写真の貴方
深々と積もる粉雪。母の息絶えた身体。妹の小さな小さな手。お兄様の写真。父の豪邸。私は、今まで苦しみ耐えてきたことの意味が何処に消えたのか、一時考えた。でも答えはいつもと一緒。愛するこのドイツの国の為。ライプツィヒのがらんとした路地を私は妹を担いで頼り無い足取りで歩き続けた。妹はまだ二歳。でも、餓死した。
込み上げて来る胸を縛り付けるような想いをどこかにしまってしまいたい。そう思った。お父様はどうしているのですか?もう帰って来てください。私は何度も言った。お兄様、帰って来てください。私は何度も祈った。でも帰ってくることはこの地球が何個あっても有り得ないものだった。
路地を出ると、家が見えた。ラフィエル家の邸宅が。白く塗られた美しいシルエットが雪の中でも確かに見えた。もう蝋燭は一本も灯っていない私のいとしの家。穴の開いたブーツに冷たい水がじわっと滲んできた。寒い。
家に入るとお嬢様、お嬢様と悲しむ乳母がただ一人待っていた。
「エレンナ!!怖かったわ。私、生きて行けるでしょうか!!アンヌマリーをもあの戦いは奪いましたよ!まだ二歳だったのに。神は何故このような試練を私に???」エレンナの暖かい腕に包み込まれた。エレンナは何も言わなかった。
「ヴァイオレット様、でしょうか」ロシア鈍りの声が聞こえた。
「誰!!」私は思わず声を上げた。その声は天井まで届いた。
「失礼致しました。私は、コルパトフスキーだ。一応大佐だ」彼は深く頭を下げた。「話では聞いていましたが、お美しいですね。私の息子は今十八だがその様に若い娘さんに会わせるのも良いと思うがな」コルパトフスキー大佐はバリトン並みの声で笑った。しかし、太った人だわ。「これなんだがあってくれるかのう??」大佐の手には息を呑む程の美少年が立っていた。立っていると言うよりは写真に写っていた。「まだ今はポーランドで後片付けをしているそうだが、すぐに戻ってくるだろう」