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華の降る丘で  作者: 行見 八雲
第4章
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13.あるモノの語り。

 今回は少し短いです。



 すべてを知る者は語る。



 昔、砂漠の真ん中のオアシスを中心に、一つの国が創られた。周りを砂漠と魔物に囲まれたその国の人々は、生きていくために魔術を発達させ、やがて世界に名だたる魔術大国となっていった。

 国防の要を魔術で作り上げているその国の王には、より魔力が多く、また魔物に対応しうる属性を持つ者が選ばれていた。


 そして何代目かの王のもとに産まれた王子は、強大な魔力と光属性を有していた。その将来有望な王子の誕生に国民は歓喜し、よりいっそうの国の発展を期待した。


 しかし、その王子が生まれて二十年近くの月日が過ぎた頃、国内の貴族のもとに嫁いだ王の妹が、王子をはるかに上回るかつてないほど膨大な魔力と闇属性を有した男の子を産み落とす。

 その当時の世界においても、闇属性の持ち主は光属性以上に少なかった。そして、どちらの属性も魔物退治には効果的であったが、その国では灼熱の太陽の暑さから解放し、柔らかな安らぎをもたらす“闇”のほうが尊ばれていた。

 世界的にも貴重で、国の信仰の対象でもある“闇”属性の持ち主であり、また魔力量も申し分なかったことから、王は後継者を彼にすることにした。

 “闇”の子はその才能にも恵まれており、制御の難しいと言われている闇属性を早くから使いこなせるようになっていたことも、王の決断を後押しすることになった。


 やがて“闇”の子が十歳を迎える日、王は国民の前で後継者を発表するつもりであった。

 しかし、国民のほとんどが城の前の広場に集まり、王が城のバルコニーから次期国王の発表をしようとしたそのとき、突如として国中を囲っていた結界が破られた。そして、いつの間にか集まっていた魔物達が、砂漠からも空からもいっせいに国中に雪崩れ込んだ。


 魔物達は広場に集まっていた国民にも襲い掛かり、先ほどまでは喜びと期待に満たされていた広場は、あっという間に混乱と悲鳴に包まれ、間を置かずして国民の血で真っ赤に染まっていった。

 魔物達は国中を蹂躙し、生きている者を喰い散らかし、国の外に逃げ出した者も魔物に捕まり食い殺された。


 やがて魔物達は城内にも押し寄せ、国の騎士達も必死に抵抗したものの、凶暴な砂漠の魔物とその数の多さに、一人、また一人と倒れていく。そして最後まで魔術で魔物に対抗していた王族も、突如乱入してきた魔人の手によって殺されてしまう。

 気が付けば国内に生きているものは何もなく、道も壁も跡形もなく破壊され、水路は国民の血で溢れていた。


 そんな中、一人立ち尽くしていたのは、十歳の誕生日を迎えた“闇”の子で。その足元には彼を庇って魔人に貫かれた母親の姿。


 そのとき“闇”の子はまだ子どもであった。たとえ膨大な量の魔力を抱え、魔力の扱いに長けた天才であったとしても、未だ実戦経験のない子どもでしかなかったのだ。

 それゆえ“闇”の子は迫りくる魔物に恐怖し、降りかかる血飛沫に狂乱し、ろくに魔術を使うこともままならなかった。


 血の気を無くし立ち竦む“闇”の子に向かって魔人は嗤った。

 ――この国がこうなったのも、国民が死に絶えたのも、すべてはおまえのせいだ――と。


 そして、魔人が“闇”の子を手に掛けようとしたそのとき、“闇”の子は叫んだ。喉が潰れんばかりの悲痛と絶望に満ちた、魂を引き裂くような叫び声だった。

 その叫び声と共に爆発した闇の魔術は魔人に襲い掛かり、魔人に深く大きな傷を負わせた。それでも暴走し続ける闇の魔術に、魔人は口惜しそうに“闇”の子を殺めることを諦め、砂漠の方へと逃げて行った。


 その後も“闇”の子の叫びは長く長く続き、彼を守護していたモノはその声に慌てて“闇”の子のもとへと戻ってきた。彼を守護するモノは、その姿は見えなくても彼が産まれた時から彼の傍へといた。それが愚かにも、その時は彼のもとを離れていたのだ。


 闇の力で事態を知った守護するモノは、また魔人が戻ってきて“闇”の子を害するのを防ぐため、大きな黒い結界を張った。そして“闇”の子がこの砂漠の中で何も食べずに生きていけるよう結界の中の時を止めた。また、その間“闇”の子が寂しくないよう、ある日の国の一日の風景を、結界の中に作り出した。それはただの映像でしかなく、触れることも語り合うこともできなかったが、少しでも彼の慰めになればと守護するモノは一生懸命考えた。

 守護するモノは多くの魔力をつぎ込み、その結界を維持し続けた。いつか魔人を倒し、“闇”の子を救い出してくれる者が現れることを信じて。



 ――やがて七十年の月日が過ぎ。



 “闇”の子は生き続けた。気が狂うような孤独と寂寥の中で、我が身に起きたことの真実を何も知らされないまま。何の希望も見つけられないままに。

 ただ独り。ずっと、ずっと、独りだけの世界で。


 守護するモノは知っていた。魔人が人間であった頃の姿を。国民すべてが殺された中で、光属性を持った王子の姿が無かった理由を。

 あのとき国の結界を壊し、王族を殺し、“闇”の子を殺そうとした魔人が再びこの場に戻ってきたことを。



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