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俺の部屋の台所を、  作者: 水色うさぎ
その後の二人
8/13

麻婆豆腐すら甘くなる(前)



 私の親友である田中圭は、男運が悪い。いや、違うか。男を見る目がない。

 何故学習しない!? と見ているこっちが頭を抱えるぐらいに、そこに惹かれちゃ駄目でしょう、という男にばかりひっかかる。

 いわゆるダメンズウォーカーに近いかもしれない。あくまでも、近い、だ。

 そのものでないのは、あれは駄目と分かっていても好きになってしまうのに比べて、圭の場合は駄目と分からずに好きになるから。

 就職して知り合った相手なので、学生時代に何かトラウマでもあるのかと心配したけれど、そういうこともなかった。ただ、怖いもの知らずのお人よしではあったが。そうでなければ、言葉のキツイ(自覚ぐらいありますとも)私の友人なんてやってない。

 つまりは、愛されて育った、いいところのお嬢さんなのだ。

 年齢どうこうではなく、悪意と縁遠い人生を送ってきたのでそれに鈍感なところが。

 それを見て汚したいと思う男も、守りたいと願う男も、己の腹黒さをつきつけられるようで嫌だと感じる女も、癒される女も、多種多様に存在する。

 そんな圭のいいところ(?)は、駄目な男に依存せずにちゃんと自分を持ち続けるところだ。そうでなければ私もここまで友人付き合いを続けられない。

 そんな圭に、新しい恋人が出来た。

 始まり方がいつもと違っていたので少し期待はしたものの、安心は出来なかった。

 だって圭だから。

 約十年程度の付き合いだけど、何度も傷ついて泣く姿を見たら、そりゃあ心配にもなる。





「ようやく名前で呼んでもらえたの」

 そんな報告を聞いて、別の意味で心配になった。

 あんたね。それ、三十になった女の恋愛話じゃないから。イマドキの中学生のほうがもっと先に進んでるから。

「……へぇ、そう。良かったわね。お返しに名前で呼んであげたら?」

 本日の昼食は、会社に出張販売にきているお弁当屋さんで購入したものだ。四一〇円也。凄く美味しい訳ではないけれど、不味くもない。外に食べにいくともっと美味しくても倍以上のお金がかかるのを考えるとワンコインでお釣りがくるのはありがたい。

 いつものごとく空いている会議室を使ってのランチタイムは、他人の視線がないだけでリラックスが出来る。同じことを考える人は多いのか、両隣からも女性グループの会話が盛り上がっているのが聞こえる。

「それはストップかかっちゃった。心の準備がとかなんか意味不明なこと言ってたけど」

 何そのへたれ。

「年上の、結構強面な相手に対しておかしいんだけど。ちょっと可愛かった」

「……」

「視線そらして、耳赤くなってるの。別に名前で呼ぶぐらい、どうってことないのにね」

 おかしい。今私が食べているのは、麻婆豆腐だ。弁当屋の品書きにそう書いてあった。なのに何故こんなに甘ったるいのかしら……。理由なんて、分かり切ってるけど。

 圭があまりにも幸せそうで、そんな顔をさせる相手に興味がわいた。

「機会があったら会わせてよ」

「うん。いつかダブルデートする?」

「あー……そうねぇ……聞いておくわ」

 微妙な返事になった理由は簡単だ。

 ずっと一緒にいると、圭たちにあてられてしまいそうだから。

 こっちは幼馴染と学生時代から続いている年代もの。圭たちは今が一番イチャイチャしたいよね、な付き合い始め。テンションが違う。感想が『ごちそうさま』ならまだしも、食傷気味になりそうなのが怖い。

「恵美たちは付き合い長いよね。一緒に住んでるみたいだし……結婚しないのとかって聞いてもいいのかな?」

「うーん……年も年だから、お互い考えないわけでもないけれど……」

 相手の名前は三宅康太という。康太も私も、結婚するならこの人だろうな、と考えている。考えては、いるのだ。

 ただ……。

「付き合いが長すぎて、今さら感? 決定打がないのよねぇ。もう同棲してるし」

 家が近所だから家族ぐるみの付き合いもしていたりする。同棲にあたって、互いの親に改めて挨拶もしている。(その時についでだから結婚しちゃいなさいと康太の母親に言われたように、あの時籍をいれてしまえば良かったのかもしれない。)

 こうなると、あれ? 別にこのままでいいんじゃない? 的な。別に今と何もかわらないよね、となってしまうのだ。名字が変わると手続きとか慣れとかめんどくさいし。

 檜山恵美から、三宅恵美にかわるのには、何かひと押しが足りない。人はそれを勢いという。

「そういうもの?」

「うん」

 何かきっかけがあれば、じゃあ結婚しましょうそうしましょうとなるのに、そのきっかけがない。

 現状に不満も不自由もなく過ごせているので、どうしても結婚したいとも思えないのだ。きっと、結婚してと言えば躊躇わずに頷いてくれるだろう。でも自分から言うのもなんだか癪だ、と思ってしまう辺り、己の可愛げのなさを実感する。私の母親が『康太君を逃したらあんたは絶対結婚できないから大事にしなさい』と力説するのも頷ける話だ。

「そっか。じゃあ三宅さんに聞いてみてね」

 デート。デートねぇ。二人でスーパーに買い物に行くのはカウント外にしちゃうと、どれだけぶりだろうか。

 ……うん。悪くない。



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