテーブルの上に落ちており、もう何か月も前から放置されているようだった。

写真立てもほこりをかぶっていた。

ぱっぱとほこりを払うと、白いワンピースを着た女の人が立っている写真が現れた。

綺麗な人だなぁというのが素直な感想だった。


残念ながらテーブルの上にも引き出しにも鍵はなく、本棚にはないか、と探索を始めた。

本棚はところどころ空いていたり、本が横向きで積み重なっていたりと、この館の住人はずいぶんズボラなようであった。

最後の棚になって、やっぱりこの部屋にはないのか、と思い始めた時、鍵ではないが、なにかがひらりと本の隙間から落ちてきた。

これもまたやはり写真であった。

しかしさっきの写真とは違い、家族写真だった。

両親であろう男女と、先ほどのワンピースの女性とその妹らしい黒髪のショートの女の子が制服を着て立っていた。

全員が笑顔で、とても幸せそうだった。


それがどうして、こんなに廃れた場所になってしまったのだろうか。

それとも、この家族は全員――――。


かたん。


扉の方で音がした。

考察に意識を集中していた愛花の肩が思わずびくりと跳ね上がる。


また人形がある。今度は男の子の人形だった。

大きさはさっき拾った女の子の人形と同じくらいで、目の色も髪の色も一緒で、まるで姉弟のようだった。服は緑のジャケットに白のシャツ、黒いズボンを履いていた。

なんとなく連れて行かなければいけないような気がして、もう一体の人形も抱えた。


残念ながらこの部屋には鍵はなかった。

パタンと行儀が悪いと知りながらも足で扉を閉める。

両手がふさがっているのだ。

しょうがない、とまたコツコツと踵を鳴らして廊下を歩き始めた。

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