最後の誉め言葉
掲載日:2014/11/20
前書きするほど、長い文面ではありません。
私は一人っ子でしたが、父親から誉められた記憶がありませんでした。…
頑固な板前だった父親は、何かと言えば母や私を叱りつけ、時には暴力を振るいました。…
私が抱く父親の印象は、ただ「恐い」でした。…
そんな父親も60を過ぎる頃、日頃の酒や煙草が祟り、肺の病気になり入院する事になったのです。
担当医からは、肺繊維症と言う病気で、余命数ヶ月と診断されていましたが、本人には告知しませんでした。
やがて病状は進行し、喉から器官を切開し、人工的に呼吸器を着ける事となった朝の事。…
私は平静を装い、父に「親父。呼吸を楽にするための治療で、暫く喉から機械を入れるけど、少しの間話せなくなるから、今のうちに何か頼みたい事とかあるかい?」と、尋ねたのです。
すると父は、暫く考えた後に …
「お前は、いい息子だった。」と言うのです。
私は「いやぁ、そう言うんじゃ無くてさ。…何か用意して欲しい物とか無いの?」と言ったのですが、父は黙ったまま首を振り、目を閉じたのです。…
私は涙が溢れました。
父は、死を覚悟していたのです。…
それから数日後、父は天国に旅立ちましたが、あの父の言葉「お前は、いい息子だった。」は、最初で最後の誉め言葉になったのでした。…
後書きするほと、長い文面でも無いでしょう。




